53 鉱竜戦2 金色の魔力
「状況はどうなっている、騎士団長」
騎士たちの背後から、鋭い声が飛んだ。
一瞬、その場の空気が凍りつく。
振り返った騎士たちの視線の先には、まだ若い黒ずくめの男が立っていた。
ゆっくりと歩み寄るその姿から、人の上に立つ者の風格がにじみ出る。
魔力による威圧ではない。生まれながらに備わった威厳が、その身からあふれていた。
「こ、これはレオンさま。戦況はよくありません。想像以上に鉱竜が巨大で力も強く、また獰猛です」
「侯爵令息は」
レオンはそれだけを尋ねた。
「おびき出すことには成功しましたが、その際に負傷しました。谷で足場が悪く、鉱竜のブレスに煽られたようです」
騎士団長の声は硬い。
その表情には、自らの失策を悔いる苦渋の色が滲んでいた。
「ならば私が囮になろう」
その言葉に、その場にいた誰もが息を飲んだ。
「レオンさまが?! 御身にそのような危険な役目はお任せできません」
「ことは一刻を争う!」
厳しい声が団長の言葉を遮る。
有無を言わせぬ口調に、騎士団長を含め誰も反論することができない。
「行くぞ! 配置につけ!」
「はっ!」
レオンは谷の先を見据えた。
キンと冷えた冬の冷気の中、彼方の山の稜線がユラユラと揺らめいている。
まだ鉱竜の姿は見えない。
だが、風に乗って流れてきた、焦げた木や草の臭いが鼻につく。
標的は、確実に近くにいる!
「そこか!」
レオンは大きく息を吸い込み、腹にグッと力を込めた。
「お、おい」
騎士たちが辺りを見渡した。
枯れ葉や塵が、熱に煽られるようにふわりと浮き上がる。
そして、レオンの体から金色の光が滲み出た。それは太陽のように輝き、周囲に広がっていく。
雷にも似た痺れが、肌を刺激する。
「はあっ!」
瞬間、世界が金色に染まった。
空気も山も谷も、そして騎士団の姿さえ金色の光に飲み込まれる。
目を閉じても訪れるのは闇ではない。ただ光が視界を覆う。
影という影が消え失せ、世界は光に支配されていた。
全てのものは我の前に平伏せ!
光が威圧し、強者揃いの騎士たちですら膝を折る。
グギャアアアアア!
ズシンと大地が揺れた。
巨体が踏みしめた瞬間、足元の地面が沈み、岩が砕け散る。
波のような地鳴りが谷を襲う。崖の一部が崩壊し、木々がなぎ倒された。
岩壁の向こうから現れたのは、常識を超えた存在だった。
――大きい。
そこにいたのはあまりに巨大な、一匹の鉱竜だった。
「出たぞ!」
「なんて大きさだ。まるで砦だ」
「土魔法使いは前へ! ヤツの動きを止めろ」
鉱竜は焼けた空気をまといながら、一歩、また一歩と進んでくる。
進行は、速くない。むしろ、遅いと言ってもいいほどだ。
しかし動きが鈍重なのではなく、圧倒的な力の差を見せつける、余裕の歩みだった。
騎士たちを、魔力のある餌とでも見ているのか、鉱竜はゆっくりと間合いを詰めてくる。
「ストーンスピア!」
地面から巨大な石槍が突き上がり、鉱竜を狙った!
しかしその皮膚に触れた瞬間、突き刺さることなく砕け散る。
「槍が、折れた……?」
「くっ、通りません!」
鉱竜は熱の塊だ。
生成された石槍は熱に耐えきれず、接触した瞬間に脆く崩れ去ってしまった。
「氷魔法で足元を固めろ!」
「やっています!」
鉱竜は白く凍った大地を引き剥がし、炎の足で前へ、前へと突き進む。
「氷が、溶けていく……」
火属性の魔獣に対しては有効とされる、氷魔法すら通じない――。
圧倒的な熱量だ。騎士たちの間に動揺が走る。
「こ、これが、魔食いか。通常の鉱竜とは桁が違う」
「一体――どうすればいいんだ」
騎士たちの間に焦燥が広がった。
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