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52 鉱竜戦1 決戦の地へ

 ガラガラと馬車の轍の音が鳴り響く。

 白い道を走り抜け、砂利や石が転がっている、手入れのされていない道へと分け入った。

 どんよりとした雲が空を覆い、湿り気のある空気が頬を撫でる。

 迫りくる山々は、これから起こる異変を察しているようだ。


 ギャアギャアと鳴いているのは、カラスだろうか。

 まだ朝と言っていい時間帯なのに、ねぐらを追われたのか騒ぎ立てている。

「鳥が騒いでいますわね」

「雲も目まぐるしく通り過ぎて行きますね」

 私たちはただならぬ予感の中で、ただそれらを眺めるしかできなかった。


 馬車が止まった。

 すれ違うこともできないほど細い道だ。

 片側は切り立った崖で、深い渓谷を見下ろしていた。


「ここだ」

 なぜか生温かい嫌な風が、私の髪をかき乱す。

 ドドドと響く低音が、ビリビリと足元から伝わってくる。

 滝が近くにあるのだろうか。


「こちらに魔法陣を置くんですの? ちょっと厄介ですわね」

 ごつごつとした岩が突き出ている。

 広さはあるけれど、紙を敷くには適していない。


「グラウンド・フラット」

 レオンさまの右手が光り、目の前の足場が白いモヤに包まれる。

 風が視界を開いた時に現れたのは、平らな広場だった。


「えっ!」

「呆れましたわ」

 この作戦のために地形を変えてしまったのだ。

 大胆な行いに、私はただ口を開けて眺めていた。


 レオンさまの胸元で、何かがチカチカと光った。魔法鏡だ。

「騎士団長か。どうした」

『陽動作戦中に侯爵令息が転倒、足を負傷! 囮役続行は不可能だ』

 サッと緊張が走った。

 鉱竜をおびき出し、討ち取る作戦が崩れたのだ。


 では囮役は、誰がやる?

 まさか、騎士団を束ねる第三騎士団長自ら行うのか。


「ならば、私が出る」

 レオンさまが、予想外のことを口にした。



「フランツ先生、後はお願いします」

「ここは任せなさい」

「お気をつけて」

 先生とアデレイドさまは、厳しい表情でレオンさまを見送っている。


 レオンさま? どうしてレオンさまが行くことになったの?

 彼は子爵家の次男――秀でた功績もなく、魔力が特別強いというわけでもないはずなのに!


「さ、私たちは準備を急ぎましょう」

 アデレイドさまに促され、私はハッと我に返った。

「はいっ!」

 馬車に積んだ魔法陣入りの魔法紙を取り出し、平らになった地面に並べていく。

 その上に、アデレイドさまが空の魔石を置いていた。


「こんな時のために、あの時エルツベルク家から購入したんですの」

 得意げに胸を張っている。

 何の役にも立たないとお父さまに言われていた、うちの空の魔石がこんな形で使われるなんて。

 私も少し誇らしくなった。


「補助魔法陣を、ここに置くんですぞ」

 測量器具で細かく位置と高さを割り出している。

 先生の指示のもと、配置する場所が決められた。


「補助魔法陣にもリディアさんのサインを書き込むんですぞ」

「はいっ!」

 魔法インクを使い、サインを入れる。

 岩の上で書きにくい。でもそんなことは言っていられない!


 ゴウと強い風が吹き上げた。

 よく通る、甲高いラッパの音が谷中に響き渡る。

 途端、押し潰されそうな圧が来た。


 怖ろしいほどの魔法の力だ。

 息が、できない。肺が縮こまる。

 こんな圧力は、今まで一度だって感じたことがない。


「き、騎士団長さまなのですか」

「いいえ、違いますわ。これは――」

 王族の金色の光が広がり、辺り一面を飲み込んだ!

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。


よろしければ、続きを読んでいただけると嬉しいです。

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