48 鉱竜の痕跡
「お帰りなさいまし。鉱山はどうでしたの?」
学院に戻り、フランツ先生の研究室に寄ると、アデレイドさまもいらしていた。
「素晴らしい成果が得られました。こちらをご覧ください」
私はバッグの中から火の魔石を取り出して、テーブルの上に置く。
「ほうこれは! 最高級の魔石にも匹敵する品質ですな」
フランツ先生がレンズを取り出し、顔を近づけて魔石を見る。
ふんふんと言いながら重さや大きさを量り、しきりに感心していた。
「ええ、温泉の熱量が豊富だったのがよかったようです。学院のお風呂場とは段違いでした」
褒められたのが嬉しくて、私は少し照れながら報告をする。
こんなにすぐに魔力が得られる場所が見つかるなんて、とても嬉しかった。
「それだけではありませんでしょ?」
そっとアデレイドさまが近づいてきて、耳打ちする。
「レオンさまといい雰囲気に見えましたわよ」
「えっ、それは……」
私は思わず口ごもった。
チラリと視線を向けると、レオンさまはフランツ先生と話している。
場所や施設の報告だ。
私は慌てて取り出したハンカチで、赤くなった頬をそっと隠した。
「なんですと? 魔法陣で火ネズミが弱った?」
「はい。火の魔石に力を蓄えるための魔法陣は、火属性の魔獣にも影響を及ぼすようです」
レオンさまが報告している。
それは魔法陣を作り上げた私たちにも予想外のことだった。
「風呂場の湯が冷えていたため思いついたことでしたが、火ネズミで試して確信が持てました」
「あら面白いことをされたのですわね」
アデレイドさまが興味津々の顔で口を挟む。
「私にも試させてくださいませんこと?」
試す?
一体それはどういうことだろう。
言葉の意味を測りかねて、私は頬に手を当てていた。
「簡単ですわ。魔法陣をお借りしてもよろしくて?」
ニコリと笑ってアデレイドさまは魔法陣を手に取った。
外に出て、踏み固められた土の上に魔法陣を置く。
空の魔石も添えてから、少し離れた場所で呪文を唱えた。
「ファイア」
アデレイドさまの指先に、ロウソクのような火が灯った。
赤い炎はゆらりと揺れて、確かにそこに存在した。
「あっ。消えた」
フッと風に吹き消されるかのように見えなくなった。
代わりに魔石の中に光が生まれている。
と同時に、アデレイドさまの膝がガクリと折れた。
「アデレイドさま! 大丈夫ですか」
私は慌てて傍に寄り、その体をしっかりと抱きとめる。
すぐにアデレイドさまは気を取り直し、転ばないよう足で踏ん張った。
「ちょっと……力が抜けましたわ。そこまで影響はないんですの」
もういつも通りの様子だ。
アデレイドさまは全属性が使えるから、火の魔法陣の影響はそれほどでもないのかもしれない。
「面白いですわね。魔法陣に向かってスウッと力が流れていく感覚でしたのよ」
さすがエネルギーに造詣の深いアデレイドさまだ。
こんな時でも興味を失っていない。
「やはり……そうか。火属性魔法使いも影響を受ける。そうなると……」
レオンさまは何事かを呟いている。
私は地面にあった魔法陣の紙を回収して丸めていた。
「火ネズミと、火の魔法使い。空っぽの魔石」
私もその関係について考える。
魔法陣を通して魔力が移動する――。
「私の魔法が、魔獣にも、それに人にまで影響するなんて」
「た、大変です。エルツベルク家から使いが来ました」
事務員の方が駆け込んできた。
傍にはよく見知った顔の使用人が、息を切らして膝に手をついている。
「どうしました」
私はサッと青ざめた。
事故か、魔獣の襲撃か。
それとも他に悪いことが起きたのか。
「エルツベルク領を調査していた騎士団からの報告で、こ、鉱竜の痕跡が見つかったと」
「ええっ。鉱竜って、ドラゴンの鉱竜?」
そんなものは見たことがない。
遥か彼方の山奥で、冒険者が見掛けたと言っていたのを聞いたことがあるくらいだ。
「足跡と、鱗を発見したそうです」
私たちは互いの顔を見合わせた。
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