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45 魔力吸収

「リディアさん、印刷した魔法陣で魔石に魔力が満たされたって本当ですの!」

 フランツ先生に報告した翌日、アデレイドさまがやって来た。


「私も聞いた。見に行こう」

 レオンさままで顔を出す。

 そうして私たちは、風呂場のポンプ室へと向かった。


「おっかしいな。装置に異常はねぇ」

「しかし、湯の温度が上がらないとは、源泉に何か問題が起きたのか」

 ドアを開けると男性が二人、話し込んでいる。

 管を棒で軽く叩き、ポンプ室の点検をしているようだ。


「なにかありましたか」

 レオンさまが尋ねてくれる。

「ああ、風呂の湯の温度が上がらねぇんだ」

 髪の短い男性が肩をすくめている。


「どれ」

 レオンさまは風呂場へのドアを開け、流れ出るお湯に手を翳す。

 そして湯船の湯をかき回すと、腕を引き上げハンカチで拭っている。


「確かに。風呂というよりまるで水だ」

「これじゃあ入浴することもできねぇな」

 男性は腕組みをして唸っている。


「源泉を確認してきたが、温度はいつも通りだ。こんなにぬるい理由がない」

 頭に白いものが混じった男性が、外から戻って来た。

「もしかして、地下水が混じったんじゃねぇか」

 彼らは保守点検の人なのだろう。

 けれど原因はわからないらしい。


「困りましたわね。教員や職員の皆さんがお風呂に入れませんわ」

「今日のところは体を拭くなりしてもらって、後日専門の業者に見てもらうのがいいかもしれねぇな」

 そう言っていた。


「あっ」

 私は小さく声を発した。

 そしてアデレイドさまの影に隠れて、そろりとポンプ室へと戻る。


 点検の人たちは、お風呂場の蛇口を捻っている。

 私はそっと、壁の魔法陣を剥がし、魔石をポケットにしまった。


「おっ? こりゃどうしたんだ。お湯が出た」

 途端、お風呂場はもうもうと湯気が立ち込め始めた。

 勢いよく出るお湯は、見る見るうちに浴槽に溜まっていく。


「うん。十分な温度だ。一安心だな」

「専門の業者を呼ぶ必要はないな」

 そう頷き合っている。

 彼らの様子を見ると、もう問題はないようだ。


「ご、ごめんなさい」

 まさか、こんなことになるなんて。

 私は小さく口の中で謝った。



「なんだ。さっきのお湯は、レディの仕業だったのか」

「驚きましたわ」

 フランツ先生の研究室へ行って、事の顛末を話した。

 

 考えもしないことだった。

 私の魔法陣が、お風呂のお湯の温度を奪っていたなんて!


「魔石に火の魔力を蓄えれば、湯の温度が下がる。これは力学の法則でもありますな」

「確かに。湯の温度が魔力となって魔石に移ったと見るのが妥当だろう」

「で、でも、光の魔石はそんなことありませんでした」

 私は最上階の空き部屋で回収してきた魔石を見せる。

 部屋が暗くなることなどなかった。

 こちらもきちんと魔力で満たされていた。


「あれは窓に貼っていたからな……少し、試してもいいかいレディ」

 レオンさまは私から魔法陣を受け取り、床に広げた。

 そして、テーブルの上のランプの向きを変えて、それを照らし出す。


 フッと、部屋が暗くなった。


「なんですの? ランプの魔石切れですの?」

「いや……これを見るといい」

 魔法陣に置いた空の魔石に魔力が溜まり始めている。

 それをどかすと、ランプに光が戻った。


「え、ええっ。ランプの光を、魔法陣を通して空の魔石が吸収しているってことなんですの?」

 アデレイドさまがひどく驚いている。


 私も知らなかった。まさか、こんなことになるなんて。

「窓に貼った魔法陣は太陽の光を受けたから、吸収しきれなかったということだね」

「不思議ですな。いや、実に不思議なことだ」


「面白い――」

 レオンさまの黒い瞳があやしく光った。

「これは、今までの常識がひっくり返る」

 そう言って、口元を歪めて笑っていた。


 少し怖いような、それでいて惹かれるような、不思議な気持ちだった。

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。


よろしければ、続きを読んでいただけると嬉しいです。

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