↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
44/57

44 印刷魔法陣、成功

 翌日、研究室に印刷機が届けられた。

 木枠と絹を使う、単純な造りのものだ。

 そのままで使うと床を汚すと言われ、大きな蝋引き布も付けてくれた。


 怪我をしないように手袋をはめ、部屋の隅で組み立てる。

「よいしょ」

 包まれていた布を外し、床の上に置くだけでも重労働だ。

 遊びに来たネイオウが、ニャオ! と言って飛び退いている。


「大丈夫よネイオウ。これは敵じゃないの」

 警戒をして距離を取るネイオウの様子に、ふふっと笑う。

 尻尾が太くなっているところが可愛らしい。

 それからヘラや絹も確認して、額の汗を甲で拭った。


「やぁレディ。やっているね」

 そうしていると、背後から声が掛かった。

「キャッ。レオンさま。いつからそこに」

「今来たばかりだよ。印刷機を手に入れたと聞いてやって来た。面白い発想だね」

 床に置かれている印刷機を眺めている。

 彼も魔法陣印刷に興味があるようだ。


「インクはどうするんだい。ペンで描くものと同じという訳にはいかないだろう」

「はい。これから色々試してみます。これが印刷用のインクだそうです」

 瓶に入ったドロリとした液体を彼に見せる。

 油で作られているようだ。

 ペン用のインクとは違うから、またひとつひとつ試さないといけないだろう。

 私は以前手に入れた、樹脂や精油が並んでいる棚に目を向けた。


「私にも協力させてくれたまえ。魔法陣が印刷できるなら、私の研究にとっても大きな前進だ」

 レオンさまの研究とも重なる――。

 それはとても胸の躍る言葉だった。


「今日は軽食も持ってきた。これを食べながら、元となる魔法陣や、インクの作り方について話そうじゃないか」

 そう言うレオンさまの顔はとても楽しそうだ。


「印刷用の元となる魔法陣は、ペンで書き上げるものよりも、線を太くした方がインクがハッキリと写っていいんじゃないかな」

 彼のアドバイスもとても参考になる。

 魔獣が現れ、魔石が枯渇する緊迫した状況とは裏腹に、心躍る研究が続いていた。



 あれからインクを改良し、印刷用の物を何種類か作ってみた。

 版を焼きつけるための光の魔石は、自分で空の魔石に魔力を蓄えた物を使っている。


「えいっ」

 一瞬部屋中が白い光で満たされ、すぐに収まる。

 絹の布に、魔法陣の模様が写し出されていた。


 調合したインクを垂らし、ヘラで均一に塗り込める。

 数枚印刷したら板をどけ、それぞれを床に広げて乾かした。


「壁から紐を通して、吊った方がいいかしら」

 何しろ今回の魔法陣は大きい。床を占領してしまっている。

 洗濯物と同じように吊るしておけば、乾かしている最中にうっかりネイオウが踏むこともないだろう。


「あっ! 服にインクが」

 制服より動きやすくて、作業がしやすいからと借りていた、ルーカスお兄さまの子どもの頃の服を汚してしまった。

 ネイオウのことを言っていられない。

 自分のことながら、声を出して笑ってしまった。



 あれから何日も、ひたすら絹印刷を続けていた。

 インクを調合しては試し、光や熱を当ててみる。

 さすがに大きな紙はもったいないから、手のひら大の大きさに変えたけど、失敗した紙が山のように積み重なっていく。


「すみません、空き部屋への入室許可が欲しいのですが」

 印刷物が溜まったある日、事務局長を訪ねた。

 仕事で忙しい中、すぐにやって来てくれる。

「おや、もう魔法陣が印刷できたのですか。――本当に、動くのですか」

 やはり少しだけ疑っているようだ。


「それをこれから検証したいのです」

「なるほど。狭い研究室では一度に試せませんからね。では研究棟の最上階への入室許可を与えます。頑張って下さいね」

 快く許可がいただけた。


 私は大きな紙に印刷して、筒状にして何枚も運ぶ。

 空の魔石も必要だから、大変だ。

 そんな私を、怪訝そうな顔で令嬢たちが眺めている。


「リディアさん、忙しそうですわね」

「研究にご熱心なんですって」

「男子のような服で、何をなさっているのかしら」

 彼女たちの声が聞こえてくる。


 その中に、じっと私を眺めて立ち尽くしている女子生徒がいたことに、私は気づいていなかった。


 風呂場のポンプ室にも、印刷した魔法陣を貼っていた。

 ここは温泉だから、火属性のテストをするのにちょうどいい。

「あら……?」

 ドアを開け、灯りをつけようとした時に、何か赤いものが光っているのが目に入る。

 背中がゾクリとした。


「もしかして」

 灯りをつけて素早く中に入る。

 そして、そっと忍び足になりながら、魔法陣に近づいた。


「あ……」

 魔石が、光っている。

 置いた時には空だった物が、魔力で満たされていた。

 手にするとずっしりと重い。本当に、成功したの?


「うぅん。ちゃんと調べなくっちゃ」

 私は頭を振り、魔石をバッグにしまった。

 もうひとつ空の魔石を代わりに置いて、足早に研究室へと向かう。


 心臓の音が大きく鳴っている。耳にうるさいほど届いていた。

 これは走ったからではないだろう。


 息を切らして駆け込んだ研究室で、大きく深呼吸をする。

 そして観察器にそっと置く。

 魔石は赤々と光を放っている。


「数値、103。できた!」

 十分な魔力量だ。これなら現場で使ってもらっても、問題はないだろう。

 私は火の魔石を掲げ、ダンスを踊るようにクルクルと回った。


「やった。やったぁ!」

 印刷した魔法陣でも、問題なく魔力が込められた。

 それは魔石量産への大きな、大きな一歩だった。

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。


よろしければ、続きを読んでいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。