43 印刷機
「こちらが印刷室になります」
事務局長に連れられて、職員棟の一角にやって来た。
ここは様々なものが印刷される、専用の部屋だ。
奥では職員が忙しそうに働いている。
「すみません、少しよろしいですか」
「これは事務局長。いつもお世話になっています」
壮年の男性が頭を下げる。
服はインクで汚れ、手も真っ黒だ。
手で顔を擦ったのか、頬にまでインクが付いている。
「この生徒に印刷について案内してもらいたい。魔法陣を印刷するようです」
「ま、魔法陣ですか。それはまた珍しい」
専門職の人まで驚いている。そんなに難しいことなのか。
私は少し不安になった。
コホン、と印刷係は咳払いをひとつして、説明を始めた。
「こちらは本などを印刷する活字印刷です。文字だけのチラシなどもこちらで刷ります」
教科書などに使われている印刷技術だ。
私はふんふんと頷きながら、インクや印刷方法などについて質問する。
「こちらは銅版。鉄筆で描いたものを印刷します。絵などはこの方法ですね」
繊細な線で描かれた見事な絵が飾られていた。
なるほど。細かいものを表現するならこの方法が合っているのか。
「そしてこちらは絹を用いた印刷です。地図などはこの方法で印刷されています」
壁に貼られた図に目を向けた。
構内案内図だ。
あちこちに貼られていて、初めて来た者でも迷わないようにと配慮されている。
図には印刷室が赤く塗りつぶされていた。
「この場所がここなんですね」
「はい。赤い部分は手塗りです。現在位置はひとつひとつ違いますから」
とてもわかりやすい案内図だった。
線も黒くくっきりとして、見やすい。
「魔法陣を印刷するなら、この方法がよろしいかと存じます。我々は絹印刷と呼んでおります」
「どうやるのですか」
「ああ、はい。おぅい」
「なんですか、室長」
若い男性がやって来た。
「お前、大陸の地図を刷る仕事があったろう。一枚刷って見せてやれ」
「えっ。一枚だけですか。それはちょっと」
「お願いします」
彼は仕方がないなという顔をしながら、立てかけられていた木板を持ち上げる。
「紙に描いた地図をここに置いて焼き付けてから印刷をするんだ」
「焼きつける?」
「光魔法か光の魔石を使います。我々は魔法が使えませんから、魔石ですね」
横から印刷室長が教えてくれた。
「こう、液剤を塗った絹を置くんだ。上から黒インクで地図を描いた紙を置いて、光魔石を光らせる」
光らせる時は目を瞑るようにと、彼に耳打ちされる。
「そしてできた版がこいつだ。下に紙を敷いて、版を乗せ、インクを垂らしてヘラで伸ばす。すると……」
今まで白い紙だったのに、大きな地図が現れた!
「地図が印刷されてる!」
とても新鮮な驚きだった。
印刷とはこうやって行われているのか。
だから同じ地図をあちこちで見掛けるんだ。
これなら魔法陣を何十枚も作れる!
私は思わず叫び出したくなるのをグッとこらえ、拳を握りしめた。
「あの、あのっ。私、魔法陣を印刷したいのですけど、これはどうすれば」
「型や版、絹などは比較的簡単に手に入ります。今日手配すれば明日には入手できるでしょう。ご希望の場所に持って行かせますよ。購入されますか?」
「はいっ。ぜひお願いします」
今使った印刷機では大きすぎて私には扱えないだろうと言われ、一回り小さいものをお願いした。
木枠が重く、女性でも持ち上げられる物、という配慮からだ。
いくら必要か、など後先も考えず勢いで注文してしまった。
後日、請求が来た時に、予想よりは安かったと胸を撫で下ろした。
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