41 魔食いの狙い
「リディアさん? どうされたんですの、リディアさん!」
石のように固まっていた私を、アデレイドさまが呼び戻す。
まだ先ほどの恐怖が頭から離れない。
氷狼が騎士を襲った理由が、形になりかけている。
肌は粟立ち、毛が逆立っていた。
「あ……だ、大丈夫ですアデレイドさま」
まだ焦点が合わない。目が霞む。
私はハッとした。
「あ、アデレイドさま、騎士の皆さんが危ないかもしれません」
私は椅子に腰を下ろし、さきほどの考えを口にした。
「鉱山の魔石の魔力を吸い取っていた小さな魔獣が、一回り大きな魔獣に食べられ、更に強い魔獣に食べられます」
「その頂点がさきほどの氷狼などの魔獣なのですね」
はいと私は頷いた。
「それらは魔食いと呼ばれ、魔力を持つ生き物を餌とします。やがて物足りなくなり、より強力な魔力を持つものを食べようとする」
「小さな獲物より、より大きなものを狙うようになりますわよね」
一度で満腹になりますし、とアデレイドさまは付け加える。
「その、より強力な魔力を持つ存在と言えば――」
「氷狼よりもですの? 火熊、あるいはひとつ目の巨人などですの?」
アデレイドさまは、伝説の魔物の名前を口にする。
「いえ、もっと身近です」
「ゴーレムかしら。それともグリフィンですの?」
極稀に、目撃情報のある魔物たちだ。
「魔力――持ち?」
氷狼は、弱い庶民の案内人ではなく、魔力を持つ騎士を狙った。
アデレイドさまはハッと目を見開き、自分の両手をじっと見つめる。
「魔力を持っている……って、まさか、もしかして、……私たちのことですの?」
その手が震えていた。
ゴクリと唾を飲み込む音がする。
アデレイドさまは唇を噛み締め、拳をグッと握りしめた。
「大丈夫ですわリディアさん。きっといい方法がありますわ」
そう言いながら、ソファから立ち上がる。
「まだ騎士たちも守って下さっています。必要ならば父に話して、他の騎士団にも働きかけてもらいます。皆で対処に当たれば、できないことなどありませんわ。私たちも出来ることを致しましょう」
こちらを振り返り、大輪の薔薇のような笑顔を向けた。
「私、……私にできること」
魔力ゼロと判定され、無能と言われた私に、何ができるのだろう。
遠い昔――魔力判定の水晶が光らなかった、あの日の視線の痛みがぶり返す。
胸がギュッと縮こまり、押し潰されそうな痛みが走る。
私にはアデレイドさまのように、氷結蛙に立ち向かう力もない。
フランツ先生のような知恵も、レオンさまのような魔法陣の知識もなかった。
「あなたには、素晴らしい力があるではありませんか」
アデレイドさまは私の手を取り、ニッコリと笑う。
「自然の力を取り込んで、魔石に魔力を注ぎ込む。――それが」
「ええ、何だってできますわよ。騎士団の荷物を運ぶ魔道車を動かすことも」
動力を使ってポンプで水を汲み出す。
魔法杖の魔石に魔力を込めることだって。
その言葉が胸に響く。エネルギーに詳しい彼女は様々なことを教えてくれた。
私にも出来ることはたくさんある。
騎士さまたちに、魔力を込めた魔石を使ってもらうことだって。
その時初めて自分の価値に気がついた。
「魔石の研究をして、よりたくさんの魔石に魔力を込める」
私はお腹に力を入れた。
「やります。私は私にできることを!」
部屋の中でリンと鈴の音のような音がする。
それは共鳴となり、広がっていく。
待っていたよと魔石たちが喜んでいる――気がした。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
リディアが、空っぽの魔石からどんな未来を切り開いていくのか。
引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです。
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