04 魔力無し判定
どうして……
なぜこんな事になったのか。考えても頭が回らない。
まるで霧の中で目隠しされたまま歩いているような、そんな迷路に入り込む。
ジークとは仲が良かった。彼と会うのはとても楽しかったし、将来のこともたくさん話していた。
いつかグレイ子爵家に入って、父の仕事を手伝う彼を支え、家を守りながら暮らしていく。
そうして可愛い子どもにも恵まれて、笑いながら生きていくのだと信じていた。
その未来が砂のように、手の中からこぼれ落ちていく。
いつの間にか頬に熱いものが伝っている。
それが涙なのだと今の私にはわからない。
胸の上で私を見上げている祖母のペンダントに、涙がポトリと落ちる。
それに反応するように、キラリと光った。
「おばあさま……私を慰めてくださるの?」
握りしめると温かい。まるで抱きしめられているようだ。
その時、枕元にある魔石切れで動かないはずのランプが、一瞬光った。
「え……?」
何が起こったのかはわからない。
ペンダントを手にしたまま、私はベッドに深く沈んでいった。
14歳だったあの時に、私の未来は変わってしまった。
それは貴族なら誰でも受ける、魔力判定の日のことだ。
「私にはどんな魔力があるのかな。おじいさまと同じ土魔法? それなら大好きな魔石のそばで、鉱山のお手伝いができる」
「長男のエーリヒは氷、次男のルーカスは水の魔力。きっとあなたにも家の役に立つ素晴らしい力が宿っていますよ」
母は優しく私の頭を撫でてくれた。
私は服の下に隠された御守り――おばあさまの魔石を組み込んだペンダントを握りしめる。
そして両親と二番目の兄と共に、同じ年の子女が集まる教会へと足を運んだのだった。
皆興奮しながら順番を待っていた。
一人ひとり、教会が用意した水晶に手を当てて、その魔力を確かめる。
ある少年が手をかざすと、水晶の中にポツンと赤い火が灯った。
「やった! 火の魔力だ。騎士になって強くなるぞ」
彼はきっと、その力で国を守ってくれるだろう。
「私は光の魔法だわ! 困っている人たちを助けたい」
珍しい癒しの魔力を持った少女が現れた。
集まっていた人たちからどよめきが起こる。
皆喜びを噛み締め合い、家族と将来について語りながら、教会を後にしていた。
「さ、リディア。あなたの番ですよ」
「はいっ!」
私は母に背中を押され、丸く透明な水晶に手をかざす。
……え?
脇に控えていた神官たちに、動揺が走った。
「あ、あの、何も映らないんですけど」
私は焦って、助けを求めるように彼らに視線を向ける。
「これは……」
白い服の神官たちは、互いに顔を見合わせた。
そして、私にはわからない言葉で何かヒソヒソ話している。
一番位の高そうな、袖に金の刺繍が入った神官が私に向き合う。
「残念ですが、リディア・フォン・エルツベルクさま。あなたに魔力はありません」
無情な言葉が私の上を通り過ぎた。
氷の刃で貫かれたような衝撃が、胸に走る。
そんな、嘘!
もう一度手をかざしてみたけれど、結果は同じだ。
今度は反対側の手を水晶に当ててみたけれど、何も映らない!
「光って!」
そう叫ぶのに、水晶はただ静かに佇んでいた。
父が呆然とする私の肩をそっと抱いて、隅に連れて行く。
次に水晶の前に立った子には、水色の光――風の魔力が宿っていた。
「我がエルツベルク家の娘に魔力がないだなんて、おかしい。他の教会でもう一度見てもらいましょう、父上」
まだ魔力判定の子たちの列は続いている。
ルーカスお兄さまの言葉が、高い天井に吸い込まれていく。
けれど、私の魔力が水晶に映ることは、なかったのだ。
父は体の影に私を隠すようにして、私たち一家はその場から立ち去った。
喜びであふれる教会の隅で、一人の神官が壁を見上げ、疑問を口にする。
「妙だな。切れていた魔石ランプが光っている」
その声も、人々のざわめきの中に消えていった。
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