28 共同作業
「……なるほど」
レオンさまは目を細めた。
窓から差し込む昼下がりの光が、テーブルの上のランプの光をぼんやりと霞ませていた。
積み上げられた石から漂う冷気が、研究室の空気を少しだけ硬くしている。
ランプの光量を調整するように、魔法陣で魔力の流れを制御することができるかもしれない。
「こちらをご覧ください」
机の引き出しから、ノートを取り出す。表紙の端はすでに白く擦り切れている。
そこにはいくつもの魔法陣が描かれていた。
形はシンプルだ。たどたどしい線が、白い紙にくっきりと刻まれている。
「この魔法陣の上に空の魔石を乗せます。そして光を当てると――」
私は実験用の空の魔石を置き、ランプを灯す。
左手で光を受け、右手で石に触れる。じわりとした温もりが広がり、しばらくすると、石が淡く光り始めた。
「この前見た時より、随分早い」
「ええ。私が慣れたこともありますが、魔法陣を介すると、さらに効率的に込められるようです」
実際に測定した数値のページも開いて見せる。
「ちょっといいかな」
レオンさまはそう言って、魔石の下の紙をそっと手に取った。
「ふ……ん? これは見たことがない。通常の魔法陣とは、まるで逆の動きをしている」
指先が線に沿ってゆっくりと動いた。魔力が外側から巡りながら、中央へと静かに集められている。
「少し研究させて欲しい」
上着のポケットからメモ帳を取り出し、形を写し始める。
カリカリというペン先が走る音だけが、研究室に響いた。
自分の拙い研究がレオンさまの目に留まるなんて、少しくすぐったかった。
「これは普通のインクで描いたね。専用の魔法インクを使った方がいい。魔道具屋で売られているから」
「はいっ!」
すかさずメモを取る。
「それも種類が多いから、用途に合ったものを選ぶといい。……いっそ自分で調合した方が早いかもしれないね」
「あの、紙はどうしましょう」
「魔法紙というものがある。まずはそのノートで練習をして、完成したら書き写した方が効率的だ」
「わかりました」
やはり詳しい人に尋ねるのは勉強になる。
本だけではわからなかったことが、すぐに返ってきた。
「あ、それから、――祖父の記録で見つけたんですけれど」
エルツベルク家の書庫にあった、我が家の歴史だ。
「この事業もなにか関係しているかもしれません」
コロリと置いた塊は、流通している魔石とは、色も形もまるで違った。
木のような色をしているけれど、先端がわずかに透けている。
「これは? 動物の角のようだけど」
「ええ、ツノウサギの角です。祖父は毛皮とお肉を売っていたようなのですが――」
「ああ。毛皮は防寒性がとても高い。マフラーなどには最適だ。肉も癖がなく、あっさりした味は誰にも好まれる」
「よくご存知ですね」
私は思わず目を丸くした。貴族が野生動物の肉を食べるなんて想像もしていなかった。
「私は調査で足を伸ばすこともあるからね。行く先々で動物を狩ることもある」
そうか、男性なら騎士として各地に赴く。自分たちで食料を調達することもあるのだろう。
「その角に――魔力が含まれているのです」
「え?」
意外なことを言われたのか、レオンさまの瞳が揺れる。
「実際、街の素材屋で手に入れたこの角を観察器に掛けたら、魔力が出たんです」
「……魔獣から魔石が獲れることはあるけれど、毛皮や肉として利用されているツノウサギからか」
それは興味深い。レオンさまはそう呟いて、角を指先で弄んでいた。
薄茶色の塊が、窓から差し込む光の中で静かに輝く。
「今日は色々な話が聞けて、とても参考になった。あまり根を詰めすぎないように、レディ」
爽やかな、草原を思わせる香りが通り過ぎる。
ドアが閉まると、研究室はまたいつもの静けさに戻った。
机の上のノートには、彼の言葉が私の拙い線のすぐ隣に並んでいる。
ノートに残された助言が、私とレオンさまを同じ道へ導いているように感じた。
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