27 レオンと研究
私は研究室で、魔石を調べていた。
子どもの頃から拾っていた石、通学路のズリ山で拾ったもの、おじいさまや両親から贈られたアクセサリーに付いている魔石、街で流通しているもの、先日行った鉱山で手に入れたもの、他領の魔石。
様々な産地と種類を分けて、魔力量や構造を調べる地道な作業だ。
「こんなに特徴が違うなんて」
ひとつひとつメモをして、ノートに書き込んでいく。
ただきれいな魔石だ、便利な石だと喜んでいた頃に比べて、魔石への思いが深まっていく。
直接手で触れてしまうと、私の力で魔力が注がれてしまう可能性があるため、ピンセットでつまんでいる。
それももう随分とうまくなった。うまく掴めず床に転がしてしまうことはなくなった。
その時、ドアがノックされ、男性の声が響いた。
「はいどうぞ。お入りください」
私は顔を上げ、声を掛ける。
「やぁレディ。頑張っているね」
「レオンさま!」
ガチャリとドアを開け、入ってきた姿を見るなり私は立ち上がり、目を輝かせる。
「あの、ありがとうございます。頂いた魔力遮蔽式観察器が、とても役に立っていて」
頭を深く下げてお辞儀する。
「いや、いいんだ。私も魔石について知りたいから渡したんだし。それより少々時間を取らせてもらっていいかな」
「もちろんです!」
彼を部屋の中へ通し、椅子を引いた。
それからポットに入っているお湯を使って、紅茶を入れる。
「どうぞ」
腰掛けている彼の前にカップを置いた。
レオンさまはそれを手に取り、ゆっくりと口に含む。
「まず、これは差し入れだ。疲れた時に口にするといい」
そう言って小さな箱を差し出した。
開けてみると、ドライフルーツやナッツが入っている。
研究の合間に食べるのにちょうどいい。
彼の気遣いがとても嬉しい。私は思わず顔をほころばせる。
「どうだい。研究は進んでいるかな」
「それが、まだ基本的な勉強ばかりで、成果に辿り着くのはなかなか難しくて……」
少し困って私は首を傾ける。
「それは当然だ。まだ君は学生であり、研究者になったばかりの卵なのだから」
柔らかな笑顔で私の緊張を解きほぐす。
「しかし魔石については理解している者が非常に少ない。これほど生活に溶け込んでいるにもかかわらず、ね」
言いながら、魔道ポットに目を向ける。
水と火の魔石を組み合わせた魔道具だ。
井戸で汲んだ水を入れなくても、いつでも熱いお湯を使うことができる、便利な品だった。
「はい。根本的なことがよくわかっていないのに、便利だからとこんなに普及していて」
曾祖父の時代にはまだなかった。
その頃にようやく魔石の使い方が広まって、様々な魔道具が作られていった。
いつでも水の出る水筒や、火を使わないランプ。これらのものだけでも、どれほど生活に影響を与えただろう。
きっともう、魔道具なしでは生活が成り立たない。
――それが。
「ああ、今は危機的な状況だ。一刻も早く、魔石の産出量を回復させたい。――しかし」
レオンさまは顔を曇らせる。
「エルツベルク領の鉱山からの産出量が落ちている原因を突き止めるのも、なかなか難しい。どうして同じ鉱脈なのに、一部だけ魔石の魔力がないのか」
そう息を吐きながら呟いた。
「私も先日行って来ました。想像以上に街が廃れていて、ショックです」
彼も私と同じことを考えていたんだ。
空の魔石をいくつか持ち帰った。
ひとつを書類の重しとして使っている。ここに置けば、いつでもそれを観察できる。
テーブルの上にあるそれを、レオンさまが手に取った。
「今は庶民に回す魔石を制限して、他領でも魔石の採れる場所がないか調べられている。鉱山ではなく魔獣からなら、エルツベルク領以外でも獲れるからね」
「そうなんですね……」
私は俯いた。
魔獣から獲れる魔石。それは危険と隣り合わせだ。
日銭を稼ぐ冒険者が、命の危険と引き換えに手に入れる。
そう言えば先日鉱山長から、辞めた鉱夫たちが冒険者ギルドに登録をしているという話を聞いた。
慣れない剣や槍を振り回し、魔獣と戦っているという。
彼らが怪我をしていないか心配だ。
「普通の貴族は、獲れた魔石の量や質を心配するところなのに。君は優しいね、レディ」
レオンはそう言ってニッコリと笑う。
その美しい顔に、思わず頬が赤くなる。
「あ、あの、お尋ねしたいことがあるのです」
私は熱を気取られないよう、慌てて言葉を発した。
「なんだい」
「魔法陣を調べていたのです。これ――」
ランプに手を伸ばし、貼られたままの魔法陣を指さす。
レオンさまが描いた魔法陣だ。
「もしかして、魔石に魔力を込めるための、助けになるのではないかと思って」
そうなれば、世界が変わる。魔石が再び流通するようになる。
そう考えていた。
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