24 氷結蛙の魔石
教室で授業を受けた後、荷物を片付け、そろそろ移動しようとしていた頃だった。
出入り口でクラスメイトたちがザワザワと騒ぎ出している。
「廊下が凍っていますわ」
「まぁどうしましょう。帰れませんわ」
どうやら何か異変が起きたようだった。
「ヒッ! 魔獣!」
そう叫んだ女子生徒が指さす先に、何匹もの生き物が蠢いている。
「キャア!」
凍りついた廊下の先にいたものは、もぞもぞと動く蛙の大群だった。
「氷結蛙だ! 一体どこから」
男子の一人が鋭く叫ぶ。
渡り廊下の外はグラウンドへと続いている。森から入り込んで来てしまったのか。
氷結蛙が跳ねるたび、床が白く凍っていく。
「結界が弱まったのか」
魔獣が入って来れないように、学院の周囲にはグルリと魔法陣による結界が張られていた。
どうやらそれに問題が起きたようだった。
「どうしましょう。外に出られませんわ」
「攻撃されますわ。危険ですわ」
女子生徒たちが顔を見合わせ、恐怖に震えている。
「皆さん、落ち着いて。常日頃から学んでいる力を使えば、この局面も乗り越えられるでしょう」
そう言いながら、一人の男子が立ち上がる。
「氷結蛙は火に弱い。焼き尽くしてやる!」
「待てっ! 校舎まで燃えてしまうぞ」
屋内で火を使うのは危険極まりない。そばにいた男子が慌てて止める。
「ならば俺が押し流す」
水属性魔法の男子が叫ぶ。
「水浸しになってしまいますわ!」
悲鳴のような制止の声が掛かった。
「どうすればいいんだ」
「剣でなぎ倒そう」
訓練用の剣をスラリと構え、氷結蛙と対峙する。
「ハッ!」
気合と共に鋭い剣が振られたが、足が滑りバランスを崩した。
蛙はヒュンヒュンと音を立てながら、氷のつぶてを飛ばしてくる。
「くっ。一時避難だ」
教室内に撤退し、何か追い払う術はないかとガラス越しに睨んでいた。
足元にひんやりと冷気が漂ってくる。
見ると、教室内に一匹の氷結蛙が入り込んでいた。
「大変!」
私は慌てて掃除用具入れに向かった。
廊下とは反対の、中庭に続く扉を開けて、気づかれないようにゆっくりと、蛙の後ろに回り込む。
(怖い……)
氷のつぶてを受けたら、ただでは済まない。目に当たれば失明してしまうことだってあるのだから。
息を殺し、ジリジリと間合いを詰め、一気に箒で振り払った。
「えいっ!」
氷結蛙は勢いよく外へと飛んでいった。
私は額に浮かんだ汗を手の甲で拭う。
床が凍っていた。手を伸ばして、その冷気を確認する。
一方廊下では――。
「わたくしが何とかしますわ」
アデレイドさまの凛とした声に、皆の視線が集中する。
目を閉じて呪文を呟き、そしてカッと目を見開いた。
「エアショット!」
一匹の蛙が弾き飛ばされる。
「エアショット! エアショット!」
連射された空気の塊によって、這い回っていた蛙たちが次々と外へと跳ね飛ばされていった。
「さすがアデレイドさま」
「こんな魔法の使い方をするなんて」
女子生徒たちの賛美の声に、アデレイドさまが振り向いた。
「さぁ皆さん。後はお任せしますわ」
「よしっ。俺に任せろ」
そう言って頼もしく飛び出していった男子たちの活躍によって、グラウンドの氷結蛙は退治された。
「あら……?」
外の様子を確認し、校舎内に戻ろうとしたアデレイドさまは、声を上げる。
「凍っていた床が……溶けている?」
不思議そうに見回した視線が、私の姿に向かった。
「リディアさん」
魔石を使った髪飾りに目が留まった。
青白い石が輝き、キラリと光を放っている。
「氷の魔石に力が――」
私は立ち上がり、アデレイドさまに向かってニコリと笑った。
ようやく騒ぎが収まり、やって来た掃除夫たちがグラウンドで後片付けをしていた。
火魔法で焼いた氷結蛙の山の中から、小さな石がコロリと落ちる。
「あの、それいただけますか」
「こんなゴミをですか? どうぞお持ち下さい」
私は手の中で光る物に眉をひそめながら、そっとハンカチにくるんでポケットに入れた。
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