22 研究室と未知の魔石
「さぁここがあなたの研究室だ」
ガチャリとドアを開け、フランツ先生が中に向かって手をかざす。
研究棟の一角に連れて来られ、そう告げられた。
フランツ先生と同じ階で、教室の半分ぐらいの広さの部屋だった。
驚くほど窓が大きく、冬の光が斜めに差し込みとても明るい。
長い間使われていなかった埃のにおいも、なぜか嬉しい。
舞い上がった埃が光に照らされて、キラキラと輝きながらゆっくりと落ちていく。
「わぁすごい」
テーブルと椅子に本棚に物入れ。
必要な物は買ってもいいと言われ、私は感嘆の声を上げる。
「家にある魔石を持ち込んでもいいですか」
「もちろん。そのための研究室です。魔石検査のレンズや秤、記録のための紙も用意しますぞ」
そう言って先生はニコニコと笑っていたけれど、後で腰を抜かしていた。
「リディアお嬢さま。こちらでよろしいですか」
「ありがとう。そこに置いておいて下さい」
離れにあった私の魔石が、馬車で運ばれてきた。
屈強なはずの使用人が、額に汗を浮かべている。
「こ、これほど重いとは」
「すみません。子どもの頃から集めていたので、すごい量になっちゃって」
先生の研究室が本の森なら、ここは石の海になる。
衣装ケース五箱分もの魔石を運んだ彼らは、腰に手を当てながら帰って行った。
「一気に持ってきてもらうなんて、悪いことしちゃったかな」
実はまだ、おじいさまの膨大なコレクションが離れにあるけれど、それは秘密だった。
「うぅむリディアさん。このままだと私の研究室のようになりますぞ」
先生は頭を抱えながら、それでもどこか嬉しそうだった。
ひとつ、またひとつとレンズを覗き、石を仕分けていく。
「これは火の魔石、こっちは空の魔石。大きさを揃えて、魔力量を計って……」
目方を量り、メモを貼り付け、種類別に並べ替える。
気がつくと外はもう夕暮れだ。
私は慌てて木の蓋を被せ、真鍮の留め金をパチンと留める。
「この部屋は、私とリディアさんしか入れないようにしましたぞ。他の者が入るには、我々の許可が必要です」
先生はドアに魔法陣を組み込んだ。盗難対策も万全だ。
「ネイオウ」
足元から呼びかける声に目をやると、ネイオウが勝手に研究室に入り込んでいる。
先生にくっついて、ドアの隙間からスルリと入ってしまったのだろう。
「あっ」
私と先生は顔を見合わせふふっと笑った。
人間以外は想定外だった。魔物使いが魔物を送り込んで、魔石を盗むかもしれない。
「これネイオウ。お前の部屋はここじゃない」
そう言って抱き上げて連れて行こうとしたけれど、私が止めた。
「ネイオウはいつでも入っていいからね」
ネイオウも許可済みとして登録してもらう。
黒い頭を撫でると、嬉しそうに目を細めていた。
「おめでとうございますリディアさん」
翌日、大きな花束と共にアデレイドさまがやって来た。
冬の花とは思えないほど鮮やかな色で、研究室が一気に明るくなる。
「私たちの年齢で研究室を持つなんて、快挙ですわ」
そう言いながら笑う姿は、腕の中のアマリリスによく似ていた。
「んまっ! こちらの魔石コレクション、素晴らしいですわね」
昨日仕分けて、テーブルの上に置いてあった魔石に目を留める。
「よく分類されていてわかりやすいですわ。まるで魔石の周期表を眺めているよう」
「はい、研究する時の基準にしようと、並べてみました」
ただ高価なものを置いただけではない。
魔力量や性質に従って、段階的に体系化されているのだと、アデレイドさまは瞬時に見抜いていた。
その時、コンコンコンとドアをノックする音がした。
「やぁごきげんよう。レディの研究室ができたと聞いてやってきたよ」
少し照れた顔をしながら、レオンさまが顔を出す。
「これは私からのお祝いだ」
そう言いながら彼が差し出したのは――高度な技術で造られた魔力遮蔽式観察器だった。
「これは――」
私はあまりの品に絶句する。
アデレイドさままで不安げな顔で、レオンさまを見つめていた。
「実はこれで、あなたに解析してもらいたいものがある」
胸のポケットに指を入れ、白いハンカチに包まれたものを取り出す。
「リディアさん、分析をお願いできないだろうか」
その瞳は、いつもの穏やかさとは違い、どこか張り詰めた光を宿していた。
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