21 レオンの調査
そうして私は侯爵家で数日を過ごした。
アデレイドさまと朝食を共にしてから学院へ登校する。
侯爵家の馬車から下りるところを目撃されて、クラスメイトたちの態度が少しだけ変化した。
「そろそろいいだろう」
そうレオンさまに言われ、学院の事務の方に付き添われて家に戻る。
いつも徒歩通学だと伝えると、子爵家のご令嬢が? と、ひどく驚いていた。
「ただいま帰りました」
暗い玄関に向かって声を掛ける。
家の中はしんとして、空気が冷え切っていた。
「お父さま……?」
「リディア、戻ったのか」
頬がこけ、青白い顔をした父が、鋭い視線を私に向ける。
「そちらはどなただ」
横に立つ、ひょろりと背の高い男性を見て、口を尖らせた。
「わたくし、学院にて事務局長をしている者です。エルツベルク子爵、お見知りおきを」
事務局長がうやうやしく頭を下げると、客間へと案内された。
シャンデリアも灯っていない、ロウソクを使ったランプだけの暗い部屋だ。
事務局長は、懐から一通の手紙を取り出した。
「学院長――? 何事だ」
封筒の裏の名前を確認し、疑問を口にしながらペーパーナイフで封を切る。
内容に目を走らせると、眉間に皺を寄せ、書かれた文字をそのまま言葉にした。
「リディア・フォン・エルツベルク殿を特別研究生に推薦――だと? リディア、お前は何をした」
「私からご説明します」
事務局長が口を挟んだ。
「リディアさんは魔法力学において非常に優秀な成績を収められ、かつ独自の研究も注目されている。それがこの度教師陣の目に留まり、推薦となりました」
指導担当はフランツ教諭だと付け加える。
「ばかな。娘は平凡で、そこまでの成績ではなかったはずだ。――魔石について以外は」
「まさしくその魔石の研究です」
極めて事務的な口ぶりでそう答えた。
「通常、特別研究生への推薦は年に一度しか行われません。学年の途中で推薦が認められたということは、それだけ学院側がリディア殿を重要視していることに他なりません。その意味は――おわかりですね」
とても含みのある言い方だった。
父はわずかに目を見開いた。
「学院に在籍している間、リディアさんには特別研究費と手当も与えられます。どうぞよくお考えになって下さい」
そう言いながら、もう一枚紙を出す。
それを見た父の頬が、ピクリと動いた。
学費を払うどころか、家の収入にもなるからだ。
「学院に、在籍している間、か。よかろう」
「本当? お父さま!」
父の言葉に私は思わず声を上げた。
卒業までは学院にいられる、つまり、学生の間はライアー男爵家に嫁がなくてもいい!
お父さまは、ホッとしている私を前にして、まだなにか言いたげな表情を浮かべていた。
一方――。
レオンはエルツベルク領の鉱山へとやって来ていた。
ひと気のない山は、轟々と吹き荒れる風の音ばかりだ。
魔石が採れない――だから鉱夫も誰一人いない。中はジメジメとして暗く、近づくと人の気配に驚いたコウモリが飛び出して来る。
そんな採掘坑の中へと臆することなく足を踏み入れた。
「これは――」
魔石が岩から顔を出している。いや、魔石だったはずのものが、だ。
「やはり魔力がない」
槌を振るい、岩肌を崩して魔石を探す。
表面の石ばかりではなく、内部の物も何の力も含んでいない。
「ふむ」
ランタンを掲げ、奥へと進む。ふと足を止め、枝分かれする道を覗き込んだ。
石が白く光っている。それはほんの僅かだったが、他とは明らかに違って見えた。
「ここから上か。クラッシュ!」
指で岩肌をなぞり、魔力を込めて粉砕した。
岩が砕け、崩れ落ちた石の中から、鮮やかな赤い石が転がり出る。
「火の魔石……」
レオンはそれを指先で摘み、ランタンの光で照らし出した。
これは本来この鉱山で採れる魔石のひとつだ。
なぜここにだけあるのか。どうして他の魔石には魔力がないのか。
入口で拾った魔石と見比べても、石の質自体に違いはない。
地脈はずっと続いているというのに、空っぽの魔石と火の魔石、両方あるということは。
「造られなかったのではなく、何者かが魔力を……奪い取った?」
その時、背後で閃光が走った!
「ストーン・ニードル!」
ペンほどの長さの鋭い石が空を切り裂き、標的を貫く。
断末魔の声を上げた魔獣は岩肌に縫い付けられ、ピクピクと震えていたが、すぐに動きを止めた。
「火ネズミか」
レオンは石の串ごと引き抜いて、死骸を眺めた。
懐からナイフを取り出し、手際よく腹を切り裂く。
中から赤い物がコロリと転がり落ちた。
「! 火の魔石が」
ほんの小さな、胡椒の粒ほどの大きさだが、間違いなく魔力の入った石だった。
「これは……どういうことだ」
ゴクリと唾を飲み込み、疑問を口にする。
ある考えが頭に浮かんだが、「そんなバカな」と、すぐにそれを振り払った。
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