15 奇跡の証明
私はコンコンコンとノックして、ドアを薄く開ける。
相変わらず部屋の中は薄暗い。そして今日はまだ人の姿はなかった。
部屋の奥へと目を向ける。
キラリと何かが光り、こちらを窺うような気配を感じた。
「ああ、ネイオウ。あなたがいたのね」
テーブルの上で私を見ていたのは、白黒の猫だ。
私は驚かさないようにそっと歩き、椅子の上に静かに腰を下ろした。
猫は何も言わずにすり寄ってくる。
手を伸ばすと、手のひらに収まるように頭を擦り付けてきた。
「ふふっ。あたたかい」
柔らかな毛並みが心地良い。
自然と顔を綻ばせながら、人懐っこい猫を撫でていた。
「そうだ、これ」
バッグから布袋を取り出し、机の上に乗せる。
中から小さな石をいくつか取り出して、ネイオウの前にジャラリと置いた。
ビクリと身を動かし耳を立て、警戒するように目を大きく見開いている。
鼻を鳴らしながらにおいを嗅いだ後、前足を出してチョンと石に触れた。
「おや、こんな日にどうかしたのですかな」
ギィとドアの開く音がしたので目を向けると、フランツ先生が驚いた顔で立っている。
「お邪魔しております」
私は立ち上がり礼をして、それから先生の顔を真っ直ぐに見た。
授業が終わり、生徒たちが皆帰った後の校舎は、静けさに包まれている。
昼休憩では忙しい先生のご迷惑になると考えて、ひとけのないこの時間にやって来た。
「少し――ご相談があるのです」
眉をひそめてそう訴えかけると、柔らかな笑顔を返してくれた。
私はテーブルの上を振り返る。何個もの石が、ネイオウの前に散らばっている。
どれも光をまとっていた。
「これは……火の魔石に光の魔石。こんなにしっかりと輝くものは珍しくなってきている。おう、水の魔石まであるのですか」
先生はそれを手に取り、ランプに透かす。
そしてレンズを取り出し細部まで確認すると、しきりに感心していた。
「近年あなたの領では、魔石が採れなくなっていると耳にしますぞ。これは、どうされたのですかな」
「拾った物です。うちの近くでは空の魔石はよく落ちているので――」
袋の中からもうひと掴み取り出して、テーブルへと置く。
それは色のない、魔力の入っていない石だった。
「ふむ?」
先生はその内のひとつを指先で摘み、顔に近づける。
眼鏡の位置を直してじっくりと眺めた。
「確かになんの力もありませんな。これが?」
私はそれを受け取ると握りしめ、テーブルの上のライトを点けてから、目を瞑った。
頬に、手の甲に、ライトの光の温かさを感じる。
それが体の中に流れ込み、ゆっくりと巡っていく。
「……!」
糸のような流れがフッと消えかけた。
逃さない。私は感覚を研ぎ澄ましてほんのりとした温かさを追いかける。
捕まえた!
体の中に道筋を伸ばし、手の中に導いていった。
ふぅと大きく息を吐き出して、目を開けた。ライトを消して、恐る恐る手のひらを開く。
部屋の空気がゆっくりと塗り替わる。
薄暗い書物の海で少し埃っぽかった部屋が、日の光に照らされた草原のような清々しい香りで満たされていく。
私の手の中に現れたのは、小さな太陽――光り輝く魔石だ。
ネイオウは金と青の瞳を光る魔石に向けたまま、時が止まったように動かない。
尻尾を真っ直ぐに伸ばし、毛を逆立てていた。
まるで見えない何かを感じ取ったように。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
よろしければ、続きを読んでいただけると嬉しいです。




