↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
15/58

15 奇跡の証明

 私はコンコンコンとノックして、ドアを薄く開ける。

 相変わらず部屋の中は薄暗い。そして今日はまだ人の姿はなかった。

 部屋の奥へと目を向ける。


 キラリと何かが光り、こちらを窺うような気配を感じた。

「ああ、ネイオウ。あなたがいたのね」

 テーブルの上で私を見ていたのは、白黒の猫だ。

 私は驚かさないようにそっと歩き、椅子の上に静かに腰を下ろした。


 猫は何も言わずにすり寄ってくる。

 手を伸ばすと、手のひらに収まるように頭を擦り付けてきた。

「ふふっ。あたたかい」

 柔らかな毛並みが心地良い。

 自然と顔を綻ばせながら、人懐っこい猫を撫でていた。


「そうだ、これ」

 バッグから布袋を取り出し、机の上に乗せる。

 中から小さな石をいくつか取り出して、ネイオウの前にジャラリと置いた。


 ビクリと身を動かし耳を立て、警戒するように目を大きく見開いている。

 鼻を鳴らしながらにおいを嗅いだ後、前足を出してチョンと石に触れた。


「おや、こんな日にどうかしたのですかな」

 ギィとドアの開く音がしたので目を向けると、フランツ先生が驚いた顔で立っている。

「お邪魔しております」

 私は立ち上がり礼をして、それから先生の顔を真っ直ぐに見た。


 授業が終わり、生徒たちが皆帰った後の校舎は、静けさに包まれている。

 昼休憩では忙しい先生のご迷惑になると考えて、ひとけのないこの時間にやって来た。

「少し――ご相談があるのです」

 眉をひそめてそう訴えかけると、柔らかな笑顔を返してくれた。

 

 私はテーブルの上を振り返る。何個もの石が、ネイオウの前に散らばっている。

 どれも光をまとっていた。

「これは……火の魔石に光の魔石。こんなにしっかりと輝くものは珍しくなってきている。おう、水の魔石まであるのですか」

 先生はそれを手に取り、ランプに透かす。

 そしてレンズを取り出し細部まで確認すると、しきりに感心していた。


「近年あなたの領では、魔石が採れなくなっていると耳にしますぞ。これは、どうされたのですかな」

「拾った物です。うちの近くでは空の魔石はよく落ちているので――」

 袋の中からもうひと掴み取り出して、テーブルへと置く。

 それは色のない、魔力の入っていない石だった。


「ふむ?」

 先生はその内のひとつを指先で摘み、顔に近づける。

 眼鏡の位置を直してじっくりと眺めた。


「確かになんの力もありませんな。これが?」

 私はそれを受け取ると握りしめ、テーブルの上のライトを点けてから、目を瞑った。


 頬に、手の甲に、ライトの光の温かさを感じる。

 それが体の中に流れ込み、ゆっくりと巡っていく。

「……!」

 糸のような流れがフッと消えかけた。

 逃さない。私は感覚を研ぎ澄ましてほんのりとした温かさを追いかける。

 捕まえた!

 体の中に道筋を伸ばし、手の中に導いていった。


 ふぅと大きく息を吐き出して、目を開けた。ライトを消して、恐る恐る手のひらを開く。

 部屋の空気がゆっくりと塗り替わる。

 薄暗い書物の海で少し埃っぽかった部屋が、日の光に照らされた草原のような清々しい香りで満たされていく。


 私の手の中に現れたのは、小さな太陽――光り輝く魔石だ。


 ネイオウは金と青の瞳を光る魔石に向けたまま、時が止まったように動かない。

 尻尾を真っ直ぐに伸ばし、毛を逆立てていた。


 まるで見えない何かを感じ取ったように。

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。


よろしければ、続きを読んでいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。