13 黒い石の価値
侯爵家の馬車で家まで送っていただき、門の前で降りた。
「今日はとても楽しかったです、アデレイドさま」
「わたくしの方こそ。リディアさんとはとても話が合いますの。また明日、学院でお会いしましょう」
スカートを摘んでお辞儀をすると、走り去る侯爵家の馬車を見送った。
家へ入ろうとしたところで、誰かがこちらへやって来る。
「エーリヒお兄さま」
「あの馬車は侯爵家のものではないか。いつの間にそんな高位貴族と知り合った」
驚いた様子で、畳み掛けるように問いただされる。
「アデレイドさまはご学友ですわ」
「……なるほど。確かお前と同い年だったな」
兄は何事かを考えるように顎を撫でる。
嫌な予感がして、何も言わずに通り過ぎようとした。
「待て、リディア」
「なんですかお兄さま。痛いです」
腕を掴まれ、思わず悲鳴を漏らす。
「いいか、彼女の機嫌を損ねるな。うまく取り入って、我がエルツベルク家と彼女の父――魔法エネルギー省大臣との橋渡しになるのだ」
兄の言葉に息を呑んだ。
「何を言い出すの。ただのクラスメイトよ。そんな図々しいことはできないわ」
今の兄の形相では、アデレイドさまを自分の婚約者になどと、言い出しかねない。
私は掴まれた腕を振り払い、離れに駆け込んだ。
ドアの向こうから兄の声が響き渡る。
「いいな、リディア。家のために動くのだ」
どこまでも勝手な兄の言葉に、ただため息しか出なかった。
離れに入り、通学カバンを置いた。
着替えもせずに、暖炉の前にしゃがみ込む。
そっと縁に手を伸ばす。つるりと磨き上げられた冷たい石の感触が、指先を通じて伝わってくる。
「これは――玄武岩!」
あの料理店の石窯と同じものだ。
黒く硬い石材が、暖炉を形作っている。
合わせ目がわからないほどピッタリと組み合わされていた。
くべられた火の熱が効率よく部屋を温めるように、表面を加工したのだろうか。
それから立ち上がり、浴室にも行ってみた。
ここにも同じく玄武岩が使われている。
黒光りする浴槽として、どっしりと鎮座していた。
「確か――一度熱くなればいつまでも冷めない石」
フランツ先生に借りた本に、そう書かれていた。
祖父は、土魔法の使い手だった。
だから非常に硬く加工が困難と言われる石を、暖炉や浴槽にできたのだろう。
それを魔石の補助として使っている。
あのレストランと同じ技術を、祖父はここで――試していた?
私は浴槽にはめ込まれた魔石に触れる。
その部分だけ強い力で光を放つ。
我がエルツベルク領は、魔石が豊富に採れていた。
潤沢な資源の影で、捨てられていた黒い石。
これも――形を変えれば資産となる。あの石窯を欲しがる貴族は多いだろう。
でもお父さまには、高値で売れる魔石しか見えていなかった。
それが採れなくなってきて、焦っている。
「おじいさま」
私が小さい頃に亡くなった、祖父。
皺だらけの顔で笑っていた。
「私を導いてくださるの?」
物言わぬ石が、祖父の手のように温かかった。
明日、試してみよう。
私はポケットの中の魔石を取り出し、強く握り締めた。
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