↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
13/57

13 黒い石の価値

 侯爵家の馬車で家まで送っていただき、門の前で降りた。

「今日はとても楽しかったです、アデレイドさま」

「わたくしの方こそ。リディアさんとはとても話が合いますの。また明日、学院でお会いしましょう」

 スカートを摘んでお辞儀をすると、走り去る侯爵家の馬車を見送った。


 家へ入ろうとしたところで、誰かがこちらへやって来る。

「エーリヒお兄さま」

「あの馬車は侯爵家のものではないか。いつの間にそんな高位貴族と知り合った」

 驚いた様子で、畳み掛けるように問いただされる。


「アデレイドさまはご学友ですわ」

「……なるほど。確かお前と同い年だったな」

 兄は何事かを考えるように顎を撫でる。

 嫌な予感がして、何も言わずに通り過ぎようとした。


「待て、リディア」

「なんですかお兄さま。痛いです」

 腕を掴まれ、思わず悲鳴を漏らす。

「いいか、彼女の機嫌を損ねるな。うまく取り入って、我がエルツベルク家と彼女の父――魔法エネルギー省大臣との橋渡しになるのだ」


 兄の言葉に息を呑んだ。

「何を言い出すの。ただのクラスメイトよ。そんな図々しいことはできないわ」

 今の兄の形相では、アデレイドさまを自分の婚約者になどと、言い出しかねない。


 私は掴まれた腕を振り払い、離れに駆け込んだ。

 ドアの向こうから兄の声が響き渡る。

「いいな、リディア。家のために動くのだ」

 どこまでも勝手な兄の言葉に、ただため息しか出なかった。



 離れに入り、通学カバンを置いた。

 着替えもせずに、暖炉の前にしゃがみ込む。


 そっと縁に手を伸ばす。つるりと磨き上げられた冷たい石の感触が、指先を通じて伝わってくる。

「これは――玄武岩!」

 あの料理店の石窯と同じものだ。

 黒く硬い石材が、暖炉を形作っている。


 合わせ目がわからないほどピッタリと組み合わされていた。

 くべられた火の熱が効率よく部屋を温めるように、表面を加工したのだろうか。


 それから立ち上がり、浴室にも行ってみた。

 ここにも同じく玄武岩が使われている。

 黒光りする浴槽として、どっしりと鎮座していた。

「確か――一度熱くなればいつまでも冷めない石」

 フランツ先生に借りた本に、そう書かれていた。


 祖父は、土魔法の使い手だった。

 だから非常に硬く加工が困難と言われる石を、暖炉や浴槽にできたのだろう。

 それを魔石の補助として使っている。

 あのレストランと同じ技術を、祖父はここで――試していた?


 私は浴槽にはめ込まれた魔石に触れる。

 その部分だけ強い力で光を放つ。


 我がエルツベルク領は、魔石が豊富に採れていた。

 潤沢な資源の影で、捨てられていた黒い石。

 これも――形を変えれば資産となる。あの石窯を欲しがる貴族は多いだろう。

 でもお父さまには、高値で売れる魔石しか見えていなかった。

 それが採れなくなってきて、焦っている。


「おじいさま」

 私が小さい頃に亡くなった、祖父。

 皺だらけの顔で笑っていた。


「私を導いてくださるの?」

 物言わぬ石が、祖父の手のように温かかった。


 明日、試してみよう。

 私はポケットの中の魔石を取り出し、強く握り締めた。

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。


よろしければ、続きを読んでいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。