12 魔石料理と侯爵令嬢
「さぁ行きましょう、リディアさん」
授業が終わった後、私は侯爵家の馬車で揺られていた。
革張りの椅子に絹張りの内装の馬車は、滑るように進んで行く。
「お嬢さま、着きました」
御者がドアを開け、降りた先にあった店は、私の予想とは少し違っていた。
格式の高い由緒ある老舗ではなく、開店したばかりのような新しい店だった。
仕立てのいい服を身につけた客が入って行く。
大商人か、農場主か、お金持ちではありそうだけれど、優雅な立ち居振る舞いというよりは、地に足を着けて働いている者のにおいがする。
「このお店、面白いんですのよ」
そう言ってアデレイドさまは先に進む。
美しいその姿を目にした店員が飛んできて、うやうやしく店内へと案内した。
「ようこそいらっしゃいました。本日はこちらのテーブルになります」
通されたのは、店の奥へと続く半個室の席だった。
厨房の目の前で、シェフたちが忙しく立ち回っているのがよく見える。
「リディアさん、あちらをご覧になって」
青い瞳が向けられた先は、立派な造りの窯だった。
伝統的なレンガ窯ではなく、あれは――石?
優雅な曲線を描く窯を構成しているその材料に、見覚えがあった。
「あれは……うちの領で採れる玄武岩だわ」
思わず口から言葉が漏れる。
さらに目を凝らした瞬間、息を呑む。
窯の内側で、光が揺らめいている。
赤だけではない。
青、緑、黄色。それぞれが共鳴して熱のハーモニーを奏でていた。
「窯で複数の魔石を使うなんて」
「面白いですわ。組み合わせて効率を上げていますのね?」
ほどなくして給仕がやってきて、洗練された手つきで食前酒と前菜を並べていく。
「石窯で焼いたパンになります」
そう言って差し出されたパンは、伝統的などっしりと重いものではなかった。
「まぁこちらのパン、とても軽いですわ」
「中はモチッとしていて柔らかいのですね」
初めて口にするものだ。どこか他の国で修行をしてきたシェフなのか。
続いて出てきたステーキも、我が家のものとは全く違う。
「外は程よく焼けているのに、中は滴るようにとてもジューシーですわ。こんな効果が出るなんて」
「このお味、たまりません」
口に含むとジュワリと肉汁があふれる。
ただ焼いただけのステーキではない。
火の魔石の力を玄武岩の効果で窯の中に閉じ込めて、中までふっくら仕上がっている。
水や風の魔石も組み込んでいる効果だろう。余分な油も落ちて、さっぱりとして食べやすい。
そしてなかなか冷めなかった。
「このお皿――焼いた石です」
どうりでいつまでも熱々のはずだ。こんな使い方もできるなんて知らなかった。
アデレイドさまと話しながら食べているのに、ずっと温かいままだった。
もう一度あの窯へと視線を向ける。
その仕草に気づいたのか、シェフがこちらへ歩み寄ってきた。
「あちらは当店自慢の石窯です。この国で一、二を争う石工に作らせました」
だからこんなに美味しいのか。
焼き方ひとつでこれほど変わる、その腕にすっかり感心してしまった。
そして――魔石や石の使い方にも。
石窯の内部で光っているのは小さな魔石。
あの大きさでこれほどの料理を生み出せるとは――とても効率がいいのだろう。
お水の中には魔力を使い切った魔石が、まるで宝石のように入れられている。
「まぁきれい――それにまろやかですわ。この石に意味があるんですの?」
その不思議な水の話をしながらアデレイドさまは、満足そうにデザートを口に運んでいる。
蒸したプリンを火で炙ったその香ばしさにも感心していた。
力のなくなった――魔石。
私はグラスの水をクルクルと回す。
そしてアデレイドさまは「こんなお話ができるのは、リディアさんだけなんですの。またご一緒してくださる?」と、真摯な眼差しを私に向けた。
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