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ねずみ講式経験値収集魔法陣で下剋上 ~君の経験値は僕のモノ。史上最悪のピラミッド型搾取システムで復讐を誓う~  作者: 団田図


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第6話 新事業計画

【ガウェイン視点】(帝国騎士団長)


「……なんだ、このありさまは」


 私は目の前の惨状にただ立ち尽くしていた。


 ここは数百年もの間、何万人という人間を閉じ込めてきた、帝国でも最高硬度を誇る鉄壁の鉱山監獄だったはずだ。しかし今、私の眼前にあるのは、物理的に粉砕され、跡形もなく崩壊した岩盤と鉄格子の残骸だけである。空を遮るものは何もなく、巨大なクレーターのような跡が残されていた。


「ガ、ガウェイン団長! 看守たちは全員意識不明の重体です。そして、収容されていた何百人もの奴隷たちが……一人残らず消え失せています!」


 震える声で報告する部下を制し、私は瓦礫の中心へと足を踏み入れた。


 分厚い鋼鉄の扉が、まるで紙屑のように引き裂かれている。その破片に触れると、分厚い手甲越しでも火傷しそうなほどの熱を帯びていた。まだ莫大な魔力の残滓が周囲の大気に焦げ付いているのだ。


「外部からによる脱走の手助けではない。内部からの破壊……」


 私はギリッと奥歯を噛み締めた。これほどの規模の圧倒的な魔力を展開し、力技で物理的に監獄を吹き飛ばすなど、一人の人間にできる芸当ではない。

 もし仮にこれを一人の術者が行ったのだとすれば、それは帝国の「禁忌の古代兵器」すら凌駕する、戦略級の化け物ということになる。


「奴隷どもの中に、とてつもない存在が潜んでいたというのか……」


 背筋に冷たい汗が伝うのを感じた。これは単なる脱獄事件などではない。未知の、そして絶望的に巨大な脅威が、明確な意志を持って帝国に向けられた証だ。

 私は直ちに皇帝ガルディア13世へこの異常事態を報告すべく、重い足取りで踵を返した。帝国の威信にかけて、この正体不明の脅威を野放しにするわけにはいかないのだ。


 +++


 【アレン視点】


 むせ返るような熱帯特有の空気と、どこかから漂う安いエール、そして潮の香り。

 僕たちは帝国領を脱出した後、南の国家である自由商業連盟国ファルサへと逃げ延びていた。


 ここは国の法律よりも冒険者ギルドの規約や商業のルールが優先される、金と冒険者ランクが全ての実力主義の自由都市だ。格差と欲望にまみれたこの国は、僕の計画の土壌としてこれ以上ないほど完璧だった。


 歓楽街の裏手にある薄暗い廃倉庫を仮の拠点とし、僕は仕立ての良いスーツの埃を払いながら、木箱の上に優雅に腰を下ろした。目の前には、ルカ、ザック、テオ、ガンツ、そしてバッカスといった最古参の幹部たちが顔を揃えている。


「見事な脱獄劇だったな、アレン! 俺たちの力なら無敵だ。このままの勢いで、帝国の首都まで攻め上って、あの腐った貴族どもの首を刎ねてやろうぜ!」


 血の気の多い武闘派幹部のザックが、丸太のような腕を振り上げて息巻く。

 だが、僕は呆れたようにため息をつき、静かに首を横に振った。


「焦ってはいけません、ザック。確かに僕たちは自由と圧倒的な力を手に入れました。ですが、今すぐ帝国と正面から喧嘩をするには、まだ力が足りないと自負しています」


「力が足りねえ? あんだけの魔法をぶっ放しておいてか?」


「ええ。帝国には最強の聖騎士団や、禁忌の古代兵器が存在します。いくら僕の魔力と君たちの肉体強化があっても、数万の軍勢と真っ向からぶつかれば無駄な消耗戦になる。僕が求めているのはそんな泥臭い戦いじゃない。圧倒的な力の差による、完全なる蹂躙です」


 僕の言葉に、勧誘統括マネージャーのルカが人懐っこい笑顔を浮かべて身を乗り出した。


「じゃあ、どうするんだい、アレン? 傭兵団でも立ち上げるのかな?」

「お金を払って人を雇う? 非効率ですね。僕たちは一円も払わずに兵隊を集めます」


 僕は悪魔的な笑みを浮かべ、組織の根幹となる新たなスキームを幹部たちへ伝達した。


「これから僕たちは、『楽して強くなれる盟友契約』と称して、この南国の冒険者たちを次々と騙していきます」


「冒険者を騙す……?」


「そうです。命を張っているのにレベルが上がらない、うだつの上がらない末端の冒険者たちに、『我々の互助組織に入れば不労所得でレベルが上がる』という甘い言葉を囁き、星盾の互助陣アイギス・ネットワークに組み込むんです。彼らが魔物を倒せば倒すほど、その経験値の九割は上位会員に吸い上げられる構造は、鉱山の時と同じですからね」


 経験値流動のデータ分析を統括するテオが、手元の魔石演算機を叩きながら身震いした。


「還元率の絶対的非対称……マージン固定制か。末端は自分が搾取されていることにも気づかず、むしろ『感謝』しながら強欲に目を血走らせて次の生贄を勧誘し続ける。完璧で、倫理を捨て去ったおぞましい数式だよ、アレン」


「最高の褒め言葉ですね、テオ。そして、その契約に必要な『鍵』の量産はすでに始まっています」


 僕が視線を向けると、倉庫の片隅に作られた即席の秘密の鍛冶場で、ドワーフのガンツが額に汗を浮かべ、分厚い耐熱手袋越しにハンマーを振るっていた。


「へへっ、アレン様の言う通り、原価を極限まで削った特殊加工で大量生産のラインを立ち上げたぜ!」


 ガンツが放り投げた小さな金属片を、僕は空中でキャッチした。


 それは、ただの安い鉄くずに特殊な魔法陣の加工を施しただけの代物。だが、少し磨けば安っぽさを感じさせないアンティーク調の高級感を放つように工夫されている。


「ご苦労様です、ガンツ。これこそが、僕たちの組織の会員用アイテム……『アイギスブローチ』です」


 僕はその、薔薇の模様をあしらった冷たい鉄の感触を指先でなぞった。親会員と子会員でこのブローチを重ねるだけで、魂に魔法陣が刻み込まれ、逃れられない契約が結ばれる。当然、自己都合による脱退は不可能だ。この絶対の鎖を解除できるのは、最上親である僕が直接承認を与えた時だけ。


 これから世界中にばら撒かれるであろうこの欲望の種を見つめながら、僕は南国全土を飲み込む巨大な搾取ビジネスの青写真をはっきりと描いていた。

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