第22話 心酔
【セリア視点】
アレンはゆっくりと私の前にひざまずき、視線の高さを合わせた。
「ええ、歓迎しますよ、セリア様。あなたのその力は、我々の組織にとって非常に有益だ」
彼は懐から、鈍く光る鉄のアイギスブローチを取り出した。そして、まるで絵本に出てくる王子様がプロポーズをするかのように、ロマンチックで優雅な動作で、それを私の両手の上にそっと置いた。
「このブローチを受け取ってください。すべては、より多くの迷える人々を救うため。……そうでしょう?」
『より多くの人を救うため』
その魅惑的な信条が、私の心を完全に絡め取った。
彼が私を必要としてくれている。
私の目を見て、嘘偽りなく、私を欲してくれている……
「ああ……アレン様……」
私は両手で包み込んだ鉄のブローチを胸に抱きしめ、頬を真っ赤に染めた。
彼が数百万人の苦痛を背負っていることを、私は知っている。このブローチは、ただの契約の証ではない。
「アレン様が、私にだけ与えてくださったのですね。……あなたと共に、その重い罪と苦痛を分かち合うための、契りの証を……!」
彼とのつながりの証拠。これが唯一の真実だった。
これからは、彼が背負う痛みを私が癒やし、彼の理想とする世界を共に創り上げるのだ。私は、神の教えを捨て、一人の男の創り上げたシステムに身を捧げることを歓喜と共に受け入れた。
私を頂点とする西国の信徒たちが、すべて彼の下部組織として組み込まれる。これで彼の組織は、完全無欠のものとなるだろう。
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【神官長マテウス視点】
「セリア様!! ご無事ですか!?」
私は勢いよくドアをバンッと開け放ち、控室へと飛び込んだ。
法廷の混乱を抜け出し、何よりも案じていた我が主の姿を探して駆けつけたのだ。しかし、私の目に飛び込んできたのは、信じ難い光景だった。
あの憎き悪魔、アレン・クロウの足元にセリア様がひざまずいているではないか。しかも、彼女は頬を紅潮させ、彼から渡されたであろう鉄のブローチを大切そうに抱きしめている。
「せ、セリア様……!? あなたはいったい、何を……! その男は我々の敵……!」
私は絶望のあまり顔を歪め、思わず後ずさってしまった。
長年セリア様にお仕えし、彼女の純粋さを神のごとく信奉し続けてきたこの私にとって、彼女が悪党に堕ちてしまったかのようなその姿は、到底耐え難いものだったのだ。
しかし、セリア様はゆっくりと立ち上がると、私に向かってかつて見たこともないほどに晴れやかで、キレのある笑顔を向けられた。
「マテウス。私はついに、真の救済の形を見つけたのです。アレン様のこのシステムこそが、より多くの人々を救い、世界を豊かにする神の御業なのです。さあ、あなたも私と共に、アレン様の愛を受け取りましょう」
その優しく響く御言葉を聞いた瞬間、私の心から絶望の色がスッと消え去っていくのを感じた。
代わりに、私の瞳と脳髄に、理性を超越した狂信的な閃きが宿り始めた。
「真の……救済……。そうか……! これこそが、セリア様が導く新しい救済の形だったのですね!」
そうだ、セリア様が間違えるはずなどない。彼女が白を黒と仰るのなら、この世界は間違いなく黒に染まっているのだ。
私はアレンを一瞥し、すべてを理解した。
この男は、セリア様を利用する悪魔などではない。
私はセリア様に向かって、深く頭を下げた。
「アレン・クロウ……。あなたがどれほどの悪党であろうと構わない。あなたは、我が崇高なるセリア様を、新たな舞台で輝かせるための『駒』に過ぎないのだから!」
そう、このシステムは、セリア様の偉大なる救済を際立たせるために用意された、ただの舞台装置に過ぎないのだ。
「セリア様! どうか私めを、あなたの下部会員としてお加えください! 西国の迷える子羊たちを、残らずこの新たな教えへと導いてみせましょう!」
私は感涙にむせびながら、彼女の足元にすがりつき、新たな契約を懇願した。
「ええ、マテウス。共に参りましょう。アレン様の目指す世界へ」
セリア様は私の胸に、アレンから余分に授かったという新たなブローチを重ね合わせてくださった。
鈍い光が瞬き、私は光栄にもセリア様の第一子会員となることができたのだ。
控室の入り口で、アレン・クロウが肩を震わせて静かに笑っているのが見えた。
悪魔め、自分のシナリオ通りに進んでいるとでも思っているのだろうか。
いや、違う。真の救済をもたらすのは我らがセリア様であり、私たちが彼を利用してこの国を新たな光で満たすのだ。
胸元で輝く『契りの証』を強く握りしめるセリア様のお姿は、かつてないほどの幸福感に包まれていた。私はその崇高な姿に、心の中で狂おしいほどの賛歌を捧げ続けていた。




