第13話 オーガキング討伐
【アレン視点】
ガルドの制止の声を遮るように、オーガキングが咆哮を上げ、大地を揺らして突進してきた。圧倒的な質量と速度。振り下ろされた巨大な棍棒が、僕の頭上へと迫る。
僕は、一歩も動かなかった。ただ、視線だけで不可視の魔力障壁を展開した。
ガァァァァンッ!!
凄まじい衝撃音が響き渡る。だが、棍棒は僕の頭上数十センチの空間で見えない壁に阻まれ、ピタリと止まっていた。
オーガキングの巨体が驚愕に硬直する。その後ろで、ガルドが信じられないものを見るように目を見開いた。
「な、なんだと……!? オーガキングの全力の一撃を、防いだ……!?」
防いだのではない。南国の数千人の末端会員たちが、今この瞬間も泥水にまみれて稼ぎ出し、僕の元へ自動送値されている莫大な「経験値」の奔流。それが生み出す純粋な魔力は、もはやこの程度の魔物の腕力でどうにかなる次元ではないのだ。
「さて、あっさり終わってしまっても、しっかり審査してくださいね」
僕はスーツのポケットから片手を出し、オーガキングに向けて指を鳴らした。
パチン、と乾いた音が響いた瞬間。
吸い上げた経験値で獲得したスキルの魔力の刃が、不可視のギロチンとなってオーガキングの巨体を斜めに両断した。
「ガ、アァァ……?」
自分の体に何が起きたのか理解する間もなく、オーガキングの上半身がズレ落ち、ドス黒い血の雨を降らせながら大地に崩れ落ちた。五年間、誰も手出しできなかった強大な化け物が、僕が指先一つ動かしただけで、ただの肉塊へと変わった。
沈黙が辺りを支配した。
ガルドは大剣を取り落とし、膝から崩れ落ちて震えていた。
「……あり、えない。俺が……俺が仲間を失い、死に物狂いで挑んでも勝てなかった敵を……お前は、一歩も動かずに……」
彼の誇り、Sランク冒険者として積み上げてきた自信が、音を立てて崩れ去っていくのが見えた。
僕はゆっくりとガルドの元へ歩み寄り、彼を見下ろした。
「ガルドさん。あなたは強い。泥臭く、自らの力だけでここまで上り詰めた。その努力とプライドは素晴らしいものです」
僕は息を吐くように、甘く冷たい声で囁きかける。
「ですが、個人の力には限界がある。あなたが命を削って得られる経験値など、たかが知れている。……僕の力を見ましたね? これは僕一人の力ではない。僕の背後にある、数千人の『盟友』の結晶です」
僕は懐から、ゴールドに輝く特注のアイギスブローチを取り出した。
「どうですか、ガルドさん。もう、無駄に命を削るのはやめにしませんか? 僕の側に来れば、あなたはそのプライドを保ったまま、寝ているだけでこの強大な力を手に入れることができる。不労所得という、真の勝者の領域へあなたを招待しますよ」
ガルドは震える手で、僕が差し出したゴールドブローチを見つめた。
彼の目の中で、強者としてのプライドと、「楽をしてこの圧倒的な力を手に入れたい」という抗えない欲望が交錯している。現実主義者である彼が、どちらを選ぶかは火を見るより明らかだった。
「……俺は……」
ガルドはゆっくりと手を伸ばし、そのブローチを強く握りしめた。
「……わかった。あんたの組織に入ろう。俺を、使ってくれ……」
陥落の瞬間だった。
南国のSランク冒険者が、自らの意思で見えない鎖に首を突っ込んだのだ。
後日。オーガキングの討伐による物流街道の解放と、希少鉱石の採掘再開の報を受けたドン・コルレは、約束通りギルドごと僕の傘下に下った。
莫大な紹介料(賄賂)と、逆らえばギルドごと消し飛ばされるという圧倒的な武力を見せつけられた彼は、喜んでその強欲な腹を僕に見せたのだ。
南国のギルドマスターと、Sランク冒険者。
この二つの絶対的な権威を手に入れたことで、「星盾の互助陣」は南国全土を完全に食い尽くすための、最悪のフェーズへと突入していく。




