第11話 報告会
【ルカ視点】
歓楽街の喧騒から少し離れた、薄暗い廃倉庫。ここが今の僕たちの拠点だ。
重い扉を開けると、そこには相変わらず仕立ての良い高級なスーツを隙なく着こなしたアレンの姿があった。彼は薄暗い空間に不釣り合いなほど優雅に、古い木箱を玉座のようにして腰掛けている。
「お帰りなさい、ルカ。……その様子だと、今夜の『収穫』も上々だったようですね」
アレンが口角を少しだけ上げて出迎えてくれる。その声には、すべてを見透かしているような絶対的な余裕があった。
「ただいま、アレン。ええ、大漁だったよ」
僕は上着を脱ぎながら、誇らしい気持ちで彼に会員が増えたことを報告した。
「ターゲットだったトマ君は、見事にカイル君の子会員になった。しかも、その場の熱気に当てられて、今夜中に自分の知人を三人勧誘するって息巻いて帰っていったよ。あの様子なら、明日には孫会員がさらに増えているはずだ」
「素晴らしい。君の演出と話術は、本当に完璧ですね」
「アレンの作った台本と、この魔法陣のおかげさ」
僕は胸元で輝くアイギスブローチに触れながら、心からの感謝を口にした。
かつて帝国の鉱山で、泥水にまみれてツルハシを振るっていた僕たち。あのままなら、過労で肺を潰して死んでいただろう。そんな僕たちを絶望の底から救い出し、圧倒的な力と富を与えてくれたのは、他でもない彼だ。
僕たちの真の目的は、故郷を奪った帝国を滅ぼすことだ。それは決して忘れていない。真の目的を共にする同志として、彼には絶対の信頼を置いている。
だが、僕はそれ以上に、アレンという男が作り上げたこの星盾の互助陣という完璧なシステムそのものに、深く、狂おしいほどに酔狂していた。
剣も魔法も使わず、ただ人間の『強欲』という感情だけを動力にして、ネズミ算式に力を吸い上げ続ける悪魔的数式。力があれば自然と富もついてくる。こんな美しいものを思いつく頭脳の持ち主が、ただの奴隷で終わるはずがないと思っていた。僕はアレンを心から尊敬している。
「アレン、君は本当に天才だよ。君についてきてよかった」
「褒めてもボーナスは出ませんよ、ルカ。……ですが、君の働きには感謝しています。引き続き、この調子で南国の冒険者たちを貪り尽くしてきてください」
「ああ、任せておいてくれ。この国の連中全員を、君の養分に変えてみせるさ」
僕はアレンに深く一礼し、充実感に胸を満たしながら倉庫の奥へと下がった。
+++
【アレン視点】
ルカが奥の部屋へ消えた後、僕は静かに手元の暗闇へと視線を移した。
「テオ、最新の流動データはどうなっていますか」
僕の問いかけに、傍らでずっと石板型の魔石演算機を見つめていたテオが、神経質そうに眼鏡を押し上げて答えた。
「驚異的なペースだよ、アレン。先ほどのトマの契約完了と同時に、南国支部全体の末端会員数が五千人を突破した。経験値の流入量を示すグラフは、まさに二次関数的な跳ね上がりを見せている」
テオが演算機の画面をこちらへ向ける。
そこには、僕を頂点とした巨大なピラミッド型の組織図が、青白い光を放って浮かび上がっていた。ルカやザックたちを第一階層とし、そこから枝分かれするように無数の光の点(下部会員)が連なっている。その末端の点の一つ一つが、今この瞬間も南国のダンジョンで魔物を狩り、汗を流し、血を流して得た『経験値』だ。
それらがパイプを伝う水のように、一律九十パーセントのマージンとして吸い上げられ、最上親である僕の元へと絶え間なく流れ込んできている。
「ふふっ……」
体の中を駆け巡る、純度百パーセントの魔力の奔流。
僕は一歩も動いていない。ただこの廃倉庫の木箱に座っているだけだというのに、僕の肉体と魔力回路は毎秒毎秒、信じられない速度で強化され続けている。末端の冒険者たちが『自分が上の立場になるため』に必死で働けば働くほど、僕は神の領域へと近づいていく。
「美しい……。なんて合理的で、完璧な搾取の数式なんだろうか」
僕は魔石演算機の光に照らされながら、氷のように冷たく微笑んだ。
だが、ここで満足する僕ではない。五千人の末端会員など、帝国を物理的に蹂躙するためのエネルギーとしては、まだ準備運動にすら満たない。
「テオ、このまま底辺の冒険者たちをチマチマと勧誘し続けても、いずれパイの奪い合いになり、拡大スピードは頭打ちになります。より効率的に、より爆発的にシステムを回すための『起爆剤』が必要です」
「起爆剤……? 具体的にはどうするつもりだい?」
「簡単なことです。上から蓋をしてしまえばいい」
僕は立ち上がり、南国の歓楽街が放つ喧騒の光を窓越しに見つめた。
「いくらルカの話術が巧妙でも、末端同士の勧誘には限界がある。ならば、『この国の頂点にいる人間もやっている』という絶対的な権威と社会的信用をシステムに組み込むんです」
「まさか、アレン……」
「ええ。次なるフェーズの開始です」
僕はアイギスブローチを指先で弾き、来るべき完全なる搾取の青写真を描きながら、静かに、そして残酷な笑みを深くした。




