第三十八話 魔法の最適化:なぜ最強の魔法使いほど小さな術しか使わないのか
前世で電車に乗っていたとき、よく中吊り広告を読んでいた。
「なぜ一流のビジネスマンほど仕事が少ないのか」「最小の努力で最大の成果を出す思考法」「無駄を削れ、本質だけ残せ」——そういう類の本だ。実際に読んだものもあるし、タイトルだけ眺めて終わったものもある。でも考え方は頭に残っていた。
コストを最小化して、効果を最大化する。
ビジネスの基本だ。
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なろう小説では、よく「魔法の真実に気づいて無敵になる」という展開があった。魔法言語は実はプログラミングだった、魔法陣は回路図だった、詠唱はコマンド入力だった——そういうやつだ。
正直、あまり好きじゃなかった。
魔法がその世界の主人公に都合のいいプログラミング言語だったり、キーボードを叩けば魔法が発動したり。ちゃんと設定を決めてほしかった。魔法には魔法の理屈があるはずだろうと。
ただ、実際に転生してみると話は別だ。そういう都合のいい展開があるなら大歓迎だった。
でも俺の前にキーボードは現れなかった。コンソール画面も出なかった。そういう都合のいい世界じゃない。
——ならば自分で考えるしかない。
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光るおもちゃを手に取った。丸くて、中心から光らせるとよく光る。
魔力を流すと中心が白く輝いた。
ラファエル先生には魔法を使うときには「意図」が大事であることを教わっている。何をしたいかはっきり思い浮かべること。シンプルだが、これが意外と難しい。曖昧な意図は曖昧な結果しか生まない。
練習を続けながら、ふと考えた。
魔力にもコストがかかる。毎回おもちゃを光らせるたびに、体の中の何かが少しずつ減っていく感覚がある。前世の感覚で言えば、体力ゲージみたいなものだ。
ならば——コストを最小化できないか。
必要な分だけ、精密に出す。無駄な出力を削る。ビジネスで言えばリソースの最適配分だ。大きな魔力を雑に使うより、小さな魔力を精密に使う方が効率がいいはずだ。
試してみた。
いつもより少ない魔力で、でも意図だけははっきりと。
おもちゃが光った。いつもと変わらない明るさで。
——コストが約三割削れた感覚だ。
これは発見じゃないか。
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調子に乗って、次の実験をした。
右手でおもちゃを光らせる。次に左手で同じようにやる。両手とも同じくらい光る。
ならば——両手同時にやったらどうなるか。
同じ意図を、同じ強さで、両手から同時に流した。
おもちゃが今までより明るく光った。
単純に倍になったわけじゃない。体感で一・五倍から二倍の間、いや出力の増幅率で言えばもう少し上かもしれない。右手と左手の魔力が互いに影響し合って、増幅している感覚がある。
——シナジー効果だ。
ビジネスで言えば、二つの部門が連携することで単純な足し算以上の成果が出る、あれだ。魔力も同じ構造を持っている。同質のエネルギーが引き合って、増幅する。
これは本当にすごい発見じゃないか。
コスト最小化と出力増幅。この二つを組み合わせれば——
俺は興奮しながらラファエル先生を見た。
内心では「コスト最適化と出力増幅の同時達成を発見しました、先生」と言いたかった。
口から出たのは——
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「……せんせ」
ラファエル先生が視線を向けた。
「みて」
おもちゃを持って、さっきの実験を再現した。まず片手で光らせる。次に両手で同時に光らせる。明るさが変わる。それからコストを削りながら光らせる。
ラファエル先生がしばらく黙って見ていた。
それから、珍しく口の端が上がった。
「……自力で気づいたのか」
「うん」
「大したものだ」
エリックは胸を張った。
「これには名前がある」ラファエル先生が続けた。「コストを削る方法は均衡の原則。同質の魔力が引き合って増幅するのは共鳴の原則という」
——名前がついてるじゃないか。
「……きそく?」
「魔法の基本原則だ。魔法が復活してから研究者たちが発見した原則だが、お前は自力で辿り着いた」
——もう発見されてるじゃないか。
「自力で気づいたのは大したものだ。筋がいい」
エリックはおもちゃを見た。
——車輪の再発明をしていた。
まあ、褒められたからいいか。




