第三十五話 ガーデンパーティーと友達の件
朝から家が騒がしかった。
使用人たちが庭に向かっていた。テーブルが運ばれていた。椅子が並べられていた。花が飾られていた。台所から料理長の声がしていた。
エミリーが「今日はガーデンパーティーですよ」と言った。
にこにこしていた。
——パーティーか。
年始レセプションのことを思い出した。あのときは寝てしまった。ヴァンドームの父と接触できなかった。今回こそだ。
今回は寝ない。それだけが今日の確実な目標だった。
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昼過ぎから客が集まり始めた。
知らない顔が多かった。株主・取引先・政財界の人間らしかった。フランス語・英語・その他の言語が混ざって聞こえた。庭が賑やかになった。
噴水が金色に輝いていた。
——人が多いから金色になっているのか。
それとも今日は最初から金色に設定されているのか。どちらかはわからなかった。でも金色だった。庭全体が光っていた。
エミリーが「坊っちゃんのお分は別にご用意しました」と言いながら小さな器を持ってきた。
——料理長か。
口に入れた。
——違う。
俺の舌が反応した。いつもの離乳食とは違った。複雑だった。ひよこ豆のピュレだった。なめらかだった。でも何かが混ざっていた。ハーブだった。ローズマリーだった。
——これはあの料理をイメージしたんだろう。
庭で大人たちが食べているものと同じ素材を使っていた。濃さが違う。でも方向性が同じだった。
——料理長、俺のことも考えてくれていた。
次の器が来た。野菜の裏ごしだった。ラタトゥイユをさらに柔らかくしたものらしかった。トマトとズッキーニの甘みが前に出ていた。魔法が入っているのかいないのか、絶対味覚では判断できなかった。
——わからないものはわからない。
素直に食べた。おいしかった。
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ヴァンドームの父が来た。
エミリーに抱かれながら、遠くから確認した。背が高かった。豪快に笑っていた。アルマン父さんと握手した。肩を叩き合った。久しぶりの再会らしかった。
——来た。
でも、子供の姿がなかった。
ヴァンドームの父の周囲を確認した。隣にいるのは大人だった。後ろにいるのも大人だった。どこを見ても大人だった。
——今日もいないのか。
視線を庭全体に向けた。
客が何十人もいた。全員大人だった。子供が一人もいなかった。
——そういえば。
考えた。
俺の周りには、子供がいない。
ずっとそうだった。生まれてから今まで、同世代と会ったことがなかった。家族がいる。エミリーがいる。先生たちがいる。使用人たちがいる。全員大人だった。
前世では気にしなかった。二十七歳のサラリーマンに同世代の友人がいなくても、別に不思議ではなかった。仕事があった。それで十分だった。
でも今は——
——友達、ほしいな。
初めてそう思った。
はっきりと思った。
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エミリーがパーティーの端を歩いていた。
俺を抱いたまま、客の間を静かに移動していた。ヴァンドームの父の近くを通った。
——今だ。
「こども、いる?」
と聞いた。
エミリーが止まった。
ヴァンドームの父が振り返った。アルマン父さんも振り返った。周囲の数人も振り返った。
静かになった。
一瞬だったが、静かになった。
ヴァンドームの父が俺を見た。それから、豪快に笑った。
「いるよ! 今日は来られなかったけどね」
アルマン父さんがヴァンドームの父を見た。ヴァンドームの父がアルマン父さんを見た。二人が顔を見合わせた。
「そろそろ会わせてもいいな」
アルマン父さんが言った。
ヴァンドームの父が頷いた。
「そうだな。次は連れてくる」
——会わせてもらえる。
俺はエミリーの肩越しに、ヴァンドームの父を見た。
豪快に笑っていた。格があった。この父親の子供だ。
——お嬢様だ。絶対お嬢様だ。
根拠はなかった。でもそういう気がした。
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その夜、エミリーが寝かしつけてくれた。
部屋が静かになった。
暗かった。
俺は天井を見ていた。
——次は連れてくる、と言った。
ヴァンドームの子供に会える。
——お嬢様だ。絶対お嬢様だ。根拠はない。でもそういう気がする。ずっとそう思っていた。ヴァンドームという名前の気品。父親の格。豪快に笑う様子の中にある余裕。総合すると——お嬢様という結論しか出ない。
ガッツポーズをしかけた。
こらえた。
ドローンがある。
——でも、嬉しい。
友達ができるかもしれない。しかもヴァンドームのお嬢様だ。根拠はないが。
俺は目を閉じた。
——次のパーティーまでに、もっとフランス語を上達させよう。
それだけ思った。




