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第三十四話 魔力の先生と俺の成長の件

今日、魔力トレーニングの先生が来ると聞いていた。


エミリーが朝から準備をしていた。いつもより少し静かな準備だった。ベルナールのときとは違う空気だった。


俺は考えた。


魔力のプロだ。上級魔法使いだ。父さんが選んだ人間だ。優秀なはずだ。


——今回こそ美人女教師だろう。


だが、男だったら最初に左手を見る。それだけだ。ジュリアン先生のときに学んだ。ベルナール先生のときは確認が遅れた。今回は最初から確認する。


——成長した。


エミリーが「もうすぐいらっしゃいますよ」と言った。


にこにこしていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


チャイムが鳴った。


エミリーが出迎えた。扉が開いた。


——来た。


俺は左手を見ようとした。


でも、一瞬だけ止まった。


廊下の光の中に、人が立っていた。


長身だった。細身だった。銀髪だった。白い肌だった。切れ長の目だった。表情がなかった。整った顔立ちだった。


静かな声だった。


「ラファエル・ヴァン・デン・ベルクです」


——綺麗な男だった。


左手を見た。


指輪があった。


——よし。


エミリーが出迎えた。にこにこしていた。いつものにこにこだった。引き気味ではなかった。


——ベルナール先生よりは落ち着いた先生らしい。


ラファエルが居間に入ってきた。父さんに挨拶した。母さんに挨拶した。丁寧だった。言葉が少なかった。必要なことだけ言った。


俺を見た。


何も言わなかった。しばらく見ていた。


それから、頷いた。


——評価されたのか、されていないのかわからなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ラファエルが部屋を見回した。


光るおもちゃが見えた。棚の上に置いてあった。毎日練習していたやつだ。


「これで練習していたのか」


静かな声だった。


俺は頷いた。


ラファエルが光るおもちゃを手に取った。しばらく見ていた。表情が動かなかった。


「見せてくれ」


俺はおもちゃを受け取った。魔力を込めた。光らせた。いつも通りだった。最初の頃より長く光らせられるようになっていた。


ラファエルが見ていた。


表情が動かなかった。


しばらく沈黙だった。


「——独学にしては、悪くない」


それだけ言った。


褒めているのかどうかわからなかった。でも悪くない、と言った。


——悪くないらしい。


「ただ」


ラファエルが続けた。


「魔力の流し方が雑だ。力は出ているが、無駄が多い」


——雑か。


自覚はなかった。でも否定もできなかった。正しいやり方を知らないまま続けていたのだから、雑になっていても不思議はなかった。


ラファエルが自分の手のひらを見せた。


魔力を込めた。


光った。


——違う。


同じ光でも、密度が違った。均一だった。無駄がなかった。俺のものとは質が違った。


「見ていろ」


ラファエルが言った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ラファエルが話し始めた。


言葉が少なかった。でも一言一言が正確だった。


「魔法の基本は三つある」


指を立てた。


「法則。原則。意図だ」


俺は聞いていた。


「法則は変えられない。世界の仕組みだ。原則は技術だ。意図は——」


少し間を置いた。


「お前が何をしたいか、だ」


——意図。


「今、光らせたとき、何を考えていた」


俺は少し考えた。


——光れ、と思っていた。それだけだ。


ラファエルが頷いた。


「それが意図だ。悪くない。ただ——漠然としている」


おもちゃを俺の前に置いた。


「もう一度やれ。今度は、どこを光らせたいか、どのくらい光らせたいか、はっきり思い浮かべてからやれ」


俺はおもちゃを見た。


——中心から光らせる。端まで均一に。強く。


魔力を込めた。


光り方が、さっきと違った。


——あ。


均一だった。さっきより安定していた。無駄が減った気がした。同じ魔力でも、流し方を変えただけで結果が変わった。


ラファエルが見ていた。


「——それだ」


表情は動かなかった。でも声が、ほんの少し違った。


「意図が明確なとき、魔力は応答する。それだけ覚えておけ。今日はそれだけでいい」


——それだけでいい。


一つだけだった。でも一つで十分だった。


俺はもう一度おもちゃに魔力を込めた。


——中心から。均一に。


光った。


さっきより、また少し安定していた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


授業が終わった。


ラファエルが立ち上がった。荷物をまとめた。無駄のない動きだった。


「来週また来る」


それだけ言った。


エミリーが玄関まで見送った。扉が閉まった。


静かになった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


俺はおもちゃを見た。


もう一度やってみた。


——中心から。均一に。強く。


光った。


安定していた。先週までとは違う光り方だった。同じ魔力だった。同じおもちゃだった。でも意図を明確にしただけで、結果が変わった。


——なるほど。


独学でやっていた一年間は無駄ではなかった。でも正しいやり方は別物だった。力は出ていた。でも無駄が多かった。意図が漠然としていた。


——もっと早く習いたかった。


でも今からでも遅くはない。


エミリーが隣に来た。


「ラファエル先生、いかがでしたか」


俺はしばらくおもちゃを見ていた。


——綺麗な男だった。指輪があった。教え方は正確だった。褒めなかった。でも悪くなかった。


「よくわかった」


と答えた。


エミリーがにこにこしていた。


——三人目、合格だ。


誰に言うわけでもなかったが、そう思った。

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