第二十三話 レセプションと転生者作戦
新年だった。
年が変わると、父の仕事のペースが変わる。それはなんとなくわかっていた。使用人たちの動きが速くなって、父が来客を迎える回数が増えた。
そして今日——明らかに規模が違った。
冬至祭りでも誕生日パーティーでもない。来る大人たちの顔が、ほとんど知らない顔だった。父が一人ずつ丁寧に迎えている。取引先だ。前世の営業経験が、静かに反応した。
——年始のレセプションか。
エミリーに抱かれながら、俺は場を観察した。
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冬至祭りで、俺は「よろしくおねがいします」で場を沸かせた。
あれは成功だった。でも——同じ手は使えない。一度やった芸を二度やるのは、営業として下策だ。今回は別の方向で印象を残す必要がある。
なろう小説の転生者として考えれば——幼少期に有力者の目に留まっておくことは重要だ。
「あの子は普通ではない」と思わせる。それだけで後々の展開が変わる。
——作戦を立てよう。
俺はエミリーの腕の中で、静かに考えた。
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——作戦その一。賢そうな目で見つめる。
最初の客が俺の顔を覗き込んできた。
白髪の男性だった。格のある立ち方をしていた。にこにこしながら俺の顔に近づいてきた。
——今だ。
俺は笑わなかった。愛想も振りまかなかった。ただ——男性の目を、まっすぐに見た。分析するように。値踏みするように。前世で取引先と交渉するときの目で、静かに見つめた。
男性が、少し固まった。
それから父親に何か言った。
——この子、目が据わっている。
そういうニュアンスだった。
——成功、なのか?
褒め言葉かどうかは微妙だった。でも印象は残った。それでいい。
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——作戦その二。媚びない。
次の客が来た。今度は女性だった。柔らかい雰囲気の人だった。俺を見て、笑顔になった。
——媚びない。
なろう小説の転生貴族は、むやみに愛想を振りまかない。相手を選ぶ。格を保つ。それが後々の威厳につながる。
俺は無表情を維持した。
女性がさらに笑顔で近づいてきた。
俺は無表情を維持した。
女性が何か言いながら、俺の頬に触れた。
——くすぐったい。
無表情が、崩れた。
女性が声を出して笑った。母親も笑った。エミリーもにこにこしていた。
——崩れた。
媚びていないのに笑ってしまった。作戦の失敗なのか成功なのか、判定が難しかった。
——まあ、そうか。
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——作戦その三。魔力を流してみる。
これが本命だった。
毎日球体のおもちゃで練習してきた。魔力を体の外に少し流す感覚は、最近つかめてきた気がしていた。もし魔力を感知できる大人がいれば——「この子はただ者ではない」と気づくはずだ。
次の客が来た。
俺は静かに、魔力を少しだけ流してみた。
——どうだ。
客は俺を見て、にこにこしていた。
——気づいていない。
もう少し強く流してみた。
客は父親と話し始めた。
——完全に気づいていない。
俺は魔力を引っ込めた。
——まだそのレベルではないということか。
地道にやるしかない。
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客が入れ替わり続けた。
俺は都度、作戦を使い分けようとした。この人には据わった目で。この人には魔力を——気づかれなかった。この人には——
——眠くなってきた。
まずい。
ヴァンドームがもし来るなら、今日こそ性別の情報が得られるかもしれない。そのためにも意識を保っておかなければならない。
——起きていろ。
でも——人の声が続いていると眠くなる。暖かい部屋で、エミリーの腕の中で、大人たちの声が波のように続いていると——
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目が覚めた。
静かだった。
部屋の光の粒がゆっくりと漂っていた。客の姿はなかった。父親も母親もいなかった。エミリーだけが、隣で静かに座っていた。
——終わっていた。
「よく眠れましたか、坊っちゃん」
エミリーがにこにこしながら言った。
俺は天井を見た。
——ヴァンドームは、来たのか。
わからなかった。来たとしても、俺は寝ていた。性別どころか、顔も見ていない。来なかったとしても、確認する術がない。どちらにしても、結果は同じだった。
——また、次だ。
次のレセプションがあるなら、今度は寝ないようにしよう。作戦も練り直す必要がある。据わった目は使える。媚びないは難しい。魔力はまだ早い。
——一勝一敗一継続中、といったところか。
自分採点だが。
来年のレセプションでは、寝ないようにしよう。
それだけが、今日の確実な教訓だった。




