↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された地味令嬢ですが、実は王宮一の補佐でした ~捨てたのは第一王子? いいえ、私は第二王子と国を立て直します~  作者: 紅茶うさぎ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
90/136

第90話 均衡の副作用

 均衡条約が成立してから、七日。王都の市場は安定を取り戻しつつあった。だが、その安定は、他の場所で歪みを生んでいた。


「西方第二都市、暴動拡大」


 報告が読み上げられる。数字は三つとも悪い方向に揃っている。


「物価上昇率二十二%」

「失業率急増」

「連盟加盟後の資金流入が偏在」


 エリシアが目を細める。三つの数字は、同じ一つの原因を指している。


「……資本が都市部に集中」


「地方経済が崩壊しています」


 ルークが補足する。かつて自分が信じた仕組みの、影の側だった。


「連盟は安定を“点”で作る」


「だが面では歪む」


 第一王子が低く言う。点と面、という言い方を、彼は書き留めた。


「王国は均衡を保った」


「だが他国はそうではない」


 沈黙。王国が生き延びた代償でもある。均衡は移動する。


 西方。石畳の通りに炎が上がる。


「物価が上がるのに賃金は変わらない!」

「連盟は都市しか見ていない!」


 民衆の怒りは、王ではなく“構造”へ向かう。だが矛先は曖昧だ。だから暴発する。


 同時刻。連盟臨時公館。カイウスは報告を受けていた。


「暴動は想定内です」


 部下が言う。想定内、という語を使うのに、迷いが無い。


「局地的な不安定は許容範囲」


 カイウスは頷く。許容範囲の中身を、彼は一度も数えたことがない。


「安定とは全体最適だ」


「局所の犠牲は避けられない」


 その言葉は冷たい。だが合理的でもある。


 別室。アルヴェインは同じ報告を読んでいた。


「……偏在」


 小さく呟く。同じ報告を、まったく違う語で受け取っていた。


「資本の流れが早すぎる」


 部下が問う。是正の指示は、この人の一言で出せる。


「是正しますか」


 アルヴェインは首を振る。止めないことも、彼にとっては選択だった。


「今はしない」


「均衡条約の影響も見たい」


 彼は観察している。王の選択が、世界にどう作用するか。


 王都。エリシアは地図に印をつけていた。西方暴動地点。資本流入ルート。連盟加盟国の変動。


「……集中と排除」


 静かな声だった。印を打つほど、集中と排除の形がはっきりする。


「均衡は維持されている」


「だが公平ではない」


 レオンハルトが後ろから言う。いつから立っていたのかは分からない。


「均衡と公平は違う」


「はい」


 振り返る。二つの語の差を、彼女は帳簿の上で見てきた。


「連盟は均衡を作る」

「ですが人は公平を求める」


 第一王子が腕を組む。感情という語を、彼は否定の意味で使わなかった。


「公平は感情だ」


「だが無視すれば反乱になる」


 現実だった。ルークが言う。


「連盟はそれを“ノイズ”として扱う」


「ですが王は違う」


 視線がレオンハルトへ向く。沈黙。王は静かに言う。


「救う」


 短い言葉だった。救う、と口にしてから、方法を考える人ではない。


「西方に支援を出す」


 第一王子が眉をひそめる。他国、という一語には、費用の重みがある。


「他国だぞ」


「均衡条約の一部として動く」


 エリシアがすぐに理解する。政治で入れば内政干渉、制度で入れば履行になる。


「共同基金を活用」


「政治ではなく制度として介入」


 ルークの目がわずかに揺れる。連盟の枠組みを、逆向きに使う発想は無かった。


「……それは」


「連盟の論理を使い、連盟を超える」


 王は言い切る。超える、という語を、勝ち負けの意味では使っていない。


 その夜。西方暴動都市に、王国の支援物資が届く。均衡条約の枠組みを使って。食料。燃料。最低限の信用保証。


 暴動はすぐには収まらない。だが、民は知る。


「王国は来た」


 その事実が残る。


 同時刻。アルヴェインは報告を受ける。


「王国が西方へ介入」


 彼は静かに目を閉じる。介入の速さより、その建て付けに驚いていた。


「……そうか」


 わずかな沈黙が落ちた。


「彼は均衡を使って公平を作るか」


 初めて、思考が揺れる。


「面白い」


 その声は小さい。だが確かに熱を帯びていた。


 救う、と彼は言った。方法を考える前に、そう言った。


 エリシアは地図に最後の印を打ち、筆を置いた。制度として入れる案を組み上げるのに、夜の半分を使うことになる。


 それでも、あの一語が先に出たことのほうを、彼女はしばらく忘れないでいた。

均衡が保たれた場所の外側で、歪みが出ます。


安定を点で作ると、面では壊れる。これは連盟の欠陥であると同時に、この国がこれから引き受ける問題でもあります。アルヴェインがこの回で初めて揺れます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。