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婚約破棄された地味令嬢ですが、実は王宮一の補佐でした ~捨てたのは第一王子? いいえ、私は第二王子と国を立て直します~  作者: 紅茶うさぎ


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第77話 議場

 王国議会は満席だった。戴冠から一週間。金融市場は一度持ち直したが、不安は消えていない。


 本日の議題は、王の名を伴っていた。議場の入口に貼られた表題を、誰もが二度読む。


「財政健全性と王の責任」


 ローディア侯爵が静かに立ち上がる。声は穏やか。怒号ではない。


「我らは王の理想を否定しない」


 ざわめき。否定しない、と置いてから始めるのが彼の型だった。


「だが数字は事実を示す」


 資料を掲げる。掲げた紙は、議員全員に写しが配られていた。


「改革後、歳入は一時減少」


「補助支出は増加」


「外資信用は不安定」


 理詰めだった。感情を排した攻撃でもある。


「王は市場操作を“外部の仕業”とする」


「だが市場が揺れるのは信頼が揺れるからだ」


 議場が静まる。信頼が揺れるから、と言われて反証を出せる者はいない。


「王国は孤立路線を歩むのか」


 その一言が重い。第一王子が立つ。


「孤立ではない」


 低い声だった。孤立ではない、という否定を、彼が先に引き受けた。


「新貿易協定を締結済み」


「準備金も十分」


 侯爵は即座に返す。用意されていた返しだった。


「短期は持つ」


「では長期は」


 沈黙。議場の視線が玉座へ向く。レオンハルトはゆっくり立ち上がる。


「長期は築くものだ」


 低く、強い声だった。長期は、と問われて、築くと答えた。


「連盟に加盟すれば安定は買える」


「だが未来は売る」


 ざわめきが走る。買えると認めたうえで、売るもののほうを数えた。


「王国は選ぶ」


「依存ではなく、自立を」


 侯爵は目を細める。自立、という語には、費用の裏付けが要る。


「理想論だ」


「現実を見よ」


 その瞬間。議場後方から声。


「現実なら、ここにある」


 ルークだった。全員が振り向く。彼は資料を持っている。


「市場急落の資金流れ分析」


 ざわめきが起きる。財務監察官が議場に立つ予定は、今日の次第に無い。


「国外複数口座を経由」


「最終集約先は――」


 一瞬、言葉が止まる。迷い。だが。


「オルディア連盟関連金融機関」


 議場が凍る。ローディア侯爵の目がわずかに揺れる。


「証拠は」


「資金連鎖追跡済み」


 ルークの声は震えない。震えていないことのほうが、彼には難しかった。


「王国単独では勝てないと考えた」


「だが」


 一瞬、王を見る。見てから、視線を議場全体へ戻した。


「市場は揺らせても、王は揺れなかった」


 沈黙。


「私は連盟と接触した」


 ざわめきが爆発する。接触した、と自分から言う理由が、誰にも分からない。


「だが暗殺も暴動も望んでいない」


「安定を求めただけだ」


 正直な告白だった。第一王子が静かに言う。


「自ら証言するのか」


「責任は私にある」


 議場がざわつく。レオンハルトは静かに言う。


「処分は後だ」


「今は事実を示せ」


 ルークは頷き、続ける。処分は後だ、と言われたことで、声が戻った。


「連盟は“直接命じない”」


「市場と思想を動かす」


「国家を内側から揺らす」


 議場が静まり返る。ローディア侯爵はゆっくりと座る。理詰めの攻撃は崩れた。だが戦いは終わらない。


 レオンハルトは宣言する。守りの話は、そこで終わりだった。


「連盟の影響力を公表する」


「そして新たな金融監査機関を設立」


 第一王子が即座に続く。打ち合わせは無い。それでも二人の案は噛み合った。


「王国独自の信用保証制度を構築する」


 議場に波が広がる。これは防戦ではない。攻勢だ。


 ルークは静かに目を閉じる。彼は裏切り者かもしれない。だが今、彼は王側に立った。


 議会は閉会。


 退出のとき、ルークは誰とも目を合わせなかった。責任は私にある、と言った男の背に、誰も声をかけない。


 エリシアだけが、その背をしばらく見ていた。声をかけるべきかどうかを決めかねたまま、結局かけなかった。

ローディア侯爵の攻撃は、感情を一切使いません。


数字だけで詰めてくる相手をどう崩すか、というのがこの回の設計です。崩したのは反論ではなく、構造の開示でした。ルークが自分の関与を明かす側に回ります。

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