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婚約破棄された地味令嬢ですが、実は王宮一の補佐でした ~捨てたのは第一王子? いいえ、私は第二王子と国を立て直します~  作者: 紅茶うさぎ


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第76話 市場の刃

 異変は三日後に起きた。王都証券取引所。朝の鐘と同時に、王国債が急落する。


「売りが集中しています!」


「西方口座経由!」


 怒号が飛び交う。商会株も連鎖的に下落。信用不安の噂が瞬時に広がる。市場は戦場だった。


 王宮。


「意図的だな」


 第一王子が低く言う。報告書には、国外投資家による大規模売却の痕跡があった。


「連盟か」


 レオンハルトの声は静かだ。名を出したのは、確かめるためではない。


「直接証拠はありません」


 ルークが答える。無い、と言い切るのが仕事の顔だった。


「だが資金の流れは高度に組織的」


 エリシアが資料を見つめる。


「信用格付け機関の声明も出ています」


 “王国の財政運営に不透明性あり”。偶然ではない。市場は揺さぶられている。


「対抗策は」


 第一王子が問う。ルークは一瞬躊躇う。躊躇ったのは、答えが無いからではなかった。


「中央準備金の放出」


「だが長期戦は不利」


「連盟は資本規模が違います」


 静かな絶望だった。レオンハルトは窓の外を見る。民衆はまだ異変を知らない。


「恐怖は市場から来る」


 低く呟く。市場から来る恐怖には、剣も城壁も効かない。


「ならば市場に示せ」


 第一王子が振り向く。示せ、という語の意味を、まだ測りかねている。


「何をだ」


「国家の意思だ」


 その日の午後。王は突然、公開演説を行う。証券取引所前。混乱の只中だった。


「王国は破綻しない」


 強い声だった。破綻しない、と王が自分の口で言うのは初めてだ。


「中央準備金は十分」


「新税制は予定通り実施」


「補助は維持」


 市場参加者がざわめく。維持する、という語が三つ続いた。


「そして」


 エリシアが一歩前に出る。前夜のうちに、返事は三国から届いていた。


「王国は西方小国三国と貿易予備協定を締結」


 予想外の一手だった。市場が止まる。第一王子が静かに続ける。


「信用保証は王国自身で構築する」


 外資に頼らない姿勢だった。


 その夜。暴落は止まる。完全ではない。だが底を打つ。


 王宮。ルークは一人、計算書を見つめる。


「……即応性」


 王の行動は予測外だった。恐怖を広げる前に、信頼を打ち出した。


「数字は揺れたが、崩れていない」


 彼の中で何かが崩れ始める。


 一方。ローディア侯爵の書斎。


「市場操作が止まった?」


 報告を聞き、眉をひそめる。


「王は思った以上に早い」


 側近が言う。報告の紙は、まだ手の中で折られたままだった。


「連盟の意図は」


「揺らしだ」


 侯爵は冷静だ。倒す気の無い相手の手つきを、彼はよく知っている。


「だが王は揺れない」


 沈黙。


「ならば」


 机に指を打つ。


「次は議会だ」


 王都。深夜。紺色の手袋をはめたカイウスが書簡を書く。


『第一段階、効果限定的』


『王は即応型』


『次段階へ移行』


 静かな笑みを浮かべる。


「面白い」


 王宮では、演説から戻った王が上着も脱がずに窓辺に立っていた。市場の灯りが一つずつ戻っていくのを、最後まで数えている。


 エリシアが茶を置くと、飲まないまま、ありがとう、とだけ言った。


 冷めてしまうまで、彼は窓から離れなかった。

剣ではなく、売り注文で殴られる回です。


軍事の圧力と違って、金融の圧力には音がありません。誰が押したのかも分からない。それでも港は止まるし、パンの値は上がる。そういう戦い方を正面から書いてみたかった回です。


こういう静かな殴り合いが好きだという方は、ブックマークで応援していただけると嬉しいです。

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