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婚約破棄された地味令嬢ですが、実は王宮一の補佐でした ~捨てたのは第一王子? いいえ、私は第二王子と国を立て直します~  作者: 紅茶うさぎ


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第73話 疑念

 王宮は封鎖された。兵が廊下を埋め、使用人までもが拘束対象となる。


 矢は王の執務室の窓を正確に射抜いた。射線は中庭の回廊から。内部構造を熟知していなければ不可能だ。


「外部犯ではない」


 第一王子が低く言う。回廊の位置を知る者は、限られている。


「内部協力者がいる」


 レオンハルトの肩には浅い傷。血は止まっている。だが空気は重い。


「戴冠式は延期すべきだ」


 軍務官が進言する。守る側として、当然の判断だった。


「警備が万全になるまで」


 沈黙。エリシアが静かに言う。


「延期すれば、王が揺らいだと示すことになります」


 それは事実だった。暗殺未遂の直後に延期。民意は不安に傾く。


 第一王子が弟を見る。助言はここまでだ、という顔をしていた。


「決断はお前だ」


 王の顔をしていた。レオンハルトは短く答える。


「予定通り行う」


 室内が凍る。予定通り、の四文字に、誰も言葉を返せなかった。


「警備を倍化」


「内部調査は即時」


 低く、迷いなく言う。視線が、ゆっくりとルークへ向く。彼は一歩も動いていない。


「財務局の資料管理は」


「私の管轄です」


 静かな声だった。管轄だと自分から認めたのは、逃げないためだろう。


「射線の構造図も財務資料に含まれる」


 空気が重くなる。第一王子が踏み込む。


「連盟との接触は」


「公式ではありません」


「非公式はあるのか」


 沈黙。ルークは目を閉じる。


「接触はありました」


 正直な告白だった。室内がざわめく。


「だが暗殺とは無関係です」


「証明できるか」


 言葉が詰まる。できない。彼は資料を流した。思想を広げた。結果、王が狙われた。


「私は殺しを望んでいない」


 低い声だった。望んでいない、という言葉だけは本当だと分かる。


「だが」


 レオンハルトが静かに言う。罰する声ではない。順序を確かめる声だった。


「お前の流した情報が揺らぎを生んだ」


 ルークは拳を握る。反論の形が、もう残っていない。


「民を守るためだ」


「主権を売ることでか」


 鋭い一言だった。沈黙。その時、兵が駆け込む。


「犯人拘束!」


 全員が動く。回廊に跪く男。王宮の下級書記官。震えている。


「誰に命じられた」


 第一王子が問う。誰に、と訊いた声が、廊下に響いた。


「知らない……」


「手紙が届いた」


「王が国を滅ぼすと」


 洗脳に近い思想だった。背後は見えない。だが構造は明らかだ。連盟は“直接命じない”。思想と情報で動かす。


 王は静かに言う。式は行う、と先に置いてから理由を言った。


「戴冠式は行う」


 強い声だった。


「恐怖に屈しない」


 ルークの目が揺れる。彼の計算には“暗殺未遂”はなかった。彼は安定を望んだ。だが流れは暴力へと変わった。


「陛下」


 かすれた声だった。陛下、と呼ぶまでに時間がかかった。


「私は」


 レオンハルトは遮る。言わせなかったのは、いま言えば嘘になるからだ。


「処分は後だ」


「今は式だ」


 その言葉は、断罪でも許しでもない。王の判断だった。


 夜明けが近づく。戴冠式まで、あと数時間。王国は血の匂いの中で、未来を選ぼうとしている。

犯人が誰か、ではなく、どういう構造で人が動かされたか、を書いています。


命じないこと。手紙で思想だけを渡すこと。この手口は、後で連盟という組織の名前がついたときに、もう一度出てきます。


背筋が寒くなったという方がいらしたら、ブックマークで棚に入れておいていただけると嬉しいです。

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