第71話 現場の王子
ローディア領の空気は、張り詰めていた。
閉鎖された倉庫。
職を失った労働者。
集まる群衆。
「王都は俺たちを見捨てた!」
怒号が飛ぶ。
だがそれは暴徒ではない。
不安を抱えた民だ。
そこへ、馬車が到着する。
第一王子が降り立った。
護衛は最小限。
鎧ではなく、簡素な外套。
群衆がざわめく。
「王の使いか」
「違う」
第一王子は自ら前に出る。
「私は兄だ」
短い言葉。
静寂が落ちる。
「王は制度を変えた」
「だがお前たちを捨てたわけではない」
落ち着いた声。
「補助は続く」
「だが依存は終わらせる」
ざわめき。
「新港湾では労働再配置計画を進める」
「三ヶ月以内に再雇用枠を確保する」
数字を提示する。
感情ではなく現実。
「暴れれば早まるだけだ」
静かな圧。
「王を信じろ」
その言葉には、兄としての重みがある。
群衆の熱が、少しずつ下がる。
ローディア侯爵は遠くからそれを見ていた。
「……やはり優秀だな」
小さく呟く。
単純な扇動では崩れない。
「ならば理で攻める」
王都。
第一王子の報告が届く。
「鎮静成功」
レオンハルトは頷く。
「兄上に感謝を」
エリシアは静かに言う。
「しかし、書簡の流出は止まりません」
第二通目。
今度は税制案の内部草案。
しかも修正前のもの。
「完全に中枢だ」
第一王子が帰還後、低く言う。
「財務局か、王直属補佐室」
ルークは無言で立っている。
「調査を拡大します」
その声は平静。
だが内側では、葛藤が膨らんでいた。
夜。
再び紺色の封書。
「民意は揺れ始めた」
「王は孤立する」
そして新しい資料。
他国の財政崩壊例。
すべて“単独路線”を選んだ国。
「同じ道を歩ませるのか」
ルークは机を叩く。
「私は裏切り者ではない」
だが。
自分が流した資料が波紋を広げている。
王宮。
エリシアは一人、資料を見ていた。
「流出のタイミングが不自然」
彼女の目は鋭い。
「財務報告直後」
視線がゆっくりと動く。
ルークへ。
彼は気づかない。
あるいは気づいているが、動じない。
戴冠まで、あと一日。
王国は表面上安定している。
だが内部の亀裂は、確実に広がっていた。
そしてその亀裂は。
まだ誰も知らない“本当の衝撃”へと繋がっていく。
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