第55話 王都暴動
最初に割れたのは、倉庫の窓だった。
石が投げ込まれ、ガラスが砕ける。
怒号が上がる。
「価格を下げろ!」
「王族は何をしている!」
中央市場は、瞬く間に混乱へと変わった。
商人が逃げる。
荷車が倒れる。
誰かが火を放つ。
煙が立ち上る。
王宮に急報が届いた。
「中央市場で暴動発生!」
レオンハルトは立ち上がる。
「行く」
「危険です!」
「今行かなければ、王ではない」
即断。
エリシアも迷わない。
「私も」
「……わかっている」
短い返答。
現場。
煙が視界を覆う。
叫び声。
泣き声。
怒りと恐怖が混ざり合う。
「第二王子だ!」
誰かが叫ぶ。
一瞬、怒号が向く。
「改革のせいだ!」
「物価が上がった!」
石が飛ぶ。
護衛が前に出る。
だがレオンハルトは一歩前へ出る。
「話を聞け!」
声を張る。
怒号は止まらない。
エリシアが彼の横に立つ。
「小麦は明日、融資解除で流れます!」
はっきりと。
「価格統制ではなく、流通で戻します!」
「嘘だ!」
「帳簿は公開する!」
即答。
「資金の凍結は不正操作です!」
群衆が揺れる。
その時。
火が倉庫の奥で大きく燃え上がる。
「子どもが中に!」
悲鳴。
迷いはなかった。
エリシアが走る。
「待て!」
レオンハルトが叫ぶ。
だが彼女は煙の中へ。
数秒。
長すぎる沈黙。
次の瞬間。
彼も飛び込んだ。
護衛の制止を振り切る。
炎の熱気。
崩れる木材。
咳き込みながら、子どもを抱えるエリシアを見つける。
「無茶を」
「殿下こそ」
視線が絡む。
炎が迫る。
彼は彼女の肩を掴み、出口へ押し出す。
外へ転がり出る。
歓声ではない。
驚きの声。
王族が炎の中へ入った。
それは理屈ではない。
行動だ。
レオンハルトが子どもを抱き上げ、群衆の前に立つ。
「私は王位を争う!」
煙の中、声が響く。
「だがそのために民を犠牲にしない!」
沈黙。
「価格は戻す!」
「責任は私が取る!」
怒号が止まる。
完全ではない。
だが揺らぎが変わる。
エリシアが、彼の隣に立つ。
焦げた袖。
だが目は強い。
「帳簿は明日公開します!」
「不正資金の流れも示します!」
群衆の空気が、少しずつ変わる。
恐怖から、注視へ。
その様子を遠くから見る影。
ガルドは眉をひそめる。
「……火を恐れないか」
想定外。
暴動は鎮圧ではなく、対話で沈静化し始めた。
夜。
火は消えつつある。
負傷者が運ばれる。
エリシアの腕の包帯が、再び赤く滲む。
レオンハルトが気づく。
「無理をするな」
「殿下も」
互いに譲らない。
だが視線は、以前より近い。
煙の匂いの中。
彼は低く言う。
「私は王になる」
はっきりと。
「だが」
視線が揺れる。
「あなたを失っては意味がない」
炎より熱い言葉。
暴動は、完全には終わっていない。
だが。
王都の空気は、確実に変わった。
王位争いは、言葉から行動へ。
そして。
感情もまた、限界を超えようとしている。




