表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された地味令嬢ですが、実は王宮一の補佐でした ~捨てたのは第一王子? いいえ、私は第二王子と国を立て直します~  作者: 紅茶うさぎ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/60

第38話 帰還

 王都の門をくぐった瞬間、空気が違った。


 港の潮風とは違う、乾いた緊張。


 石畳を進む馬車の音が、やけに響く。


 エリシアは、窓越しに王宮を見上げた。


 変わらぬ白い壁。


 だが、戻ってきた自分の立場は、以前とは違う。


「噂は、すでに広がっています」


 カイルが低く言う。


「港での件、召還拒否、予備費使用」


「ええ」


 エリシアは静かに頷く。


「第二王子が民衆を煽った、とも」


 小さく息を吐く。


 予想通りだ。


 馬車が止まる。


 王宮の玄関前。


 侍従や文官の視線が、一斉に向く。


 以前は無関心だった視線。


 今は違う。


 評価と警戒が混ざっている。


「殿下」


 エリシアが小さく声をかける。


「距離を」


「ええ」


 短い返答。


 並んでいた二人は、わずかに間を空ける。


 公的距離。


 王宮内では必要な線。


 だがそのわずかな空白が、逆に強調される。


「第二王子殿下」


 第一王子派の管理官が現れる。


「帰還、確認いたしました」


 形式的な礼。


「王族会議は明日午前」


「承知しています」


 淡々とした応答。


 視線がエリシアへ向く。


「補佐官殿も同席予定ですが」


 一瞬の間。


「資格審議が行われる可能性がございます」


 はっきりとした牽制。


「理解しています」


 エリシアは答える。


 声は揺れない。


 管理官は小さく頭を下げ、去っていく。


 王宮の廊下を歩く。


 ざわめきが止まる。


 視線が追う。


「歓迎されてはいませんね」


 エリシアが静かに言う。


「歓迎は不要です」


 レオンハルトは前を見たまま答える。


「必要なのは、結果です」


 その声は変わらない。


 だが。


 彼の歩幅が、ほんのわずかにエリシアに合わせられている。


 気づく。


 何も言わない。


 執務室へ入ると、机の上にはすでに書類の山。


「告発書です」


 カイルが一枚を差し出す。


 第一王子名義。


 内容は予想通り。


 王命軽視。

 財政独断。

 補佐官越権。


 エリシアは、静かに目を通す。


「……来ましたね」


「ええ」


 レオンハルトは椅子に腰を下ろす。


「想定内です」


「殿下」


 エリシアは顔を上げる。


「明日の会議、私は退席すべきかと」


 一瞬、空気が止まる。


「なぜですか」


「資格審議があるなら、殿下の立場が」


「関係ありません」


 即答。


 だが声は穏やかだ。


「あなたは補佐官です」


「ですが」


「私が選んだ」


 短い言葉。


 それ以上の説明はない。


 エリシアの胸が、わずかに締めつけられる。


「……承知しました」


 公的な返答。


 だが内側では、別の感情が揺れる。


 夜。


 王宮の灯りが落ちる頃。


 エリシアは一人、廊下を歩いていた。


 港での歓声が、まだ耳に残っている。


 だがここでは、冷たい視線だけ。


「後悔は」


 不意に声がする。


 振り向くと、レオンハルト。


「ありません」


 即答。


 だが続ける。


「ただ」


「ただ?」


「ここは、港より冷たい」


 小さな本音。


 彼は、わずかに笑う。


「慣れています」


「私は慣れません」


 正直な言葉。


 一瞬の沈黙。


「明日、何があっても」


 彼が静かに言う。


「あなたを切り離すことはありません」


 廊下の灯りが、揺れる。


 公の場では言えない言葉。


「……殿下」


「これは命令ではない」


 一歩、近づく。


 触れない距離。


「私の意思です」


 心臓が、強く鳴る。


 王宮の冷たい空気の中で。


 確かに温度がある。


 エリシアは、ゆっくりと頷いた。


「明日も、隣に立ちます」


「ええ」


 短い肯定。


 王宮は静かだ。


 だがその静けさの下で、嵐は確実に近づいている。


 王族会議。


 告発。


 資格審議。


 そして。


 王位問題。


 戦いは、王都の中心で始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ