第36話 選ぶ覚悟
正式な召還命令は、翌朝届いた。
今度は第一王子名義ではない。
国王の名。
「港湾視察を一時終了し、速やかに帰還せよ」
文面は簡潔だった。
だが意味は重い。
第一王子側が、国王を動かした。
「従えば、港の再設計は王都主導に戻ります」
カイルが静かに言う。
「従わなければ」
「命令違反」
空気が重くなる。
セリーナは黙っている。
港の未来が、この判断にかかっている。
「殿下」
エリシアが口を開く。
「帰還を」
レオンハルトは、わずかに視線を向ける。
「続けてください」
「……帰還を選べば、対立は一旦沈静化します」
「ええ」
「残れば、王位問題に発展します」
沈黙。
その通りだ。
「ですが」
エリシアは続ける。
「今ここで戻れば、港は切り捨てられます」
民衆の信頼も。
密輸の証拠も。
「私は」
小さく息を吸う。
「残るべきだと思います」
静まり返る室内。
これは補佐官としての意見。
だが、それ以上でもある。
「あなたが矢面に立つことになります」
レオンハルトの声は低い。
「承知しています」
「王宮での立場も危うくなる」
「承知しています」
「それでも」
視線が交わる。
「はい」
迷いはない。
その瞬間。
レオンハルトは、静かに頷いた。
「では、残ります」
決断は早い。
だが、その目は彼女から逸らさない。
「共に」
短い言葉。
エリシアの胸が、強く鳴る。
「後悔はありませんか」
彼が問う。
「ありません」
「私と共にいることで、道は険しくなる」
その言葉には、政治以上の意味が含まれている。
エリシアは、ほんのわずかに微笑む。
「知っています」
そして、はっきりと言う。
「それでも、隣に立ちます」
空気が、わずかに変わる。
それは誓いに近い。
恋人ではない。
だが、並び立つ存在。
「……覚悟は共有された」
レオンハルトが小さく呟く。
その声音は、穏やかだ。
「王都へは報告を送ります」
カイルが言う。
「港湾再設計の暫定案も添付します」
「お願いします」
セリーナが深く頭を下げる。
「港は、忘れません」
外に出ると、海が広がっていた。
風が強い。
だが揺れない。
「怖くは」
レオンハルトが、ぽつりと問う。
「あります」
エリシアは正直に答える。
「ですが」
視線を向ける。
「一人ではありません」
わずかな沈黙。
そして。
「ええ」
穏やかな肯定。
触れない距離。
だが、確かに並んで立っている。
港湾都市リゼル。
ここでの選択は、王宮へ波及する。
対立は、もう隠れない。
そして。
互いに選んだ。
立場ではなく。
共に進む道を。
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