↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された地味令嬢ですが、実は王宮一の補佐でした ~捨てたのは第一王子? いいえ、私は第二王子と国を立て直します~  作者: 紅茶うさぎ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/136

第20話 逆転の準備

 代替案提出の翌日、王宮の空気は一層張り詰めていた。


 第一王子側からの正式な返答は、まだ来ない。だが、沈黙が長いほど、不穏さは増していく。


 エリシアは、執務机の上に積まれた資料を整理しながら、胸の奥のざわめきを抑えていた。やるべきことはやった。理屈も、根拠も揃えている。それでも、相手は理屈だけで動くとは限らない。


「少し、こちらへ」


 レオンハルトの声がかかる。執務室の奥、他の文官たちから少し離れた場所へ呼ばれる。


「昨日の会議の件ですが」


「はい」


「予想通り、向こうは表立った反論を控えています」


 エリシアは、わずかに眉を寄せた。反論が来ないほうが、来るより落ち着かない。


「……静観、でしょうか」


「いいえ」


 レオンハルトは、机の引き出しから数枚の書類を取り出した。


「準備です」


 差し出された資料を受け取り、目を通す。そこには、ここ数週間の案件差し替え履歴、承認経路、修正時刻の一覧が記されていた。そして、ある名前が、何度も浮かび上がる。


 ――第一王子直属、管理部門。


「これは……」


「あなたが違和感を覚えた案件の履歴を、全て洗い出しました」


 静かな声だった。集めた者の労力を、少しも匂わせない言い方をする。


「修正のタイミングが不自然に集中しています」


 エリシアの胸が、強く打つ。


「つまり」


「罠は、偶然ではない」


 確定の言葉だった。だが、レオンハルトは続ける。


「ただし、まだ“意図”までは証明できません」


 法的には、単なる手続き上の修正で通る。


「今は、泳がせています」


 エリシアは、顔を上げた。


「……気づいておられたのですか」


「最初の差し替えの段階で」


 淡々とした答えだった。あのとき、何も言わなかったのは、見抜いていなかったからではない。見抜いた上で、動かなかったのだ。


「あなたがどう判断するかを、見ていました」


 胸の奥が、静かに熱くなる。


「信頼していなければ、止めていました」


 その一言が、何よりも重い。


「向こうは、あなたの判断を誤らせようとしている。ならば、逆に証拠を積み上げる」


 レオンハルトは、冷静に続ける。


「急がず、確実に」


 エリシアは、資料を握りしめた。怖い。だが、同時に、確信もある。自分は、ただ罠を避けるだけではない。罠を張った側を、記録に残す。


「……いつ、公表するのですか」


「決定的な一手が揃ったとき」


 短い返答だった。それは、戦略の言葉だった。


 その頃、別室では。


「差し戻しの後、妙に静かだな」


 第一王子が、低く呟く。オズワルドは、穏やかに微笑んでいた。


「焦る必要はございません。いずれ、判断の歪みは表面化します」


 その笑みは、崩れない。だが、まだ知らない。すでに、自分の手順が記録され始めていることを。


 夜。執務室の灯りが落ちた後も、エリシアは資料を読み込んでいた。罠を避けるだけでは足りない。相手の思考を読む。その必要性を、今、痛感している。


「無理はしなくていい」


 レオンハルトの声。


「いえ」


 エリシアは、小さく笑う。笑えたことに、自分でも少し驚いた。


「守ると決めたので」


 その言葉に、彼は一瞬だけ目を細めた。


「では、最後まで」


「はい」


 まだ逆転は起きていない。だが、準備は整いつつある。次に仕掛けてくるのは、向こうだ。その一手を、待つ。そして、返す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。