第106話 共闘
「第二区域、内部侵入!」
叫びと同時に、空気が裂けた。悲鳴。金属音。そして――明確な戦闘の気配。
「来たな」
ガルドが低く言う。視線が鋭くなる。さっきまでの対話の余韻は、完全に消えた。
レオンハルトは即座に動く。
「分ける」
短い指示だった。
「ガルドは区域防衛」
「こちらは侵入源を叩く」
ルークが頷く。役割を分けるほうが、いまは早い。
「合理的です」
第一王子が笑う。
「ようやく戦いか」
エリシアは静かに言う。
「無理はしないでください」
レオンハルトは答えない。もう動いている。足が止まらない。煙の中へ。火の中へ。そして、見えた。
黒い影。統制された動き。民ではない。兵でもない。別の何かだった。
「……なんだ、あれは」
第一王子が呟く。敵は言葉を発しない。ただ動く。正確に。無駄なく。そして、民を狙う。
「散開しろ!」
ルークの声。兵が動く。だが、一人の子供が取り残される。動けない。固まっている。敵が向く。迷いなく。
その瞬間、レオンハルトが踏み込んだ。速い。一切の迷いがない。敵の前に入る。腕を掴む。捻る。音が鳴る。倒れる。静かに。無駄なく。子供を抱える。
「下がれ」
短い。だが優しい声だった。子供は動かない。ただ見る。王を。その背中を。
第一王子が笑う。
「やるじゃねえか」
ルークが言う。
「数が多い」
エリシアが周囲を見る。倒れた敵の位置が、通りの要所に散っている。
「……狙いが一貫しています」
「混乱の維持」
つまり、倒しても終わらない。ガルド側も戦っている。遠くで怒号が上がる。
「押し返せ!」
「列を崩すな!」
統制がある。だが限界が近い。レオンハルトは言う。
「連携する」
短い一言だった。ルークが即座に動く。
「信号を出します」
煙の中。合図が上がる。ガルド側が気づく。そして、動きが変わる。分断ではなく、流れを作る。
「……やるな」
ガルドが呟く。敵が崩れる。初めて、連携が機能する。王と民が、同じ方向を向く。
その瞬間。一体の敵が倒れる。仮面が外れる。第一王子が近づく。
「……こいつは」
沈黙。ルークが低く言う。
「……民です」
静寂。エリシアが目を細める。瞳孔の開き方が、疲労のそれではない。
「洗脳、ではない」
「……薬物」
第一王子が吐き捨てる。
「最低だな」
レオンハルトは言う。
「操られている」
短い。だが重い。つまり、敵は、外だけではない。内部にもいる。
その時。さらに奥から、強い気配が来る。今までと違う。重い。統制された中でも、明確に“上”の存在だった。
ガルドが振り向く。
「……あれだ」
低い声だった。敵の中心。黒い外套。顔は見えない。だが、視線だけで分かる。違う。
レオンハルトは言う。
「指揮官だ」
短い。空気が張り詰める。敵が止まる。一瞬。そして、その存在が、ゆっくりと手を上げた。
その一瞬、エリシアは王の背が半歩前に出るのを見た。庇う位置だった。庇われる覚えは無い、と言う前に、全員が動いた。
黒い外套の男が出ます。
顔も名も出しません。分からないまま置いておくものが一つあると、盤面の見え方が変わります。




