第二十二話 目的へ一歩前進?
そうはもう、この広いお城の全体に響いたんじゃないかってぐらいの絶叫だった。
「これほどまでに柔らかい肉料理を食べたのは初めてだっ! ナイフで切っただけで溢れ出るこの肉汁。噛んだ傍から口の中に広がる旨味。それにこのソースがまたいいっ。野性味ある肉の味をまろやかに包んでくれているようだ!」
ソースはデミグラスソースを選んだけど、口に合ったようでほっとする。和風とか塩コショウだけとかケチャップとか。色々考えたけど、やっぱり王道のデミグラスにして正解だったっぽい。
付け合わせに盛り付けてあった野菜にグラッセにも大げさに反応しつつ、まずは一品目を完食した。
「たしかハンバーグといったか。これはいいっ。恐らくは肉を細かく砕いた後に成形して焼いたのだろうが、このような発想は無かった。なるほどたったこれだけの工夫で、ここまで変わるか……! キヨミズ殿、よければお替りを所望したい!」
ふむ。これはどうすべきか。
こうなる可能性も考えてお替りは用意してある。だけど、他にも料理は用意してきているのだ。さすがにハンバーグ二つも食べたら、他は食べられないだろう。
ここは要望通りお替りを出すか、それとも別の料理も勧めるべきか……
「ハンバーグのお替りもありますけど、別のもあります。お替りがよければそうしますけど、どっちがいいですか?」
「むっ。別の料理か。もっとハンバーグを食べたいところだが、私の胃袋とて有限だからな……よし。ここはキヨミズ殿を信用しよう! ハンバーグではない別の料理を頼む!」
「分かりました。それじゃあ次は――オムライス!」
ちなみに今回のメニューはどこから発想を得たか。
それはお子様ランチだ。
結局、お子様ランチのあの完成度が一番だと思ったのよね。子どもが好きな食べ物を取り合えず寄せ集めてみました感。大人になっても食べたら美味しい。
だから残りのメニューについてはメインがオムライスとエビフライにナポリタン。デザートにフルーツゼリーとプリンを用意してる。
オムライスは、最初チキンライスでいいと思ったんだけど、それ単体だと微妙だからオムライスにしておいた。
これに加えてお替り用だから、ちょっと用意し過ぎたか?と思わなくもない。まあでも足りなくなるよりはマシだ。
どうせ余ったら今日の夕ご飯にでも食べればいいんだし。
それにしても。
驚くべきは領主さんの食欲、というべきか。
自分では容量は有限だとかいいつつ、なんとこちらが用意したメニューを全制覇してみせた。
しかもその上で、最初のハンバーグやデザートに関してはお替りまでする始末。食道楽の噂やあの体型から人より食べるだろうと思ってたけど、私の想像の倍は軽く食べてたね。
「はぁ……美味かった。この世にはまだまだ、私の知らない美食があったのだな」
「そ、そんな大げさな」
「大げさなものかっ。私はこの国の、いやこの西側諸国の食の大半は味わったと自負している。それに南から入って来る異国の料理や、東側の野趣に富んだ料理も食べた――しかし! これほどの物はその中でも数えるほどっ。それと同等以上の料理がここまで一同に会するとは……お前のそう思うだろうリゲル」
「正直申しまして、驚きました。いえ過小評価していたと言わざるを得ません。私もこの歳まで食べたことが無いような料理の数々。そしてそのどれもが美味。感服でございます」
領主さんとリゲルさんは、何かを分かり合ったかのように頷きあっている。
もしかしてあのキリッとしたリゲルさんも、領主さんと同じ系統なのか? 執事だから押さえているだけで、内心では領主さんと同じぐらい叫んでたのかもしれない。
それだけリゲルさんの表情から、隠し切れない満足感が浮かんでいる。
まだ残ってるから、あとで食べるように渡してしまうのもありかもしれない。
「はぁー。これほどの料理が食べられる食堂があれば毎日でも通うのに――っ! キヨミズ殿! そなた、我が伯爵家で働く気は無いか!?」
「はいっ!?」
「おいロビンっ。いきなり何を言い出すんだ!」
いいことを思いついた!と言いたげな領主さんと、それをいつの間にか名前呼びしているルンデルさん。
いやそんなこと今はどうでもいいや。
それよりまさかこんな勧誘を受けるとは予想外。ていうかこの料理作ったの私じゃないし、私を雇っても意味ないんだけど。
「あの、さっきの料理を作ったのは私じゃなくて私の仲間なんです」
「んむ? そうだったのか。ではその人物を勧誘して――」
「それも難しいですね。なにせ彼女、私の従魔なので」
本当は従魔とかじゃないけど、そういうことにしておこう。
「じ、従魔……? 従魔が先ほどの美味なる料理を作ったというのか?」
「ええ、そうです。シルキーっていう種族なんですけど知ってますか?」
「シルキー!? あの妖精種のシルキーか!? 従魔になること自体が稀な妖精種、そのうえ中位妖精のシルキーを従えているとは……なるほど。それほどの使い手ならば私の勧誘など魅力を感じ無くてもおかしくない。これは無理を言って済まなかったな」
「い、いえ。別に分かってくれたのならいいです?」
シルキーの何が説得力になったのか分からないけど、取り合えず諦めてくれたようで何より。
というかやっぱりこういうところの常識が足りないんだよね、私。
ダンジョンマスターの権能は、あくまでそのモンスター(魔獣?)の能力とかが分かるだけ。それが世間的にどんな存在として認知されているか。それは書かれていないんだ。
そうならそうと言って欲しんだけど、さすがにそれは無い物ねだり。
こういう反応を見て地道に気を付けるしかない、か?
「うーん。しかしもうあの料理が食べられなくなるのは……では、こういうのはどうだろう。キヨミズ殿がよければ、定期的にここに来て料理を振舞ってはもらえないだろうか?」
「それはまあ条件次第ですけど。それよりレシピを教えた方が楽じゃありません?」
「何を言うっ。料理人の財産たるレシピをそう簡単に教えてもらう訳にはいかんよ。キヨミズ殿もそう軽々と言ってはいけない」
「あ、はい」
別に私はいいんだけどね。どれもこれも地球じゃありふれた料理だし。
むしろそっちの方が度々持ってくる手間が省けて楽だし。
それを話すと領主さんは「うーん。ではキヨミズ殿がそれでよいなら……」と、あまり納得はしてない様子で頷いてくれた。
ただ私は向こうで料理とかしなかったし、さすがに日本語で書かれた向こうのレシピ本を渡す訳にもいかない。だからシルキーに時々、ここの料理人に指導してもらうことにした。その見返りとして、領主さんのとこの料理人からも色々と教えてもらえることに。
事後承諾になるけど、あの子ならむしろよろこんでくれそうだからいいでしょ。私が望んだからなのか、料理への情熱が凄いんだよね、あの子。
細かな条件を詰めながら、ファーストコンタクトは何とかうまくいったと内心で安堵の溜息を吐く。
料理のおかげで好印象を残せた。掴みとしてはバッチリのはず。
とはいえ、ここでいきなり「実は立ち入り禁止区域の帰らずの森に入りたいんですけど、力を貸してくれますか?」と聞くのは微妙なライン。
なにせ今日が初対面だもんなあ。
もうちょっと交流を積んでからの方がいい気もする。
「――ふむ。キヨミズ殿、今日の料理といいレシピの教示といい。何かお礼をさせて欲しい。何か希望はないか? これでも伯爵だから、大抵のことなら何とか出来るぞっ」
すると、領主さんの方からそんな話を振られる。
ここは一度、様子を窺ってみるか……?」
「えっと。実は冒険者として行ってみたい場所がありまして。ただそこに入るには国の許可がいるみたいなんです」
「国の許可?……まさかそこは『帰らずの森』か?」
領主さんの声が一段低くなる。
やっぱり不味かったか?
でも今更ここで止めるもの逆に怪しまれる。ここは押し通ろうっ。
「そうです。危険な場所であるとは理解しているつもりです。ただ、どうしてもそこに行ってみたいのです」
「ふむ。キヨミズ殿ほどの者であれば、確かに帰らずの森からも帰って来ることが出来るかもしれない。しかし、何故だ? なぜそこまでしてあの危険な森に行こうとする」
「それは……」
邪神の残滓を掃除するためです、なんて素直に言える訳もない。
そもそもこっちの世界の人がそれを知っているかも不明な状況。神だなんだって言ってヤバい人認定されるのは避けなければいけない。
ここは慎重に、だ。
理由……理由ね。私があそこに行っても怪しまれない自然な理由が欲しい。かつ目の前の領主さんと納得させられるものが。
となると――
「あの森にはまだ見ぬ魔獣、そして素材が溢れている可能性が高い。私はテイマーとしてそれを見てみたい。それにもし。あの森にまだ見ぬ未知の素材があるのなら、新しい料理が出来るかも――」
「なるほどっ! それならば私から王都へ書状を出そう。なあにそう時間はかからぬ。あの森は入ったら出てこられぬだけで、入らなければ害はない。毎年数名の怖いもの知らずは通している。そう難しいことではあるまいよ!」
「え、いいんですか?」
「勿論だとも! だからもし、未知の素材を使った新しい料理が出来たのならば、第一に私に試食を!」
変わった領主さんのお陰で、なんとかなった。なったのか?
なんか別の面倒事を抱え込んだ気がするような。
もしそんな未知の素材なんて見つからなかったら――その時はその時。アイテム生成か錬金術あたりで、でっちあげればいい。うん、何とかなるっ。
そうして帰らずの森については、領主さんから問い合わせて貰えることになった。
仮に許可を貰えたとして、すぐに行くかどうかは後で決めればいい。
重要なのはいつでも入れるようになるってところなのだから。
これでなんとか本来のお仕事の方にも目途がたったというもの。先が見えて来て何よりだ。
そんな風に胸を撫でおろしていると。
――コンコンコンッ
扉をノックする音が聞こえた。
「今は来客中だ。後にしなさい」
領主さんはそう言ったのだが、扉は構わず開く。
指示を無視して入って来たのは、クレアと同い年ぐらいの女の子だった。
「フランっ! 何をしにきたのだ?」
フラン、というらしいその女の子。おそらくは領主さんの娘かな?
その子は部屋に入ってぐるりと私達を見回すと――何故か私に目標を定めてつかつかと歩み寄って来た。
そして目の前に立つと、堂々と胸を張る。
「あなたが今日呼ばれているテイマーね?」
「そ、そうです」
「じゃあ話が早いわ……庭にいたウィンドホークを私にちょうだいっ!」
その子は可愛らしい顔に、ちょっと憎たらし気な笑みを浮かべて偉そうにそんなことを言ってきたのである。
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