第二十一話 いざ領主の元へ
という訳で三日後、この街の領主と会うことになった訳だが。
「何がいいかな……」
悩んでいるのは勿論、領主のところへ持っていく料理についてだ。
指定はこの国では見ない珍しい料理であること。それだけなら私の世界の料理なんて大半がそうだろう。何せ異世界の料理なんだから。
ただ面倒なのは、好き嫌いが無いからジャンルを絞れないところだ。
料理と一口に言ったって、肉料理に魚料理、サラダやスープ、デザートなどなど幅広い。しかもその中でさせ無限と言っていいぐらいの種類があるんだ。
今後を考えるならぜひともここで胃袋を、もとい心を掴んでおきたい。
だから一発で気に入ってくれる料理がいいんだけど。
それが逆に悩みの種なんだよねえ。
「いっそ奇をてらってゲテモノ系でも持っていく? いやさすがにリスクの方が高いな。だったら王道的にみんな大好きな定番料理の方がいいか。じゃあ仮に定番系でいくとして――」
そんな感じでルンデルさんの所から帰って来てからうんうん唸って悩んでいるのだ。
いくつか候補は出てるんだけど、そこから絞り込みに迷ってるんだよ。
もういっそ全部持っていけばいいのかもしれないと思い始めてきた。
「どうしたんだ姉ちゃん? さっきからずっとぶつぶつ言ってるけど」
「ねえクレア。この街の領主さんが食道楽なの知ってる?」
「ああ、うん。なんか食うのが好きなんだろ? それぐらい街に住んでるやつならみんな知ってると思うぞ」
「じゃあさ。領主さんがどんな料理とか食べ物が好きかっていうのは?」
「うーん……分かんない」
「そっかぁ」
まあ食の好みを知ってるのなんて、よっぽど仲がいい人ぐらいだよね。
地球にいたころだって、あの有名人が何が好きかなんて知らなかったし。知ってたしても自己紹介で自分から宣伝してる場合ぐらい。
それで唯一それを知ってそうなルンデルさんが「何でもいい」って言うんだから、本当に何でもいいんだろうなと思う。
「……しゃあない。一通り持ってってみるか」
「良い考えが浮かんだのか?」
「良い考えっていうか、全部持ってけば解決じゃんって感じ。クレアとクリムさんにはちょっと味見とかお願いしたいんだけど、いい?」
「どんとこいだぞっ!」
取り合えずフルコースとまではいかないけど、甘いのとかしょっぱいのとか。色々準備してみることにした。何か一つでも気に入ってくれればいいでしょってこと。数打ちゃ当たるの精神だ。
そうして私はクレア親子に試食を頼みつつ準備をした。
やってきた三日後。まず私はルンデルさんの店に向かった。
すると店の前には一台の馬車が止まっているのが見える。あれが聞いてた迎えなんだろうと思いながら近づくと、もうルンデルさんが表に出て待っていた。
「お待たせしました。もしかして遅れましたか?」
「いえいえ私の気が逸って出ていただけですから。大丈夫ですよ。それよりもキヨミズさん、随分と軽装ですが大丈夫なんですか?」
「え?」
「ほら、料理とか」
「ああ! もちろん大丈夫ですよ。というかもう作って来てあるので」
そう言って私は、背負っている鞄を見せる。
「ふむ……そういうことですか。であれば心配無用ですね。それでは行きましょうか」
ルンデルさんは何かに納得したように頷いた。それから御者の人の好さそうなおじいさんに手を取られながら馬車に乗る。
気分はまるでお姫様だった。というか馬車に乗るってこと自体初めてだからちょっとどきどき。護衛である一郎も一緒に乗り込む。
ガタンッという振動と共に馬車が出発した。
思ったよりも、揺れる。
これだけ揺れるとお尻が痛くなるところだけど。幸い、椅子のクッションが柔らかいから何とかなってる。
正直言って、あんまり乗り心地は良くない。これなら普通に歩いて行っても良かったんじゃないか?って思う。
だけど今更言っても仕方ないので、ルンデルさんと話しながら気を紛らわせる。
すると再びガタンッという振動と共に、今度は馬車が動かなくなった。
「どうやら着いたようですね」
外から御者さんが扉を開けると、向こうには空からも見えたあのお城があった。
「おぉー……っ!」
これまでは遠くから見ただけだったけど、近くで見るとやっぱり立派だ。ただ某テーマパークにあるようなザ・お城って感じじゃない。
表現が悪いかもだけど、豪華な洋館というか砦?って言葉の方が合ってるかもしれない。背の高さは周りとは比べ物にならないし、先端の方が尖ってるのはお城っぽいけど。
「イース、行くよ!」
『はい、ご主人様』
馬車の中に入らなかったイースは、馬車の上に乗っていた。
私が合図すると傍に降りて来て横に並ぶ。
「念のため確認なんですけど、従魔も一緒でいいんですよね?」
「ええ。領主様から構わないと言われていますので。むしろ珍しいテイマーを見たがっているほどでしたよ。気にせず連れて入ってください」
「了解です」
従魔とはいえ魔獣だから警戒されて入れて貰えないと思ったけど、その心配は無さそう。どころかテイマーを見たがってるとか。
そうして領主の城に入ると、中には執事らしき人が待っていた。
「ようこそお出で下さいました。ルンデル様、そしてキヨミズ様」
「あなたに様付けをされると何だかむず痒いですね。キヨミズさん。こちらレンシア伯爵の家令を務めているリゲルさんです」
「あ、初めまして。お呼びに預かったキヨミズアリサと申します。名前がアリサで、家名がキヨミズです」
「ご紹介に預かりましたリゲルと申します。本日は我が主人の無理なお願いを聞いていただき誠にありがとうございます」
もう老齢で髪の色なんてグレー一色なのに、背筋がピンと伸びた綺麗な礼をするリゲルさん。
年不相応って言ったら変だけど、威厳と若々しさが同居してるような人だと感じた。
「それではレンシア伯爵のところへご案内いたします。こちらへどうぞ」
リゲルさんに案内されて、広い建物の中を進んでいく。
お城の中は、私がイメージするようなお城とはちょっと違った。
赤いカーペットとかが敷かれて、そこら中に絵画とか花瓶とかがあるような場所ではなく。
これといって調度品らしき物が無い。良くいえば質実剛健? 悪くいえば殺風景って感じかな。でも造り自体が豪華なところもあるから、それでいいのかも?
案内された先は、異様に広い部屋だった。
当然造りは廊下よりも豪華だ。そんな広い部屋の中には、一段高くなった場所に椅子とそこに小太りのおじさんが一人座っている。
前にケルビムに連れてこられた謁見の間みたいな雰囲気がある。
ていうか文字通り領主に謁見する場所だから合ってるはず。
私はルンデルさんに倣って、領主の近くまで行ったところで跪いた。
「――表を上げてくれ」
その一声で顔を上げる。
「今日は私の願いに応じてくれて感謝する。貴殿が話に聞いていたキヨミズ殿だな」
「は、はい」
「そう緊張せずともよい。といってもこのような場だと無理もないか。ではさっさと挨拶を済ませて別室に移動しよう――私の名は『ロビン・レンシア』という。このガレンシアの街と、レンシア伯爵領を治める伯爵である。貴殿の名乗りも聞かせてくれるか?」
「はい――私は『アリサ・キヨミズ』と申します。一応、名がアリサで家名がキヨミズです。つい最近この街に来て、今は冒険者をしています。こ、この度は私にお声をかけていただき感謝いたします」
事前にルンデルさんから教わっていた名乗りをやって、その場は何とか乗り切れた。
それから伯爵が言った通り、場所を移動することに。
次に案内されたのは、さっきよりは狭いけどその分ものが色々増えた部屋。出されている皮張りのソファとかは見るからに高そう。
「さて。形式のためとはいえ面倒をかけたな。これでも伯爵としての立場があって色々と簡略化しきれないところもあるのよ」
「よく分からないですけど大変なんですね。私は大丈夫でしたから」
「そう言ってもらえると助かる……ところで、なのだが」
「はい」
「あの、そのな。例の物を、な?」
例の物と言われてすぐにピンとくる。そりゃあここに来た目的はそれしかないんだから分かるよ。
「この鞄に入ってるんですけど、出していいですか?」
「勿論だっ」
貴族の前では基本的に行動の一つ一つに許可を貰うのが安全だとルンデルさんに聞いていた。
無事に許可を貰ったので、鞄の中から例の物を取り出す。
「よいしょっと」
それをテーブルの上に広げた。
「き、キヨミズ殿。こ、これは?」
私が準備を終えて椅子に座り直すと、領主さんが戸惑ったようにそう聞いてくる。
だから私は自信を持ってそれに答えた。
「テーブルクロスです!」
「「「……」」」
領主さんもリゲルさんもルンデルさんも。私以外の全員が困惑したような顔になる。
ふふ。ここまでは予想通り。
やっぱりサプライズは必要だと思うんだよね。なにせ領主さんは珍しい料理をご所望なんだから。その準備にもやっぱりインパクトがないとっ。
「こ、これはどういうことだろうか? まさかこのテーブルクロスが食材だと……?」
「もちろん違いますよ。今からここに料理を出すから引いたんです。それじゃあまずは――ハンバーグッ!」
すると「ぽんっ」という気の抜ける音とともに、クロスの上に突然皿に乗ったハンバーグが現れた。
「おぉーっ!!」
「「っ!!」」
領主さんの反応を見ていい気分になる。
わざわざ準備した甲斐があったというものだ。
「キヨミズ殿! これは一体どうやったのだ!?」
領主さんが興奮した様子でそう聞いてくる。
といってもそんなに難しいことをした訳じゃない。まだ完全にあの秘密道具を再現できた訳じゃないのだから。
「事前に準備した料理を、ここに呼び出して――召喚してるんです」
「なんとっ!? で、ではこれは召喚魔法ということか!?」
「魔法、とはちょっと違うんですけど。このテーブルクロスにそういう機能を組み込んでいるだけなので、強いていえば道具の力ですね」
まあ作ったのは私だけど。
とはいえ、まだまだこれは不完全なことに違いない。
何せ言った通り事前に準備してある料理しかこうして出せないんだから。もっと言えば、もう一枚これと一組になっているテーブルクロスがある。その上に置かれた料理をこちらに持ってきているだけ。
だからグルメテー◯ルかけのように、自由自在に何でも食べ物を出すというところまでは至っていないのである。
いずれは完成させたいけど、今はまだこの召喚機能で甘んじるしかない。まあやっつけ仕事で作った割にはいい出来だと思っている。
さすがに珍しい道具だったからなのか、三人ともぽかんとしている。
「あの。早く食べないと冷めちゃいますよ?」
「――あ、ああ。そうだな」
領主さんは「悪く思わないでくれ」と前置きしつつ、リゲルさんに毒見を命じた。
別に気分悪いとかは無いけど、毒見とか本当にあるんだとそっちにびっくり。だって現実に毒見が必要な人なんて会ったことないし。さすが貴族ってところか。
こういうところを見ると、住んでる世界が違うな~と思い知らされる。
ちなみにハンバーグがこの街に無いのはクリムさんやクレアに確認済み。街の食堂とかも見てみたけど、それらしきものは無かった。
少なくとも広く知られている料理ではない。
ただ食道楽と言われる領主さんが知らないかは微妙なラインだったけど……どうやら大丈夫だったらしい。
領主さんの目がキラキラしながらハンバーグに向けられている。
老若男女みんな大好きなハンバーグなら味も大丈夫だと思ったんだけど、果たして――
毒見を終えたリゲルさんが今度こそお皿を領主さんの前に置く。
すると待ってましたとばかりに、領主さんはこれもまた渡されたナイフとフォークでハンバーグを切り分けると、一切れ口に運んだ。
「んっ!?」
何かに驚いた顔をしつつ、だけど吐き出すようなことは無かった。
それどころか二口、三口とフォークが進みそこそこサイズのあったハンバーグがあっという間に無くなってしまう。
そして――
「美味いぞーーーーー!!!」
どこのグルメ漫画かと思うほどの、そんな絶叫を上げたのだった。
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