第二十話 領主からの誘い
そうして始まったルンデルさんの魔道具作り教室──
「そうです。ここに魔力線を通して、それからこれと一つ前に作った魔法陣を繋ぐように」
「はいっ」
ルンデルさんは案外実践派だったようで、基本的な単語とか用語を教えられた後は、早速簡単な魔道具を作ってみることになった。
ちなみに今作ってるのは、魔石を動力としたランプだ。しかも折角だからとただオンオフの他に、光量の調節も出来るように作っている。
最初はいきなりそんな細かな調整が必要なの難しいと思った。
だけどここまでは思った以上に上手くいっている。
その理由の一つは、ルンデルさんの指導の上手さだった。
前に学校で魔道具作りを教える先生をしてたって話だったけど、言うだけあってまず指示が的確。どこをどうしたらいいか、それを分かりやすく伝えてくれる。
それになぜそのように組むのか。それにはどのような意味があるのかもしっかりと説明してくれるのだ。お陰で私の理解がぐんぐん進んでいるのが自分でも分かる。
まあでも、とはいえ流石に難しいんだけどね。
魔道具の作り方をざっくり説明するなら、複数の効果を持つ魔法陣を組み合わせたプログラムのようなもの。
例えば今作っているランプ型の魔道具。
これはまず光を発する魔法陣が必要だ。そしてそこにオンとオフを切り替えるスイッチの役割を持つ魔法陣を繋ぐ。さらに光を発する魔法陣の一部に、並列になるように注がれる魔力を絞る魔法陣を組み込む。そしてその魔法陣の出力をいじる魔法陣をさらに──といった具合。
だからしっかりとフローチャートを作らなければならない。
そして自分が欲する効果を得るには、どの魔法陣を組み合わせればいいかを調べ探っていく。それこそが魔道具職人の腕の見せ所なのだとか。
私は知らないけど、お父さんがエンジニアでプログラミングをしていた。それで時々「新人の作ったプログラムが綺麗で〜」とか「あの会社のプログラムが凄い〜」とか言ってた。
まあそういうこと何だろうと思っておく。
「いい調子ですよ、キヨミズさん。このままいけば、明日には試作品として完成しそうですね」
「……ふぅ。それでも完成までに二日もかかるんですね。やっぱり難しい」
「何を言ってるんですかっ。習い始めたばかりで、比較的簡単とはいえ魔道具を組めているのは非常に優秀です。私も調子に乗って光量調節まで付けましたが、完成まで一週間は想定してましたからね」
「うーん、そうなんですかね?」
「私が言うのだから間違いありませんよ。これでも王都学園にその人あり、と言われたほどの魔道具職人なんですから」
「ははっ。じゃあ素直に受け取っておきます」
戯けたようにそう笑ってみせるルンデルさん。こういう褒めたりするところも、確かに先生っぽさを感じる。
「──ふむ。今日はこのぐらいにしておきましょうか。いきなり詰め込み過ぎても復習ができませんからね。まずは今日教えたことを忘れないようにして、続きは明日にしましょう」
「分かりました。ふぅー……」
進度でいえば七割がた終わった感じだろうか。機能系に必要な魔法陣は全て組み込み終えたから、あとは制御系の魔法陣をいくつか繋いでやれば完成ってところ。
そういえば制作進度がざっくり分かるようになってる……
今日一日で私の理解度もだいぶ上がった感じだ。
「……ところで、キヨミズさん」
「はい?」
固まった肩を解していると、ルンデルさんが声音を変えて話しかけてくる。なんか緊張してる?
「確かキヨミズさんは異国の出身だと言っていましたよね」
「そうですね。ここからはかなり遠くて簡単には帰れないぐらいには遠いところです」
「実は、その。領主様がですね。異国出身だというキヨミズさんに興味を持たれていまして」
「りょ、領主っ?!」
どうにも歯切れの悪かったルンデルさんの口から出たのは、思わぬ人物だった。
領主ってあの領主だよね。この街を治めてて、あそこに建ってる大きな城に住んでる。なんでそんな人が私に興味を持つんだ?
でもたしか、私が調達してきたあの素材。あれを使った魔道具は領主に渡すとか何とか言ってた覚えがある。てことはルンデルさんと領主には最初から繋がりがあったってことだ。
だけど分からないのは、どうして私の話が出てくるか、だ。
可能性として考えられるのは……テイマーぐらいか?
街で魔獣を連れ歩いて目立ってたから、それで目を付けられたのかもしれない。どうやら私は普通のテイマーよりもかなり異質に見えるみたいだし。
「どういうことでしょう……」
自分でも声が固くなってるのが分かった。
場合によっては悪い意味で目を付けられた可能性がある。ルンデルさんの歯切れが悪かったのもそのせいかもしれない。
するとそんな私の顔を見たルンデルさんは、慌てて「心配しないで欲しいっ!」と身振り手振りをした。
「すまない。私の態度で誤解させてしまった。ちょっとどう説明しようか迷っていてね。だが決して悪いことじゃないから、そこは安心して欲しい。ただちょっと――面倒かもしれない?」
「どっちにせよって感じですけど……ともかく、何か用件があるってことですか?」
「そ、そうなんだ。順を追って説明するとね――」
そうしてルンデルさんは、領主との間にあった会話について話してくれた。
切っ掛けはやっぱり、私がテイマーとして少し異常だったことが原因。それが領主の耳に入ったらしい。ただその時点ではそこまで関心は引かなかったらしい。
だけどその後にあった、デスポイズンバタフライの素材納品。これが決定打になった。どうやらその魔獣はかなり珍しく、そして危険な魔獣だったようで。それを討伐、素材をルンデルさんに納品したことで興味を持たれたらしい。
ただ、話を聞いていると領主が私に興味を持ったのにはもう一つ大きな理由があった。
「食道楽?」
「そうなんだ。ガレンシアの領主、レンシア伯爵はこの国でも有名な食道楽でね。実を言うと、この前キヨミズさんに集めてもらった素材は解毒の魔道具に使ったんだ。それで毒があるけど美味い物も食べられるようになるとかで」
「うわぁ……」
それは筋金入りというか、それを通り越してるというか。ルンデルさんが遠い目をするのも分かる気がする。
「そんな食道楽が君に注目した理由は一つ。君が異国の出身だからだ」
「それはつまり。私の故郷の食材?料理?が食べたいからとか、そんな認識でオッケーですか?」
「その通りだよ」
うーん。私の感覚で例えるなら、イタリア人の知り合いがいたとしてい「本場のピザを作って!」て頼むようなもん、かな。違うかもしれないけど。
つまり領主は、私が持ってる地球の食の知識がご所望と。
どうやらそういうことらしい。
「ついては、ぜひ領主様に会ってみてくれないかい? それで君の国の料理をなんでもいいから食べさせてあげて欲しいんだ」
「それは……いいですよ。それぐらいなら構いません」
「本当かいっ!?」
なにせこの話には私にもちょっとしたメリットがある。
今はちょっと趣味に走ってしまっているが、私の目先の目的はこの国にある邪神の残滓を掃除すること。
それに何も、私だってこの街に来てから遊んでいた訳じゃない。
ちゃんとそれがある場所についての情報収集も続けていた。
調査の結果、この国の邪神の残滓がある場所が判明した。
それはここから北東。つまり東にある王都の上。
帰らずの森、と呼ばれる森林がある。文字通り入った者は来ないという言い伝えのある恐ろしい森だ。ケルビムの上司からもらった情報が確かなら、邪神の残滓はその森の中心にあるという。
ひょっとすると、その帰らずの森の原因も邪神の残滓が関係しているのかもしれない。
ここで一つ、面倒なことがある。
何とその森。非常に危険な場所として、国が立ち入りを禁止にしているのだ。無断で入ろうとすると、厳しく罰せられるらしい。
つまり、帰らずの森に行って邪神の残滓を掃除するには、国の許可が必要だということだ。
そう。その許可を取るための第一歩として領主、権力者とのこねは作っておくに越したことはない。
上手くすれば、領主である伯爵からもっと上に紹介してもらえるかもしれないのだから。
それが料理一つか二つで手に入るなら、むしろ十分でお釣りがくるというもの。
「それでいつ頃になりますか?」
「そうだなあ。あの人なら今からでも!と言い出すだろうが、それはさすがに不味い。それにキヨミズさんも何かと準備があるだろうから――三日後なんてどうだろう?」
「三日後ですね。大丈夫です、それで行きましょう」
「感謝する。領主様には私から三日後の予定を伝えておこう――いや~、本当に助かった。私からキヨミズさんに話を通しておくって言ってしまったもんだから、もし断られたと思ったらひやひやもんだったよ」
「ちなみに領主さまが好きな食材とかったあります? 例えば肉が好きとか野菜が嫌いとか」
「特にないはずだよ。強いて言えば、この国で見かけない珍しい料理がいいな」
ふむ……となると、クリムさんとかに試食をお願いするのがいいか。
「それじゃあ三日後によろしく頼むよ。どうする? そっちの準備が必要なら明日の指導は無しでもいいが」
「いえ。それはそれですから。料理ぐらいなら片手間でもどうにかなるので、明日は予定通りにお願いします」
「分かった」
そうして私は領主と会うことになった。
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