第十九話 クレアのお母さん
さて色々試してみた結果はといえば。可もなく不可もなく、という微妙なところ。
まずカブの中に白米が実らせることには成功した。錬金術で作ったカブを百華のところへもっていって試しに栽培してもらったのだ。
さすがアルラウネだけあって、対象を一つに絞るならすぐに収穫まで持っていくことができた。すると無事に栽培した方も、カブの中に白米を実らせていた。
ここまでは順調だった。
しかしここで一つ難関が生じる。
それはカブの中で白米を炊くという部分だ。大前提として、カブを切って開けたときにちょうど炊き終わり。つまり食べ頃になっているのがベスト。
なんだけど……つまり、どのタイミングで中の米を炊けばいいか、という話になってくる。
例えば収穫、地面から引っこ抜いたところから内部の過熱を開始。四十分~五十分ぐらいしたら食べられるようになる。こんな設計も考えてみた。
結果としてこれは成功。試行錯誤したし失敗も多かったけど、何とか形にすることは出来た。吸収したエネルギーを熱に変換する仕組みとか、外部にそれを漏らさないような工夫とか。かなり大変だったけど。
だけどこれだと、保存しておくということが出来ない。
理想は開けた瞬間に内部の調理が終わっていることなのだから。これだと今はよくても、後々の問題になる。
そう思ってからが本当の戦いだった……
どうあっても開けた瞬間、調理終了というのは上手くいかない。思いつく限りの手を試してみたけど、そのどれもが失敗に終わった。
さすがは未来の秘密道具。いよいよ一筋縄ではいかなくなってきたと感じたよ。そんな感じでこれ以上の改良は現状不可能と判断した。
得られた成果は、地面から抜いた瞬間に内部で炊飯が始まるカブ。
収穫から一時間後ぐらいが食べごろだ。
「いやいや十分でしょっ! こんな新種の面白過ぎる植物作っといて何言ってんの!?」
「だって。私の理想とする形にはならなかったんだもん。本当はもっと利便性というか、使いやすくしたかったのに」
「はぇ~。マスターが元いた世界って凄かったんだねえ――まあ栽培の方は任せといて。マスターが食べたいときに食べられるように育てとくよ~」
「よろしくー」
百華に出来上がった『飯ごうカブ』の栽培をお願いしてからダンジョンを出る。
飯ごうカブというのはあくまで暫定的な名前だ。さすがに米しか炊けないのにレストランと名乗る訳にはいかないからね。もっと色んな種類が出来て数が揃ったら、まとめてレストランと呼ぶことにした。
ダンジョンからガレンシアのクレアの家に繋がる扉を潜る。
すると入った途端に楽しそうな話し声が聞こえてきた。声がするのはクレアのお母さんが眠っていた寝室。そこにひょっこりと顔を覗かせると、クレアとせんせい。それともう一人が話していた。
「ふふふ――あら。アリサさん、いらっしゃい」
「ん? おぉ姉ちゃん! いつの間に来たんだ?」
こっちを向いていたもう一人が私に気付き、それに反応したクレアがこっちにやって来る。
「ついさっき――調子が良さそうで良かったです、『クリム』さん」
「ええ。アリサさんたちのお陰ですっかり元気になったわ!」
そういって力こぶをつくってみせる女性は、クレアをそのまま成長させて大人にしたような人だ。というかクレアのお母さんである。
こう見るとクレアはかなりお母さんに似たらしい。赤い髪とか目元とか。でも今は少し頬がこけて、やつれてしまっている。
「せんせい。さすがにまだ完全回復って訳じゃないんでしょ?」
「そうですな。以前よりは大分よくなっております。ですが、身体を治すというのはそう簡単ではありません。それに二、三日寝た切りでしたから体力も落ちているでしょう。完全復活という意味ではもう少し先でしょうなあ」
「だってよ、クリムさん。また倒れたらクレアが心配するし、私も心配だから。あまり無理はしないようにね」
「そう、ですね。クレアには随分心配をかけてしまいました……早くお礼をと気が急いてしまったみたいです」
すると少し落ち着いたようにほぅと息を吐いた。おそらく身体さえ元気だったらかなりアグレッシブな人なんだろうなと思う。こういうところもお母さん譲りだったのかな?
クリムさんとようやく顔を合わせられたのは、つい昨日の夜のことだ。
それまでは中々クリムさんと私のタイミングが合わなかったけど、そこでようやく起きている状態で話をすることが出来た。
せんせいやクレアからも話したらしいけど、私からも改めて状況を説明。もちろん私がダンジョンマスターだとかは伏せて、縁あってクレアと知り合った冒険者ということにした。
それで感謝されたり謝られたりクレアを叱ったりでてんやわんや。一旦落ち着いてからお礼は別にいいと言ったんだけど、そじゃあクリムさんの気が済まないとかで今朝もあんな調子。
私としては、クレアは畑仕事のお手伝いで雇ってるだけだし。それにこの家だって、ガレンシアでの仮拠点として使わせてもらってる。
それでどっこいでいいかなと思ってるんだけどね。
「今日はどこか行くのか?」
「うん。実は魔道具屋さんとの約束が今日なんだ」
早いことで素材を納品してからもう五日が経つ。
前に五日後って言ってたから今日行って間違いないはずだ。
「じゃあちゃんと護衛に誰か連れてけよ? またコウモリ男みたいなのに襲われた危ないからなっ!」
「いや、コウモリ男に襲われたんじゃなくてむしろ助けられたんだけど――まあどっちでもいいや。大丈夫だよ。今日は源内が一緒に来てくれるから」
「源内?……ああっ。ゴブリンマジシャンのやつだっけ」
「そうそう」
一応、行くにあたって「魔道具作り教えてもらいに行くんだけど、だけれか興味ある?」と駄目元で聞いてみた。だって魔獣が魔道具に興味あるとは思わなかったし。
そこで手を上げたのが源内だった。本人がマジシャン、魔法使いだからなのか魔道具に興味を持ったらしい。ルンデルさんに聞いてみて良ければ、見学してもらうつもりだ。
「あそうだ。また忘れるところだった。ねえクレア。何か欲しいものとかってない?」
「な、なんだ急にっ」
「いやね。ほら、向こうの畑の出来具合が想像以上に良くてさ。これはお礼、もとい何かご褒美が必要かなって。昨日聞こうと思ってたんだけど、すっかり忘れてたわ」
「そうなのか? うーん…………」
「まあすぐに思いつかなくてもいいよ。てきとうに何か考えといて」
「んー、分かった!」
そんな感じでクリムさんのことは先生とクレアに任せて、私は街へと出発した。
クリムさんが回復してきたから、クレアにはお母さん優先にしなって言ったら、「それはそれ。これはこれだ」と言って結局畑仕事は継続になってる。せんせいがいるから安心なんだそうだ。まあすぐ帰れる場所だからいいのかな?
家を出た私は源内と一緒に南側へと向かった。
相変わらず南は人が多くて賑わっている。冒険者の街とか言ってたけど、商売の街の間違いじゃなかろうか?ってぐらい。
もしかすると、本当の商売の街はこれ以上なのかもしれない。何か機会があれば、他の街に行ってみるのもありだね。
そうして見慣れた魔道具屋の看板が銘に入る。
「こんにちは~。ルンデルさんいますかー?」
「――お客さん! 待ってましたよ!」
「はい?」
「ああいやっ。こっちの話ですから。魔道具の指導が出来るのが楽しみだった、というだけですよ」
「そう、なんですか?」
なぜかルンデルさんの方が待ちわびた!みたいな顔をしている。教えるのが楽しみってなんで? ルンデルさんってそういうのが好きなのか?
「おや。そちらは?」
「私の従魔の源内、ゴブリンマジシャンです。魔道具に興味があるらしくて連れてきちゃいました。あの、私の指導とか隣で見せてもいいですか?」
「ふむ、いいでしょう。魔道具に興味を持つとは、むしろ興味深い。こちらとしては問題ありませんよ」
「ありがとうございます」
という訳で源内の見学も決まり。
早速、店の奥に案内される。カウンターの奥にある扉を一つ潜った先。そこにあったのはまさに工房という言葉がピッタリな場所だった。
「ここは……」
「祖父の代から使っている魔道具工房です。初期投資には中々資金を投じたようで見事なものなんですよ。うちみたいな小さな商店には勿体ないぐらいに」
正直、工房の良し悪しとかは素人の私には分からない。
ただ何となく。洗練されてる、というか。ここで職人さんが仕事をしているのがありありと浮かんでくるような印象は受ける。
『マスター。ここは実に面白そうだっ』
どうやら源内は何かを感じているらしく、珍しく目をきらきらさせて工房内を見回している。
「それでは早速ですが、魔道具作りについて講義をしていきましょう」
「よろしくお願いしますっ」
そうしてルンデルさんによる魔道具作り講座が始まった。
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