第十八話 錬金術を携えて
錬金術――
それはまったく別の物質から金を作り出そうとした実現しなかった科学技術。いわゆる空想科学といってもいいだろう。その点で言えばドラ◯もんの秘密道具とにてる部分があるかも。
まあドラ◯もんも秘密道具もいずれ実現するはずだから、そこは違うけどねっ。
ともかく、だ。
そんな錬金術について書かれた手帳をルンデルさんから貰った訳だが。
私がこの真偽分からぬ手帳を貰おうと思ったのには理由がある。
それこそが錬金術の技術を使った『全く新しい物質の創造』だった。
既存の物質をこねくり回し、性質を歪め、変質させ。そうした複数の物質を組み合わせることにより、これまで存在しなかった物を作り出す。
それを可能とする唯一の技術こそ錬金術である、と。
手帳の最初のページに書かれた一文は、そう締めくくられていた。
つまりである。例え魔法があったとしても、原理が全く分からないからと作るのを諦めていたあれやこれやを作れる可能性が湧いて来たということなのだっ! これに興奮せずに何とするっ!
仮にここに書いてあるようなことが出来なかったとしても、そんな新しい可能性を与えてくれたことにも意味がある。
だからこれが偽物だろうが本物だろうが、あの素材のお礼としてこれをい受け取ることに決めたのだ。
「――という訳で早速ぽちっと」
ダンジョンに戻り自分のテントの中。そこでアイテム生成から錬金術のスキルスクロールを適当に五本作る。
それを使用して、まずは自分の錬金術のレベルを五まで上げた。
「一先ずはこれで十分かな。じゃあまずは――」
これで私は錬金術が使えるようになったはず。
早速ではあるが、手帳に書かれていた錬金術の技術を実践してみることにした。
最初に使うのはそこら辺で拾ってきた普通の石。
まず試してみるのは性質変化だ。このカチカチの石を柔らかい粘土みたいになるよう錬金術を行使していく。
これは難なく成功した。イメージ通りただの石だったそれは、手で捏ねられるほどに柔らかくなった。適当に円柱の形を作ってからまた性質を元に戻せば、今度は最初のカチカチ状態に戻る。さっきまでの柔らかさが嘘のようだった。
だけどこれは単なる小手調べ。性質変化はここからが面白い。
今度は円柱状になった石に、その石という性質が変質するように働きかける。
「……難しい。レベルが足りないか?」
上手くいきそうで上手くいかない。どこかもどかしい感じ。それをスキルのレベル不足だと判断して、新たに五本のスキルスクロールを作った。
付与魔術もレベル十にしたところでかなり負担が減ったから、スキルはレベル十が何かした区切りになっていると思ったのだ。
そしてその予感は見事的中。錬金術のレベルを十にした途端、さっきまでは難しかったそれがするすると上手くいき始めた。
滑らかで黒かった石の表面は少しずつ、ごつごつした見た目に変わっていく。変質が終わった時そこにあったのは、石では無く一本の木の枝だった。
「本当に出来た……これは秘匿されるのもしょうがないかも」
石から木へ。全く異なる物質への変質。これはもはや変質といってのいいのか?と疑問もあるけど。だけど確かに石は木の枝になった。
「いいね。これが出来るならアレも出来そう」
私がこの錬金術を使ってなにがやりたいか?
それはもちろん秘密道具の再現。
その中でも数々の映画で登場し「いいな~!」と視聴者たちに羨望の眼差しを向けられたあの道具。夜中に見なくても飯テロを引き起こすあの道具っ!
「取り合えず必要なのはカブと――さすがにいきなりかつ丼は飛ばし過ぎか? もうちょっと簡単なところから始めた方がいいかも。そうだね、段階を踏んで確実に近づこうっ」
確かクレアに世話をお願いしてる畑にはカブの苗もあったはず。
ちょうどいいから調子も見に行こう。
テントを出た私は、アルラウネの百華やクレアが世話をしてくれている畑に行ってみる。
「あ、百華~」
「ありゃ、マスター! どうかしたのー?」
「ちょっと畑の様子を見に来たって感じ。さすがに収穫はまだだと思うけどあとどれぐらいで出来そうとか「え? もう収穫できるよ?」――はい?」
「ほら。もう立派なもんでしょ!」
言われてみると、畑に植わってるのはもう苗なんて言えないぐらい大きく育った野菜たちの姿だった。
……おかしい。たかが数日で植物がここまで成長するなんてあり得ない。
「なぜに?」
「なぜって、そりゃあ百華がアルラウネだからだよ。植物のエキスパートたるアルラウネさんの力があれば、数日もあればこんなもん簡単簡単♪ あとクーちゃんのサポートも良い感じだったからねえ」
「く、クーちゃんってもしかしてクレアのこと? というかさすがにこれは予想外だわ……」
確かにクレア一人に畑を任せるのは心配だし大変だろうと思った。それで先生役として作ったのが植物に詳しいと説明されていたアルラウネだ。
だけどまさか。なんかの法則を完全に無視した速度で成長させるとか聞いてないんだけど。こんなの想定外もいいところなんですけど。
「たしかにこりゃ見事な畑だわ。普通に美味しそうだし」
「食べてみていいよ! 味は保証するから!」
「じゃあ遠慮なく――」
手近にあったミニトマトをもぎって食べてみる。
「……んまい。何というかこう、美味い」
「でしょー? さすがにここがダンジョンじゃ無かったら厳しかったけどねえ」
「どういうこと?」
「成長するってことは、それだけ栄養が必要になるってことじゃん? だから普通の土地でやったら、土地が枯れるか栄養が足らなくてすっかすかで水みたいな味になっちゃうんだよ。だけどダンジョンには栄養、というより魔力が満ちてるでしょ? だからこいつらが急激に成長しても大丈夫ってわけ」
「なるほど――んんっ!?」
今魔力を使ってとか言ったか!?
慌ててダンジョンの保有魔力を確認する。
だけど私が使った以外で減ったような形跡は無かった。そりゃそうだ。保有魔力の数値なんて毎日確認してる。今更見間違えるようなことも無い。
てことは魔力を使ったってどういうことだ?
……前々から考えてたことだけど。
ダンジョンマスターに表示される保有魔力の一って具体的にどれぐらいの量を示してるんだろうか。
私はてっきり身体から流れる余剰分とかいっていたから、よっぽど少ない量をイメージしてた。だけどその前提が間違っていたのかもしれない。
つまり百華が野菜作りで使った魔力は確かにダンジョンの魔力。だけどそれは数値に現れないぐらい少ない量。つまり小数点以下の量に過ぎないかもしれないってことだ。
まだ確実にそうだと決まった訳じゃない。
百華のいう野菜に消費した魔力が驚くほど少ないだけの可能性だってあるし。それに私一人の魔力でもチャージが出来るってことは、最初の想定で間違っていないと思うんだけど……いまいち正解の確証がない。
「どったのマスター?」
「――何でもない。この短期間でよく頑張ってくれたね。ありがとう百華。何かご褒美、欲しいものってあったりする? あとカブをちょっと頂戴」
「えー!? んっとじゃあね、もっと色んな植物の苗が欲しいなっ。野菜の他にも花とか果樹とか!」
「おっけー。それじゃあ――これ渡しておくから、欲しいの十種類ぐらい見繕っといて」
「ありがとマスター! あとカブは適当にもってっちゃっていいよ。ふんふん♪」
百華に渡したのは地球の植物図鑑だ。あそこから適当に選んでもらって、あとで私がダンジョンマスターの力で作ればいい。
それだけだと味気ないかもだから、ガレンシアの街でも何か見繕っておくか。百華へのお土産にしよう。
あとはクレアにもお礼を渡さないとね。
こんなになるまで手伝ってくれたんだから。もちろんお給料とは別でだ。はてさて何がいいだろうか。やっぱり女の子だから服とかアクセサリーとか? いやそれよりも……
そんなことを考えながら畑からカブを二、三個引っこ抜いて私は再びテントへと戻った。
「よしっ。これで器は用意できた。あとはメインになるものだけど……取り合えずこれでいいや」
アイテム生成で作ったのは米、もとい白米。
さすがにいきなり大がかりな調理が必要なものは心配だから、まずはシンプルに材料は一種類だけで行こうと思う。
何を隠そう。私が作ろうとしているのは……
一番イメージが強いのは、家出をして石器時代にパラダイスを作ろうとするあの映画。そこで拠点作りを始めたドラ◯もんたちは、食料確保のためス◯夫に畑作りを任せた。
しかし育てた結果できたのは、一面のカブ畑。いざ食事の時間になって絶望する面々を前に、カブを開いたら出てきたのは完成された料理の数々。
そう――畑のレス◯ランだッッッ!!!
本物はかつ丼だのスパゲッティーだのハンバーグだのと種類も豊富だったが、今はまだそれは時期尚早。
まずは簡単なところから始めてみるべきだ。
そこで用意したのが白米。
これを錬金術を使ってこのカブに合成し、カブの中に白米が生成されるようにする。そしていけそうであれば、中で調理まで済ませて、開ければ炊き立てのご飯が食べられるようにしたい。
とはいえまずが合成を上手くやらないとお話にもならないんだけどね。
「ふぅー……」
指定する対象は、カブと白米。
この二つをカブを器、子房のような役割を持たせて中身に種子としての白米を作りだす。そうなるように合成すると同時に、持っている性質を変質させていく。
これは難なく成功。
成功した一つを開いてみると、カブの中に何本もの筋が出来ていてそこに脱穀された白米の状態で実っている。
「じゃあ次は――」
その日は畑のレス◯ラン作りに忙殺された。夜になっても顔を見せないことに心配したクレアに引っ張りだされ、またせんせいと二人がかりで注意を受けることに。次からは気を付けよう。
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