第二十三話 生意気なフラン
フランと呼ばれた、おそらく領主の娘らしき少女の目的は、どうやらうちのイースだったようだ。
「これフランっ! 私の客人にいきなり失礼であろうがっ!!」
領主さんが怒鳴りつけるも、人の良さが出てるのかいまいち迫力が足りない。
だからなのか少女の方も気にした様子も無く、私に向かって話し続ける。
「この私がわざわざ平民であるアナタにお願いしているんだもの。もちろん答えはイエスよね。それ以外に無いわよね」
「悪いけど――いや別に悪いとも思わないけど、無理」
「……わ、私の言葉の意味がわからないの? お願いしてるんじゃなくて、ちょうだいと命令しているのよ?」
「うん。だから無理」
口の端をひくひくとさせながら聞き返してくるけど、なぜそれで返答が変わると思ったのか。というかこの子、本当に領主さんの娘なのか? あまりにも似てないしなんか違う気がしてきた。
あれかな。親戚の子を預かってるとかそんな感じ?
と、いうか。いきなり部屋に押し入って来て、人の従魔を寄越せとかどんな教育受けたらこんな言動が出来るようになるんだ。
これどうするの?って意思を込めた視線を領主さんに向ける。
すると領主さんはすぐに立ち上がって少女に駆け寄った。
「フラン、いい加減にしなさい! さっきからお前の言動は目に余る!」
「だ、だってコイツが私の命令をきかないから……」
「当然だっ。テイマーが自分の従魔を寄越せと言われて、素直に頷く訳が無いだろう。そうでなくとも、お前の酷い頼み方では無理筋というもの――私達は大切な話をしているんだ。早くここから出ていきなさい」
「……っ!」
領主さんに詰められて、ようやく大人しくなったかと思えば、今度は黙って私を睨みつけてくる。
領主さんに怒られたのが私の所為だと言いたげな目だ。
相手が子どもじゃなかったら「自業自得だろ」とか言えたんだけど、アレに言ったところでなあ……
少女はそれ以上言葉を続けることはなく、リゲルに伴われて部屋から出ていった。
まあ最後まで視線は私に向けられたままだったけど。
そして一気に微妙な空気になった部屋で、最初に口を開いたのは領主さんだった。
「すまなかったキヨミズ殿。気を悪くされただろう。どうか私の謝罪で許してほしい。申し訳ない」
「まあ、その。はい。さっきの子ってもしかして」
「ああ、私の末の娘だ。はぁー……」
どうやら領主の娘で正解だったらしい。
だけどあんまり教育は上手くいってなさそう。
ただ話を聞くと、さっきみたいな態度は貴族の子どもにはよくありがちなんだとか。
いわゆる特権階級の身分である貴族。子どもの頃からそれが当たり前な環境だと、自分が真に特別な存在なんだと勘違いを起こすらしい。
ただそれも成長と共に矯正されていく。それこそ目の前の領主さんもあれほどではないが、自分が特別な存在なんだと思っていた時期があったんだとか。
「あれが貴族の普通……」
「いや。正直、あの子のは行き過ぎている。上の息子や娘はあそこまで酷くはなかったのだ。なるべく注意はしているのだが、気付いた時にはあそこまでになっていたのだよ」
「それは何というか」
領主さんは悩んでるみたいだけど、私にとってはお宅の教育事情なんてどうでもいい。
それよりも心配なのは――
「この分だと、うちのシルキーを派遣しても何か言われそうですねぇ」
「っ! その不安も分かるっ。分かるが、どうかそこを何とかお願いしたい。あの子は決して厨房にもシルキーにも近づかせないようにするから!」
「じゃあ何かあったらその時は、ってことで」
シルキーはそこそこ戦闘力もある。強引に連れて行こうとしたところで、何とか出来るぐらいの力はあるはずだ。
いや。だったらこの際、シルキーの護衛役とかも用意するか。
うちにいるゴブリンでもいいけど、どうせならもっと強い方が安心できる。帰ったら検討しよう。
そうして領主さんとの会食?会談?を終えて帰り道。
お城の庭に放していたイースを迎えに行こうとして……領主の娘と遭遇した。案の定というかやっぱりというか。
イースが止まっている木の近く。庭木の茂みに隠れて、虫取り網みたいなのを構えている。
なるほど。私の了承が得られなかったから、実力行使に出たってことらしい。
意外だったのは、誰に命令するでもなく自分で行動しているところ。てっきり使用人の大人に命令して、自分は見てるだけかと思ったのに。
とはいえ、さすがにあの網で捕まえられるほどイースは小さくないし間抜けでもない。仮に捕まってもすぐに抜け出せるだろう。
「イース! 帰るよ!」
「っ!!」
『待っていましたよご主人様。なんか変な子に絡まれてしまって面倒だったんです』
イースの言う変な子とは、間違いなく領主の娘のことだろう。
愚痴を言いながら私のところへ飛んでくるイースを目で追いながら、領主の娘の視線が私に辿り着く。
「あ、アナタ! 私のウィンドホークを返して!」
「いや君のじゃないから。私のだから。さっきあげないって言ったでしょ。というかお父さんに怒られたばっかりでよくやるね」
『何なんですこの子ども? 少し分からせた方がいいですか?』
翼をバタバタさせ始めたイースを宥めつつ、虫取り網を構えたままこっちに近寄って来る領主の娘に警告する。
「これ以上やるなら領主さんに報告するよ。次は怒られるだけじゃ済まないかもね」
「ふんっ。どうせお父さまのことだから、叱っておしまいです! 悪くてもせいぜい部屋で謹慎ですもの。怖くなんてありませんわ!」
「なるほど……」
親の態度が甘いのを分かってるからこそ、てことね。
これはこの子じゃなくて領主さん側にも問題があるように思える。まあ人の家の事情に口出ししたってしょうがないんだけど。
それにしても、この子もなかなかしつこい。
どれだけイースが欲しいのやら。ウィンドホークってそんなに珍しい魔獣なの? 作ったときの消費魔力的にそんなレアな印象は無かったんだけどなあ。
さてどうするか。このまま黙って立ち去ってもいいんだけど、それだと次に来た時にまた絡まれそう。
毎回こんな子どもの相手をするのは、正直言って面倒臭い。やってらんない。
だったら、ここで一回きっぱりと返事をしておくのがいいだろう。
「それなら私との勝負に勝ったらウィンドホークをあげる。勝負の内容は制限時間内にこの子を捕まえること。ただし誰かの協力を得たりはせず、自力でやることが条件だよ。どう、やる?」
「キヨミズ殿……」
見送りをしていたリゲルさんが何か言いたげだけど、知ったことじゃない。別に危ないことをしようって話じゃない。
ただの追いかけっこなんだから。
まあ勝ちの見えた勝負ではあるんだけど。
「ほんとっ!? いいわ! その勝負、このフランシスカ・レンシアが受けてあげる! 二言はないわね!」
「もちろん。見事イースを捕まえてみせたら、ちゃんとウィンドホークをプレゼントするよ。せいぜい頑張ってね」
「見ててごらんなさい! そんな鳥ぐらい簡単に捕まえてみせますわっ!」
そうして領主の娘ことフランとイースの追いかけっこが始まった。
時間はてきとうに三十分とした。
スタートの合図と同時に、フランが網を手に飛び掛かる。イースはそれを横に移動することで回避。フランは諦めずに網を無茶苦茶に振り回すも、全部がことごとく回避される。
イースにはちょっとしたお願い、というか縛りを付けてある。
それはフランの手が届かないような上空には行かないこと。
だってそれをしたらこの勝負、フランが空を飛べない限り勝ち目が一切ないんだもん。
それで後でごちゃごちゃ言われるのは嫌だから、手が届く範囲に移動制限を設けたのだ。
要は舐めプである。
果たしてフランお嬢さまはそれに気付いているのやら。
ルンデルさんはその光景を見て苦笑いし、リゲルさんは顔を手で覆うような仕草をしているけど。
当然だけど、そんな移動制限をつけたぐらいでイースが捕まる訳もない。
何が彼女をそこまで駆り立てるのか、諦めずに果敢に立ち向かっていく。だけど捕まえることは出来ずに時間だけが刻々と過ぎていった。
あの諦めの悪さだけは見直した。なんであんな高慢ちきな性格なのに、妙なところで真面目なんだか。
そう考えると、根は良い子だったりするのか?
「はぁ……はぁ……はぁ……!」
あの姿からは想像できないけど。
庭中を走り回ったせいで高そうなドレスは随分と汚れている。
途中で転んだり、庭木に突っ込んだりしてイースに遊ばれてたもんなあ。てっきりそこで諦めるかと思えば、火が付いたように勢いが増すんだからびっくり。
だけど、結果は最初から分かってたんだよね。
「――はい、そこまで。私の勝ちだね。という訳でこの話は無しってことで」
「ま、まだっ。まだ終わってませんわ……!」
「はぁ……ねえ君さ。どうしてそこまでウィンドホークが欲しいの? 貴族だったら鳥の魔獣ぐらいいくらでも手に入りそうなもんだけど」
この諦めの悪さ。この子の性格によるものだけじゃない気がする。
ただ欲が強いだけって線も捨てきれないけど、何か理由があるならそれを解決してやればもうイースには目を向けなくなるはず。
だと思ったんだけど……
「……関係ありませんっ」
「いや、関係無くないよ。だってこの子の主人は私なんだもん。いいから話してみなよ。この子はあげられないけど、何か力にはなれるかもしれないしさ」
そしてどうか私に絡んでこなくなりますように。
するとフランは俯いて肩を震わせると。
「関係ありませんわっ!!」
そう叫んで走って行ってしまった。
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