第十五話 有紗のうっかり
偵察したサスケの言っていた曲がり角。そこに魔獣が潜んで待ち伏せしてるらしい。だけど一見するとここからじゃ、それがいるかどうか分からない。
『では主よ。俺が先行しよう。いるのが分かっていれば、防御も出来る。そういうのはソルジャーである俺の仕事だ』
『兄者っ! だったら俺が!』
『いや、次郎。お前はここで主たちを守れ』
『……分かったぜ兄者っ。気を付けてくれよ!』
『ああ――じゃあ主。行ってくる』
「うん。任せた」
そう言うと一郎は慎重な足取りで曲がり角に近づいていく。それを見ている次郎は、あんまり落ち着かない様子だ。
この二人。意識した訳でもないけど、お互いを兄弟のように思ってるらしい。一郎が兄で、次郎が弟。作ったときからこんな感じの個性だった。
相変わらず作るモンスターの性格については、規則性なんて呼べるものは無い。一体どうしてこうなるのかは謎である。
そして遂に一郎が曲がり角に差し掛かる。
すると、通路の死角から何かが飛び出して一郎に襲い掛かった。
『ぐっ!――はあ!』
だけど一郎も負けてない。勢いよく飛び出してきたそれをがっちり受け止めると、そのまま後ろに向かって投げてしまった。
地面をバウンドしながら転がっているのは、潰れたゼリーみたいな生き物。おそらくだけど、スライムに違いない。
『さすがだ兄者っ! 主! 今度は俺が!』
「オッケー、行って!」
『承知だぜ!――どりゃぁぁぁ!!』
弾丸のように飛び出した次郎は、暫定スライムの脳天?に剣を振り下ろす。
見た目通りの柔らかさなのか、次郎の剣は簡単にスライムを真っ二つにして地面を叩いた。すると真っ二つにされたスライムの身体は、瞬く間に灰になる。燃やしてもいないのにどうして灰に?と疑問に思っていると、次郎が灰の中から何かを持って戻って来た。
『主ぃ! さっきの魔獣の戦利品だ! 受け取ってくれ!』
「う、うん。ありがとうなんだけど、これ何?」
『ん? なんだよ魔石知らねえのか主。ダンジョンの魔獣は倒すと、ああして灰になるんだ。そんで魔石と、偶にその素材を落としてくんだよ』
なるほど、ゲームみたいな仕様だ。
街に来るときに倒したトロル鳥はしっかり死体が残ったから、ダンジョンの魔獣限定の現象ということ。
てことは私が作ったモンスターも同じってこと?
ウィンドホークたちや他のモンスターも倒すと魔石を残して灰になるのかしら?
いや、やらんけど。そんな実験のためにわざわざモンスターを殺そうとは思えないから。
次郎が持ってきた魔石とやらは、形は粗削りというかほぼ人の手が無いってない石って感じの見た目。
ただし色は真っ黒で、手の親指ほどの大きさしかない。
「ていうかなんで次郎はそんなこと知ってんの? 私は教えた覚えはないんだけど」
『最初から知ってたぜ?』
「……なるほど」
そういえば私が作ったモンスターたちって、会話が出来るぐらい最初から知能が高い。だからそういうこともあるのかも? まあ元々が出元不明な能力だし、そういうのを考えるのは後にしよう。
「一郎もお疲れ。体当たりされてたけど大丈夫だった?」
『あれぐらどうってことない。次に行こう』
「よし。それじゃあ出発っ」
そうして地下一階では何度かスライムとの戦いがあった。それも一郎と次郎の敵ではなく、さくさく倒してあっという間に地下二階へ降りる階段を見つけた。
その階段を降りてやってきたのは地下二階。
ダンジョン自体の作りは何も変わっていない。明るい色の石造りの通路が伸びている。
さっきと同じようにサスケとウエスに偵察に出て貰い、通路の先に敵を発見。ただし今度の相手は――
「ゴブリンか……みんな大丈夫?」
『別に思うところは無い。襲ってくるのであれば敵だ』
『だなっ。むしろさっきよりも手応えがありそうでワクワクだぜ!』
「そ、そうなんだ」
モンスターの価値観ってよく分からん、と思いつつだったら遠慮なく進んでいく。
すると行く手に立ち塞がったのはゴブリン……だった?
「なんか違くない?」
『だ、だなぁ……あれと俺達を一緒にされたくないぜ。何だよあれ。あんな恥知らずな恰好しやがって!?』
次郎が嘆きたくなるのも分かる気がする。
だってあそこにいるゴブリン一言で表すと「汚い」んだもん。なんか身体の緑色が黒ずんでるし、身に着けた腰蓑もボロ雑巾か!?って代物。
それに何より、うちの子たちよりも顔が怖いんだよ。なんて言えばいいの? 醜悪って言ったら失礼かもだけど。そんな感じ。
『――マスター。ここは私が』
「っ! げ、『源内』」
ダンジョンに入ってから始めて口を開いたゴブリンマジシャン。名前『源内』。由来はからくりとかで有名な平賀源内である。
あの時代の魔法使いに心当たりは無かったから、魔法っぽいことも出来ちゃいそうな凄い学者さんってことでこの名前にした。
『あの者共の蛮行。見過ごせない』
「いや蛮行って。まあ私も同族があんな感じだったらちょっとショックだけど」
『見るに耐えない――燃やします』
あのゴブリンの何かが源内の琴線に触れたらしい。
構えた杖の先から炎の玉が、相手のゴブリンに向かって飛んでいく。あっちも避けようとしたみたいだけど、時既に遅し。
源内の放った火の玉は見事ゴブリンに命中し、その身体を焼く。そこにダメ押しとばかりに追加の火の玉が飛来して、あっという間にゴブリンは灰になった。
「おぉー……」
正直、見てて気持ちのいいものじゃない。生き物が燃える光景なんて。
ダンジョンの魔獣が死体が残らないのは、私にとって好都合だったのかもしれない。人型に近い焼死体が残るのはちょっと……
『出しゃばった。すまん、マスター』
「ああ、気にしないで。だけどこの先も何があるか分からないから、魔力はなるべく節約しておいてね」
『了解だ』
源内はあんまり喋らないというか、どっちかといえば無口な性格をしてる。もちろん必要があれば、今回みたいにしっかり喋るんだけどね。
その後もゴブリンとは遭遇したけど、見つけるとすぐに一郎と次郎が殲滅。源内は魔力温存と言ったのを守ってくれてるのか、一度も前には出なかった。
そんな調子で特にゴブリン相手に苦戦することは無かった。
向こうが一匹ずつしか出てこなかったのもあるけど、普通に一郎と次郎が強い。
たしかにウチのゴブリンたちはただのゴブリンじゃない。その上位種にあたる。だから負けないとは思ってたけど、想定以上に差が合って驚いたぐらいだ。
モンスター、もとい魔獣の上下格差っていうのは思っている以上にはっきりしてるらしい。
地下二階の探索も進み、いよいよ最初の目的地となる地下三階へ繋がる階段を発見した。
ちなみに目的の浄化石っていうのは、地下三階の宝箱の中から見つかるらしい。ルンデルさんの話では五つもあれば十分らしいけど、問題はそう簡単に見つかるか、それと五つ集めるのにどれぐらい時間がかかるかってところ。
場合によっては浄化石は後回しにして、ポイズンバタフライの方を優先すべきかもしれない。そこら辺の判断は柔軟にやろう。
……というか、だ。
今更だけど、浄化石って私でも作れるのでは?
これでもダンジョンマスターだし。
素材が必要なポイズンバタフライはともかく、石を作って渡すぐらいなんてことない。心情的にも全く問題無しだ。
何でもっと早く思いつかなかったんだろう!
このダンジョンからじゃないと手に入らないと思い込んでたわっ。
「みんな、ちょっとだけ待って」
すぐに権能<ダンジョンマスター>を使って、浄化石をやらが作れるかを確認する……あった。
アイテム生成で検索をかけると、たしかに浄化石という名前のアイテムがヒットした。
でも……ちょっとズルいか?
いやいやそんなことは無い。私は自分に出来る手段で、依頼の品を手に入れるだけだ。その出所がどこのダンジョンじゃなくちゃいけないっていう指定は無い。
『マスター、どうかした?』
「――ううん。何でもないよ。もう大丈夫、行こっか」
でも折角ここまで来たんだし、探すだけ探してみよう。
ダンジョンの宝箱っていうのも興味があるし。それで見つからなければ、自分で作ってしまえばいいんだから。
そうと決めたらいくらか気が楽になった。
地下三階に降りても、やっぱり目に入る景色に変化は無し。
じゃあ出てくる魔獣はといえば――
「またゴブリンか……」
上と同じゴブリン。ただし今度は数が増えた。一度に出てくるのが必ず二体以上になったのだ。
すごい。なんのお得感も無い。むしろウチのゴブリン達の殺る気が増しただけ。
だけど数が増えるっていうのはそれだけ脅威な訳で。さすがに上位種であるこっちも苦戦するかに思えた。
が、特にそんなことは無かった。
理由は――
『こんなもんね。行きましょう、マスター』
「ありがと、ウエス」
ウィンドホークであるウエスの存在だ。
翼を羽ばたかせると鎌鼬?風の刃?が飛んでいって、ゴブリンを一撃で両断してしまう。一郎と次郎が足止めをして、そこにウエスが止めを刺すというスタイルが構築されたのが原因だった。
『あ、あの~ウエス姉さん。出来れば俺達も戦いたいんだけど――』
『なに?』
『い、いえ! なんでもないっす!』
かかんに自己主張をしようとした次郎は、ウエスの一睨みで逆に分からせられてしまった。兄の方はそもそも意見をしようとすらしなかった。ある意味、賢い選択をしたのかも?
ウエス的にもあのゴブリンは苦手、というか嫌いらしい。
臭い物には蓋をじゃないけど、出てきたらさっさと目の前から消したいみたいな雰囲気は感じる。
まあ口には出さないけど、私も同意見です。
「――それにしても。宝箱見つからないなぁ」
『某の探知も宝箱には反応せず。不甲斐ない……』
「それはしょうがない。これは五個どころか一個集めるのも苦労するわ。ルンデルさんが依頼してきた理由も分かった気がする」
自分で集めるにしても、別の誰かに頼むにしても。時間もお金もかかるよねそりゃ。
ひょっとしていいように使われた?と思わなくもないけど、こっちも無理言って魔道具作りの本を貰おうとしたんだから仕方ない。
「そうしたら、地下四階に行く階段を見つけるまでに発見出来なかったら虫して先に行こうか」
『で、でもそれだと目的が達成できないんじゃ……?』
「いや。私の権能でも作れるっぽいんだよね。ただちょっと魔力消費が多めだから節約できるならそっちのが良かったんだけど。見つからないならしゃあなし。手っ取り早く行こう」
『なるほど。それなら問題無いですね』
ジンも他の皆も納得してくれたところで探索を再開したら――その数分後。なんと宝箱を発見した。
「おぉ! これが本場ダンジョンの宝箱!」
見た目はアンティーク感のある木箱で、大きさは……うまい表現が出てこない。カラーボックスぐらい?
「サスケ。念のため罠とかが無いか確認してからあけてくれる?」
『承知しましたっ!』
調べた結果、特に罠らしきものは無いらしい。
サスケが開けるのを後ろから覗き込むようにして見る。
中に入っていたのは浄化石――ではなく、何かの葉っぱだった。
「なんだこれ?」
『葉っぱ、でござろうか?』
『さすがにただの葉っぱな訳ないわよ』
『食ってみればいいんじゃねえか?』
『次郎。さすがにそれはまずいだろう』
『う~ん。何でしょうねぇ。見覚えがあるような無いような……』
『――薬草』
「うん?」
皆で唸っていると、源内がぽつりと呟いた。
「源内。これが何か分かるの?」
『おそらく……薬草だろう』
『ああ! そう言われるとそうですね! 確かに薬草です!』
「ジンも知ってるんだ。じゃあ、薬草なんだこれ。へぇ~」
考えてみると、宝箱に薬草っていうのは王道かもしれない。
ただ中に入っていたのは薬草の葉っぱが数枚で、肝心の浄化石は無かった。
そしてそこから少し歩いたところで地下四階への階段を発見。
結局私たちは、宝箱を見つけたけど浄化石を発見することは出来なかった。
探検隊の活動は続く、なんてね。
という訳で浄化石は私のダンジョン産のものにすることで決定した。
あとはポイズンバタフライのみ。もうひと踏ん張りだ。
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