第十四話 他所のダンジョンにお邪魔します
翌日。
ドアを通ってクレアの家にやって来ると、母親はまだ目を覚ましていなかった。というより夜頃に目を覚まして食事をした後、また眠ってしまったらしい。
セージマンドレイクの『せんせい』曰く、身体は快調に向かっているからそっとしておけばいいとのこと。
そうだった。昨日ダンジョンに戻る前にセージマンドレイクにも名前を付けたのだ。だってウィンドホークにも、新人のアルラウネにも名前を付けたんだから一人だけ無いのは不公平じゃん。
もう作ったときのイメージそのままに『せんせい』という名前にした。
本人も気に入ってるみたいだから問題無いでしょ。
「それじゃあ、せんせい。クレアとお母さんのことよろしくね。あとクレアも畑のほう頼んだよ。分からないことがあれば百華に聞けばいいし、まずはあの子の言うことを聞きながら仕事を覚えてごらん」
「承知しましたぞ、マスター」
「分かった! 姉ちゃんも頑張ってきてな!」
そうしてクレアの家を出た私がまず向かったのは、冒険者ギルドである。なぜかといえば、昨夜作ったばかりの私の護衛モンスターを従魔登録するため。
「ふ、二日連続……しかも一度にこんなっ。も、もしかしてまだ他にも登録してない魔獣がいたり……?」
「ど、どうでしょうね~?」
誤魔化せたかちょっと怪しい。昨日今日と従魔登録をするのはちょっと不自然だったかも。だって私以外にやってる人見かけないし。
でも必要に応じて今後も増やしていくかもだから、ギルドのおばちゃんには慣れてもらおう。頑張って。
「えっと、ゴブリンソルジャーが二体、ゴブリンプリーストが一体、ゴブリンマジシャンが一体、ゴブリンシーカーが一体っと……合計五体の従魔登録、完了しました。ではこちらのタグを身体のどこかに付けてください――と言っても、三度目だから言うまでもないだろうけどさ」
「ありがとうございます」
「それにしても、ゴブリンの中でも珍しいのを従魔にしたんだねぇ。ウィンドホークといい、お嬢ちゃんはよっぽどテイマーの適性が高いんだね。これは将来が楽しみだよ」
そんな言葉に曖昧な笑顔を返す。
ウィンドホークもこのゴブリン達も自分で作っただけなんだよな~。最初から私に協力的だからテイムが云々とか関係無いのよ。
あでも、ダンジョンの羊どもは完全な野生の魔獣?だよね。あいつらが私に懐くなら、もしかして他の魔獣もそうだったり?……ダメだ。街に来る途中でトロル鳥に襲われたの忘れてた。
まあそんなのはどうでもいいとして、私がダンジョン探索に選んだのは『ゴブリン』というモンスターだ。
理由は色々あるけど、やっぱり一番は消費魔力が少ないってこと。それに一つの種族の中でもおばちゃんが言った通り種類が多いんだよね。
今回私が作ったソルジャー、プリースト、マジシャン、シーカーだけで四種類。
やっぱり色んな種族の混合よりも、一つの種族で統一した方が仲間割れとか起きなさそうじゃん。そこもゴブリンにした理由だね。というかゴブリンほど種類が沢山いるモンスターはいなかった。
全員に共通する外見は子どもぐらいの背丈に緑色の肌。あとは尖った耳ぐらい。
そこのそれぞれ種類によって特徴が入る感じ。
例えばゴブリンマジシャンはローブを着て杖を持ってるし、プリーストは法衣?っぽいのを着てる。ソルジャーは鎧を着て剣を持った近接戦仕様。シーカーは防具が軽装になって、剣が短剣になったぐらい。
今日はそこに加えて、斥候役としてウエスを連れて来た。
イースが昨日連れ歩いたし、ノースとサウスは若干マイペースなところがあるから。その点ウエスならイースと同じぐらいしっかりしてるから安心して任せられる。
「もしかして、今日はダンジョンに行くつもりなのかい?」
「そうなんです。ちょっと必要な素材があってそれを採りに――ちなみになんですけど、ダンジョン探索で注意した方がいいことってありますか? 実はダンジョンに行くのこれが初めてなんです」
「あらそうなのかい? うーん、そうだねえ。ここのダンジョンは初心者でも探索できるぐらい罠も魔獣も弱い。だからお嬢ちゃんのゴブリン達でも十分に探索できるだろうさ。あとは他の冒険者が戦っているのを邪魔しないこと、獲物の横取りはもっての外さ。まあ要するに、自由にやってくれて構わないけど、周りの迷惑になることはご法度ってのがルールだよ」
「ふむふむ、なるほど」
「もし気になることがあったらまた聞きに来な。お嬢ちゃん素直で可愛いから、おばちゃん何でも教えてやるよ」
「そんなことないですけど、ありがとうございます!」
そんなやり取りの後、私はいよいよダンジョンがある街の北側へと向かった。
昨日よりも連れ歩いてるモンスターの数が多いからやっぱり目立つ。
そういえば、私みたいにモンスターを連れ歩いてる人ってほぼ見かけないんだよなあ。もしかしてこの世界ってテイマーが珍しいんだろうか? でも従魔登録なんてあるぐらいだから、さほど珍しくもないと思ったんだけど。
まあかといって私が自分で戦うとかは、今のところ考えてないけど。
だって怖いし。最低限、自衛が出来る道具は作ってきたけど、これの出番が来ないことを祈るのみである。
屋台や露店だ立ち並び賑わう通りを進んでいく。
すると暫く歩いたところで、ついにゴールが見えてきた。
冒険者らしき人達が出入りしている場所にあるのは、意外にも一軒の建物だった。さすがにあの建物がダンジョンってことはないだろうから、中に入り口があるんだろう。
さてさて。こっちの世界の本物のダンジョンはどんな感じなのかな――
「……案外、普通か」
建物の中にあったのは地下へと続く洞窟と階段だった。その階段の前に沢山の人が列を作って並んでいる。
ダンジョンぽいと言えばそうだし、ただの地下室への入り口と言われてもそう見える。
レベルが低いっていうのあるかもだけど、私の認識から大きくずれた突拍子もない形じゃなかった。安心は安心なんだけど、ちょっぴり物足りない気も……
「お次の方どうぞ~」
入場には受付が必要らしく、全員が自分の冒険者カードを駅の改札みたいに何かに翳してる。
「わっ!――驚いたテイマーの方でしたか。一度にそんな数をテイムするなんて凄いですねっ」
「そんなことは無いですけど――あの、もしかしてテイマーって珍しかったりします? 街だとあんまり見かけなかったので」
「そう、ですね。というよりあまりテイマーになる方が多くない、と言った方が正確です。あなたのように沢山の魔獣をテイムできるならまだしも、普通は一体か二体が限界ですから。それだと冒険者としては中々やっていけないので」
「あ、そうなんだ」
私も前の人に倣って冒険者カードをかざしながら、そんな話を聞いた。
そっか。テイマーってだけじゃなくて、連れてるモンスターの数でも驚かれてたんだと納得。
そうして受付を済ませて、いざダンジョンに突入する。
階段は大して長くもなく、十段かそこらを下ったらすぐに下の階に辿り着いた。
そこは石造りの洞窟だった。
ただし自然な形じゃなくて、明らかに人の手が入ってるタイプの切り揃えられた石。どっちかといえば大きなレンガに近いかも。
作った当初の私のダンジョンに近いかも。
まあこっちの方が断然、綺麗に整備されてるけど。
「さて、と――それじゃあ皆よろしくね」
『お任せを、主殿。まずは某が先行して偵察に行くでござる』
「……うん。お願い」
『ではっ』
そういうとゴブリンシーカーは、たたたーっと奥へと駆けて行った。
……言っておくが、あれは私の趣味じゃない。生まれたときからああなのだ。
ほんやくコンニャクを使っての第一声が『斥候なら某にお任せ下され、主殿!』だったんだもん。とてつもなく濃いキャラが来たと、天を仰ぎたくなったからね。
「ウエス。サスケのサポートをしてあげて」
『分かったわマスター』
ちなみにサスケというのは、ゴブリンシーカーの名前。斥候っていう役割とあの言葉遣いから、完全に忍者のイメージが定着しちゃったんだよ。もうこれしか思いつかなかった。
二匹を見送った後、私たちも歩き出した。
『ところでマスター。今日の目的は素材集めと聞いてますけど、何の魔獣なんですか? そういえば聞いていなかったので』
「あ、言ってなかったっけ?」
そう聞いてきたのはゴブリンプリースト。名前は『ジン』。
最初にサスケの名前を思いついて、いっそのことそれっぽい名前で統一してやろうと思ってこの名前にした。
由来はドラマで過去にタイムスリップしたお医者さんの名前からとってる。世代では無いんだけど、お母さんが見てて好きだったんだよねえ。
「ルンデルさんが欲しがってたのは『浄化石』っていう石と、『ポイズンバタフライ』っていう魔獣の素材の二つ。浄化石の方は魔獣じゃなくて採取するものみたい」
『なるほど。ではまずどちらから?』
「場所的に近いのが浄化石の方だからそっちだね。地下三階にあるらしいから。ポイズンバタフライはその一個下の地下四階」
そんな話をしていると、向こうから斥候に出ていたサスケとウエスが戻って来た。
『主殿っ。この先に少し行った曲がり角に魔獣が一体おりました!』
『サスケの言った通りよ。あんまり強そうじゃなかったけど、待ち伏せしてるみたいだから気を付けて』
「了解。それじゃあ油断せずに行こうか。前衛は『一郎』、殿を『次郎』に。真ん中に残り全員って感じで。それじゃあ皆、よろしくね」
ゴブリンソルジャーの一郎と次郎がすぐに前後の配置につく。
まずはこれで進んでみよう。
無事に帰ってこれるよう、頑張ろうっ。
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