第十一話 魔道具屋と店主
まさか適当に行ってみた国にアタリがあるとは、さすがに予想外だったわ。手間が省けたって考え方も出来るけど、さすがにいきなり過ぎて何の準備も出来てない。
ケルビムの話を信じるなら、邪神の残滓が持つ影響は異世界人である私には通じない。だけど万が一を考えるなら、何の準備も無しに飛び込むのは無謀だ。
「今すぐに、とはいかないか……」
「何か言ったか?」
「何でもないよ。それよりクレア。色々聞きたいこともあるんだけど、この街の案内をしてくれない? 話は歩きながらするから」
「それはいいけど、どっから案内すればいい?」
「そうだなー……じゃあここから時計回りにぐるっと一周する感じでお願い」
「とけい回り? それってどっちだ?」
「……ごめん。右回りでお願い」
おぉ……異世界ギャップを感じる……
そうして私はクレアに道案内をしてもらいながら色々な話を聞くことができた。ついでにこの街ガレンシアについても知ることが出来た。
門番さんも言っていたけど、この街は冒険者の街として栄えているらしい。
なぜ冒険者の街かといえば、それはこの近くに国で唯一のダンジョンがあるからなんだとか。
ここから北に少し行ったところにあって、それを目当てにした冒険者が大勢集まって来る。そうして少しずつ発展していっていつの頃からか冒険者の街と呼ばれるようになった。
「え、ダンジョン?」
「そうだぞ? ダンジョンに飛びつかない冒険者はいないだろ」
……そう、ダンジョンである。
私がこの世界に来るにあたって、天使だか神だかにもらった特殊能力<ダンジョンマスター>。それによって作れるダンジョン。
それがなんと、こっちの世界には普通に存在しているらしい。
まあ珍しいには珍しいんだけど。
おいこらケルビム。別に特別な能力でも何でもないじゃねえか。
これってつまり私と同じ<ダンジョンマスター>を持った人がいるってことでしょ?
……まあいっか。
別に自分だけしか持ってない特別な能力が欲しかった訳じゃないし。
それにダンジョンマスターの力に今のところ不満は無い。むしろ便利に使わせてもらってるから感謝したっていいぐらいだ。
それにあまり関わるつもりは無いから別にどうだっていいや。
本来の目的の方には関係無いしね。
と、それはいいとして。この街について。
上から見たときは変な形だなと思った。北の方に向かって伸びてて、森がある西側は逆に凹み、東と南はその中間ぐらい。
なんというか歪なひし形って感じだ。
でも今なら何となくその理由が分かる。北に伸びているのはダンジョンがあるからだろう。逆に西は森しかなくて旨みがないから。東と南は知らんけど。
そんな予想通り、街の北側には宿屋とか飲食店が多く並んでいた。ちなみに冒険者ギルドがあったのも北側寄りだ。
東は民家とかが多い印象。南は色々なお店。西は閑散としてた。
「ふむふむ」
「ざっとこんな感じだ。どうだ姉ちゃん?」
「まあ色々と分かったけど……ところでクレア」
「なんだ?」
「私ってさ――浮いてる?」
「は?」
「いやなんかさ、周りから視線を感じるというか……」
街を散策していると、妙に周りの人から視線を感じることが多い気がした。
最初はモンスターであるイースを連れてるからかと思ったんだけど、ちょっと観察するとどうも違う。視線が向いているのはイースじゃなくて、やっぱり私の方なのだ。
もしこれが悪目立ちによるものだったら嫌なので、思い切ってクレアに聞いてみたんだけど。
クレアは「う~ん?」と少し悩むような様子を見せてから、ぽんっと手を打って何かを思いついたように私を指差した。
「その服だろっ。ここら辺じゃ見ない変な服だな~とはずっと思ってたんだ。だからさっきも、一目でギルドにいた姉ちゃんだって分かったんだし」
「……あぁ、そういう」
今の私の格好は、膝上丈のショートパンツにニーハイソックス。上はシャツとその上から適当に一枚羽織ってる。こっちの世界に連れてこられたときのままの格好だ。
まあつまりバリバリ現代日本のファッションだってこと。
だけどここは異世界。私と同じような恰好をしてる人なんて当然いやしない。客観的に見ると明らかに浮いた服装をしてる。
そらジロジロ見られる訳だよ。
というか服装にすら気付かないとか、ちょっと間抜けすぎるだろ私ぃ……
「まあでもいいんじゃないか? 確かに変わった格好だけど、別に変って訳じゃ無いし。むしろ姉ちゃんに似合ってると思うぞ!」
「――そりゃどうも。まあ確かに。わざわざ着替えるほどでもない、か」
「そういえば姉ちゃんって、冒険者とは思えないほど軽装だな。街で見かける魔法使いでも、もうちょっとマシな装備つけてるぞ。うん、やっぱり変かも!」
「どっちなんだよっ。別に冒険者になりたかったんじゃなくて、この子の従魔登録がしたくてなっただけだし。危ないことするつもりは無いからそういうのはいらないでしょ」
そうそう。別に冒険者といっても、モンスター退治とかする訳じゃ無いし。もしすることになっても、ウィンドホークたちがいるから私に出番は無いでしょ。
一つ疑問が解決したところで、街を周った中で実は気になる場所があった。これは邪神とは関係無く私の趣味関連なんだけど。
さっき来た道を引き返しながら向かったのは、南側のとあるお店。
こじんまりとした建物の正面には『ランデル魔道具店』と書かれた看板が飾られている。
「なんだ姉ちゃん。魔道具に興味があったのか? でも魔道具ってどれも高いぞ?」
「別に買えなくてもいいんだけどね。どっちかというと魔道具そのものの方に興味があるというか。今後の参考にしたいというか」
「へぇ~」
クレアは明らかに興味無さげな平坦な声で返事をする。
まあそりゃあクレアには何のことやらって感じだろうけど。だけど私にとっては、魔道具と聞いて黙っている訳にはいかないのだ。
どうせ中に入ってもつまらないだろうから、クレアには外で待っているように言う。イースにはクレアを見ているように頼んだ。
無いと思うけど、子どもだけだからね。妙なことに絡まれても面倒だ。その点イースが睨みを利かせればよっぽどじゃない限り寄り付かないだろう。
おずおずとイースに手を伸ばして撫でるか撫でないか葛藤しているクレアを尻目に、私は魔道具店に入店した。
入ると中は外から見た通りあまり広くはなく。壁際と中央に一つ、どれも高い棚があってそこに展示品のように魔道具らしきものが置かれている。
「いらっしゃい」
店の奥からそんな男の人の声が聞こえてきた。
見るとカウンターの向こうに若い男の人が座っている。てっきり店の佇まいからしてもっとお年寄りがいるかと思ったけど、これは意外。店名からしてあの人がランデルさんかな?
「あの。店主のランデルさん、であってますか?」
「店主ではありますけど、ランデルではありません」
「ん?」
「あはは、やはり混乱しますよね。こう答えると皆さん同じ顔をされますよ」
そう朗らかに笑う店主さんは、名前を間違えたことを気にしている様子も無かった。
「実はこの店は父親から継いだんです。それでその父は祖父から継いで、店を起こしたのもその祖父なんです。だからランデルは祖父の名前なんですよ」
「ああ、それで。早とちりしてすみませんでした」
「いえいえ。よく間違われるので気にしないでください。ちなみに私はルンデルといいます。ところでお客さんは、何か商品をお探しで? 言ってくれれば、私の方でピッタリな魔道具を見繕いますよ」
店主さんの名前に内心「まさかお父さんの名前はリンデルか……?」と興味心をそそられるけど、ここはぐっと我慢して本題に入る。
「魔道具も気になるんですけど……あの。ここに魔道具の作り方がのってる本とかってありませんか?」
「――ほう」
「街を見て回ったんですけど、本を売ってるところも読めるところも無くて。だからそれを扱ってるお店ならって、駄目元で来てみたんです。それでもしあるんだったら売ってくれないかな、と」
「なるほど。お客はお客でも、職人希望のお客さんでしたか。ふむ……」
すると店主さんは黙り込んでしまう。眉間には皺が寄ってるし、もしかして怒らせちゃっただろうか。
「…………あの。無理そうなら全然大丈夫ですよ? 私、遠くから来た者でここら辺の常識には疎いんです。だからもし失礼なことを聞いちゃってたら諦めるので」
「ああいえ。そういうことではないんです。確かに、職人の個人技術が乗っているような秘伝書を売るのは不可能です。それは職人にとって何よりも代えがたい財産ですからね。しかしお客さんが欲しいのはそういうのではなく、いわゆる手引書のようなものでしょ?」
「そう、ですね。そもそも正しい作り方すら知らないので、基本から学べるような本が欲しいんです」
この前から作ってる秘密魔道具については、あれはノーカウント。
だってあれって付与魔術っていう便利魔法でゴリ押ししてるだけだし。あれはあれで幅広く使えるから重宝してるけど。
だけどこの世界で使われてる――それこそ入り口にあった犯罪歴を調べる魔道具――ちゃんとした魔道具にも興味がある。それも知っておけばもっと色々な再現が出来るかもしれないから。
「それでしたら問題ありません。現にそうした本はありますから。高名な学校では魔道具作りを教える科目もあり、教科書としてそういった教本が使われるんです。ただ……」
「ただ?」
「この街を見て分かると思いますが、本というのは高価なんです。特にここは冒険者の街。本を読む人間はほとんどいません。ですからわざわざ高価な本を売る店などは無いんですよ」
「つまり値段が高いから、私には買えないってことですか?」
「それが半分。もう半分はうちにある教本は一冊だけということです。まあ無くても困りはしませんが、将来私の子どもにここを継がせる時にあると便利ですから。さてどうしようかな、と」
そういう理由だったか。
お金に関してはなんとか出来そうなあてがある。頑張ればどうにかなるだろう。
だけど一冊だけしかないものを無理に売ってくれとは言えない。
こうなってくると、売ってもらうより店主さんに本が手に入る場所を聞く方が早いか? この人ならおそらく知ってるだろうし。
方針を変えて本を売ってる場所、街を聞こうとすると、それより早く店主さんが先に口を開いた。
「そうですね。決めました! お客さん、私が持ってる本をお売りしましょう」
「ほんとですか!?」
「はい。ただし条件があります。実は今、とある魔道具の製作で難航していまして。それで新しい素材の調達を冒険者ギルドに依頼しようと思っていたところだったんです」
おっと。ちょっとだけ嫌な予感がしてきたぞ?
「――そこでなのですが。お客さんがその素材を持ってきてくれたら、本をお売りしましょう。これが私が付ける条件です。どうでしょう?」
「……ちなみに。その素材っていうのは?」
「ええ。この街のダンジョンにいる魔獣の素材です」
「おぉぅ……」
これをフラグと呼ぶのだろうか。
さっき自分には他所のダンジョンは関係無いと思ったばっかりだったのに。その途端にこれですよ。
ダンジョンマスターの力を持ってる私だから分かる。
ダンジョンはとても怖い場所だ。
危険な罠や、人を襲うモンスターが巣くっている。そんな場所になんの経験も無い私が乗り込んだところで、返り討ちにあうのが目に見える。
別に魔道具の本だったら無理に買わなくてもいい。
現状、付与魔術でどうにかなってるんだし。それに少し足を伸ばせば、普通に買える街があるかもしれない。
どうしてもこの店で買わなくちゃいけないってことはないはずだ。
「もし良い素材を持ってこられたら、おまけに私が魔道具作りの手ほどきをしましょう。これでも以前は王都にある学院で教鞭を取っていた経験があります。教えるのはそこいらの職人より得意だと思いますよ?」
「……っ」
私は店主さんの話を――――受けた。
「ではよろしくお願いします、キヨミズさん」
「はい……よろしくです。ルンデルさん」
こうして私は、自分のじゃない他所のダンジョンに行くことになった。
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