第145話 大剣巨砲
『私はクロエを生き返らせる! 邪魔をするなら誰であろうと踏み潰すだけだ!』
“日出ル神殿”が全身に蒼炎を纏わせる。しかも火勢がこれまでの数倍にまで膨れ上がり、蒼炎が樹海を食い破りながら燃え広がった。
「あちち」
肌に飛び火した炎を軽く払う。
蒼炎の凶悪さも梢にとっては文字通りの火の粉でしかない。内に無尽蔵のエネルギーを秘めるからこそだが、そうでなければあっという間に蒼い炎に食い尽くされているところだ。
『恐れいりましたよ、まるで鬼の皮を被った宇宙怪獣だ』
「その言い方、失礼しちゃうっす」
『私の神殿よりもよっぽど大質量のくせに、よく言いますね。予定より早いが、怪獣には相応の戦い方をさせてもらいます』
神殿の背から天に突き出す煙突にも似た砲身。
そこに魔法陣の形をした術式が砲身に貫かれるように現れ、先端では更に巨大な術式が砲弾の発射を待ち受けていた。
「それ、竜の災害が放つ『破壊の息吹』をそっくり再現した主砲っすよね? 街を吹き飛ばすつもりっすか」
『なぜ知っているのかはこの際いいとして……悪虐を背負う覚悟など、とうに出来ている。ましてや“真ノ悪”を滅ぼすのに躊躇いがあろうか!』
「殿町クロエがそれを望むんすか? 生き返った時に、あんたが大量虐殺を行ったと胸を張って言うつもりっすか」
『ククッ……ええ、言いますとも。案外あの女なら、そのくらいしてでもあたしを生き返らせなさいよと、言ってのけそうです』
「うわぁ……」
砲身が帯びる術式が輝きを増し、イズルの通力を吸い尽くす。
一度ならず二度、三度とイズルを死に追いやる通力の搾取が行われ、ようやく主砲が求める量のエネルギーが溜まった。
(まるで永久機関……けれどそんな都合の良い存在、世界が許すわけない。きっとこれも、禁術に近い悪影響がある)
イズルが軟禁された本当の理由を察する。
黎明は“時の神の発条”が少なからず世界を害すると気付き、しかし処分するには惜しい能力ということで生かしておいたのだろう。
久良名学園に封じられている神と同じく、いつか利用するために。
なにせ事実上の永久機関……擬似的な無限のエネルギー発生装置だ。使い道などいくらでもある。
「確かに予定より早いっすね……せめてもう少し時間を稼がせてほしいっす」
影の球体が現れて神殿をすっぽりと覆う。
災害級の攻撃にも耐えられるほど強力な障壁であり、八重波の『一の太刀』、あるいは『二天』の斬撃までなら防ぎきれるかもしれない強度だが、
『刈り取れっ、巨神の大鎌!!』
砲身を包む術式が砕け、鮮やかなガラス片のように宙に散らばる。
ただそれだけの予備動作がドームの頂点を卵の殻のごとく破壊し、砲身が剥き出しとなった。
ガラス片となり漂っていた術式は一つ一つが桁外れな量の通力の塊だ。それらが砲の先端で一瞬のうちに拳サイズにまで圧縮される一連の光景は、美しくも本能的な恐怖を覚えさせる。
『神よ赦し給え』
砲身から絶望的な力の奔流が放たれた。
イズルから初めて聖職者らしい言葉が発されたが、天に弓引く一条の光は皮肉そのもの。
これが上空で弾け、街を蹂躙する破壊の雨となって降り注ぐのだ。
数秒後の未来を幻視して、イズルは僅かに心を痛めた。ほんの僅かだけ。
「しゃーないっすね、アレは凄く疲れるんすけど―――むむ?」
主砲、『巨神の大鎌』が拡散する直前。真横から巨大な物体が飛来し、主砲の射線に割り込む形で直撃を受けた。
ピラミッドのようにも見えたが、天高く上がっていたせいもあって確認は出来なかった。
―――ッッッ轟!!!!
遥か上空。音の大きさよりも、直後に街に降り注いだ爆風が激しい。
夜は真昼の如く染め上がり、全域に強風が吹き荒れた。
『なに!?』
ピラミッドらしき何かは、何者かに投げられたかのような軌道だった。あんな巨大な物体がまさか……である。
だがそのおかげと言うべきか、主砲が最大の威力を発揮することは無く、オレンジの爆発が街を明るく照らし出すだけで終わった。ただし、それだけでも十分な脅威として多くの目に焼き付いたであろうが。
『今のは呪術師の……なぜあんな物が上空で割り込むのです!』
「んー、うんしょっと」
公園の遊び場のような感覚で神殿の肩によじ登ってきたのは銀髪の座敷わらし、モルドレッド。
超特大花火の余韻が空から垂れ落ちていくのを眺めながらワイワイとはしゃぎ始めた。
「花火すごーい! もう一回! ねーねー、もう一回!!」
神殿をペチペチ叩いてアンコールを要求する幼女。
これは無邪気な子供などではない。得体の知れない何かだ。
『いったい何をした!』
不気味なものを感じ、イズルも焦りを見せる。
肩にいる幼女らしき存在を潰さん勢いで掴もうと手を伸ばし、
「やっ! さわんないで!!」
バキッ、というあり得ない音と同時に神殿の頭部が衝撃に見舞われる。
モルドレッドの飛び蹴りが25階建て相当のロボをよろめかせたのだ。その光景の異常さは目にした者の動きを刹那の間だけ停止させた。
「知らない大人に触られそうになったら殴ってもいいんだぞ! 兄ちゃんが言ってたんだから!」
体勢が崩れた神殿に小さな拳が追い打ちを掛ける。
眼前に飛び出した銀色の脅威にイズルが怯み、眉間に大砲なみの一撃が叩き込まれて後頭部まで突き抜けた。
『なんて馬鹿げたパワーっ……まさか本当に呪術師を投げたのですか!?』
しかもかなりの剛速球で巨体が飛んできた事を考えると、四宮の『色装』による強化か災害級の鬼、あるいはヘルメスの作り出した強化生体兵器であるジェーン・スミスに匹敵する怪力ということだ。
神殿が背中から倒れ地面にめり込むパワーを目の前の小さな体が秘めているという事実は、銀髪の幼女が尋常ならざることを示していた。
「なんかイイ感じの焚き火があったから投げつけてみたー。そしたら花火になった!」
神殿の損傷が消え、地を揺らしながら身を起こす。
戦略級の切り札である『巨神の大鎌』を焚き火扱いする恐るべき幼女だが、自分を害する力は無い。
パワーは凄まじいが、それだけではイズルの固有秘術に対抗できないのだから。
『稲生平の式鬼神ですか。まったく次から次へと――――』
「ごめんねイズルくん、次はボクのご登場だよ」
神殿が膝立から『蒼炎』を纏ったその足下。
小柄で可憐な容姿、雪原のように白いコートと帽子、普段よりも大人しいストレートな髪型の人物を見つけ、イズルは“千影”に会った時以上に戦慄する。
『まさか貴方が来ていたとは――――』
「おいたが過ぎるよ、イズルくん。オズっちが悲しんじゃうよ?」
『ッ!!?』
数十メートルの巨大人型兵器が突然に転倒し、ドゴォオンと地を揺るがす衝撃が起こった。
その勢いは背中から突っ込んだ樹木が傾く程である。
イズルにも何が起きたのか分からない。確かなのは、神殿の足がイズルの意思とは関係なく飛び上がった事だけだ。
『ッ……謎の多い方だと思ってはいましたが、こんな力を隠し持っているとは知りませんでしたよ、春陽さん』
退魔師の大家である三王山家の当主、三王山春陽。
六家の中でも術符、術装の供給を司るという他は当主の奇行ばかりが目立ってきた。
その奇行の主が今、表舞台で牙を見せる。
「そこのキミ」
「っ! ぉお?」
春陽と目が合った瞬間、モルドレッドが何かに押されたように後ろに仰け反り、クルッと転げた。
ペタリと座りこんで目を点にしながら春陽を見ている。
「この街はほんとトラブルの中心だね。呪術師に“真ノ悪”に白面金毛……イズルくんはその他ってとこかな。キミはなんか変な感じだけど、平くんの式鬼神なら取り敢えず警告だけで済ませるよ。あんまり暴れちゃメッ、だからね?」
次いでその場に揃った面々を見回して牽制も行う。
イズル、梢、負傷して遠くから様子を窺っている石刀。さらには近くに身を隠して退魔師の部隊を全滅させた何者かの存在も。
「うぅ、このおじさん怖い……ムラマサみたい」
モルドレッドが後ずさる。明らかに怯えた様子だ。
子犬のように震える姿は外見に相応ではあるが、それがどんなに異常な事か梢だけは知っていた。
(モルドレッドは強さを感じ取るセンサーが鋭い。ってことは、マジでやばいってことに………)
「あまり知られてないんだけどさ……」
春陽の手掌がイズルと梢へと向けられる。
何かをなぞる指の動きをした瞬間、梢はいち早く察知して全力で距離を取ろうとした。だが、
『っ………ぐあ!』
「――――っ」
春陽が手をグッと握り込む。すると二人の心臓が動きを止めた。
威圧によるストレスで一時的に止まったと錯覚するのとは違う、本当の意味で心臓が止まったのだ。
「ボクって、村正くんや洋一郎くんよりちょっとだけ強いんだよね」
★
街中に突如として出現した大樹海。その発生源であるアフリカ系容姿の騎士、パロミデスが二本の木剣へと変化した“友よ”を振るう。
素早く軽快な動きでパロミデスを翻弄する小柄な少年、一宮叶多は木剣を躱しながら反撃の隙を探っていた。
両腕に鉤爪付きの手甲を装着し、スピードを活かした近接戦を仕掛けられるパロミデスは舌を打つ。
単純な中近距離の戦闘ではトリスタンに及ばないとはいえ、パロミデスもそれなりの剣技を扱える。それを手甲で防ぎつつ鉤爪で絡め取り、死角とも言える低い位置から刃を走らせる技術は神童と呼ばれるに相応しいものだ。
「強いな。そんでチビの退魔師ってことは……おまえ一宮叶多だろ」
「そういうお前は何者だ。この厄介な森を出現させたのはお前か!」
「そうだぜ。俺様は“真ノ悪”で最も堅牢な騎士、パロミデス。覚えておけ」
「“真ノ悪”っ……これだから鬼なんて信用できないんだ。いつか必ず駆逐してやる!」
パロミデスはやり難そうだが叶多の猛攻を全て防いでいる。
素早い立ち回りに押され気味とはいえ、パワーではパロミデスの方が強い。木剣で迎え撃つたび叶多がボールのように弾かれて距離が開くため、もどかしい応酬が続いた。
「ガキを鬼にけしかけるとは、協会の洗脳教育も行き届いてるみたいだな!」
「黙れ! お前ら鬼は薄汚い害獣だ!」
「ははは、義憤だか私怨だかに燃えてるねぇ。何でもいいが、薄汚いのは人間も同じだろ。お前はそいつらの哀れな手先だ」
叶多の殺気を露わにした攻撃がパロミデスを襲う。
弾丸のように速く、風のように疾い。さらには風の顕術によるブーストで手が付けられない域に達しつつあった。
神崎風音の最高速度に匹敵し、小回りは風音に勝る動きだ。
速さだけで競うなら退魔師の上位30名に入り、多彩な支援と攻撃系の顕術をも操る。将来的には第二の赤坂村正となるのではと期待されていた。だが、
「はぁ、はぁ、こちらの体力切れを狙って……」
「ま、そんな事しなくても勝てるんだけどな。スタミナ不足なんて丸見えの弱点があれば突きたくなるんだよ」
「っ………」
叶多の動きにはまだまだ凄まじいキレがある。
しかし高速戦闘は少年の身体への負担が大きい。相手が強敵であればあるほどに消耗までの時間も早くなるのだ。
堅牢と名乗るだけあってパロミデスの守りは堅く、叶多は加速度的に疲労していた。
(それを、この短い交戦の中で見抜いたのか。まだ殆ど力も落としてないのに)
パロミデスの狙いが分かったことで叶多に焦りが生じる。
僅かだが動きに精彩さを欠き始めていた。パロミデスがそう仕向けているからであり、叶多もそれを理解しているからこそ余計にだ。
「どうする、決着を急いでみるか?」
「……いらないお世話です」
言葉とは裏腹に叶多の戦いのペースが変わる。
手数を増やし、身体強化の出力を上げていた。ただ闇雲に展開を早めたのではなく、決め手になる技も効果的に織り交ぜていく。
『風刃』
鉤爪に纏わせたのは形状が変化する風の刃、『風刃』。攻撃範囲が拡大し、振るえば風に紛れた小さな斬撃があらゆる角度で敵を襲う。
「だが軽い。それに鬼に対して掠り傷なんか負わせても秒で治るっての」
『風刃』は相手に確実な損傷を与えていくが、強大なエネルギーを内に抱える鬼は通力の密度が高い攻撃でないと軽傷程度は治せてしまう。
ゆえに風系統の顕術は鬼との相性が悪いとされ、使い手が少ない。そのうえ通力を霧散させやすい性質のため扱いは難しく、他の顕術より攻撃力に欠ける認識なのだ。
『風爪の縛鎖』
「うおっ!? 急に威力が……!」
『風刃』の風に被せる形で更なる風域がパロミデスを取り巻く。
『縛鎖』は捕縛用の顕術であり、同時に系統に合わせたダメージを与える技だ。本来の風刃は威力が低いが、『風爪の縛鎖』による追加の風刃と掛け合わさる事で密度の高い攻撃へと変わり、加えて縄状の気流が巻き付いて動きを封じていた。
顕術を掛け合わせて相乗効果を出す……これは特一級の退魔師でも一握りしか使えない高等技術。それも風系統で行うのは至難と言えた。
「やるな、神童の評判は伊達じゃないってことか」
輝きを放っていた鎧が切り裂かれ、深い傷跡が刻まれていく。
逃れようにも気流の縄が全身に絡みついて身動きが取れない。
普通ならこの時点で詰みなのだが、
「少しばかり力を使うぜ“友よ”。安心しろ、四宮隼人をぶっ殺すだけの力は残しておくし、ガキだって殺さねぇ程度にしとくよ」
木製の剣に姿を変えた“友よ”を地に突き立てる。
ピシッと亀裂が走り、一拍遅れて強い揺れと亀裂の拡大が始まった。
「足場を崩した程度で――――」
叶多は機動力こそか戦術の要。『踏鳴』などの技を受けても動きが鈍らないよう徹底した訓練を行っている。
だがパロミデスのやろうとしている事は足場がどうというレベルではなかった。
「足場? そんなもんあったっけな」
ガガンッ――――
足がスポンジの海に沈んだかのように沈み、直後には土が崩れ去って谷が出現した。
大量の植物の根が地中を掘り、叶多の踏みしめるはずだった地面を空洞に作り変えたのだ。
地の底まで続くような闇と蠢く根が叶多を覗き見る。
「『虚空踏破』ぐらい使えますよ」
通力の足場を蹴り、一息で地上に飛び出した。
「一瞬だけ面食らえば十分だ」
叶多が地上に顔を出した瞬間、無数の蔦が行く手を阻む。
反撃は予想していたが、蔦の動きが思いのほか速い。すり抜ける事は出来ず足を止められた。
(蔦は樹木よりも高速で動かせるのかっ……)
ならば強度は樹木ほどではないかも……そう考えて鉤爪と風刃で切り裂くと、予想通り鉤爪の刃は通った。しかし風刃は傷をつけるに留まり、斬撃の多くは大した効果を与えていない。
そこで僅かにもたついてしまい、隙を逃さず叶多の足に蔦が巻き付いた。
「やたらに殺すとボスに叱られるんでな。そこで捕まっとけ」
「くそっ! こんな物、すぐに抜け……て……ん?」
うねうね、うねうねうね
「な、なんか様子が……えっ、何でこの蔦、服の中にまで!?」
退魔師の標準装備である上下のインナー――サイズは特注――までは入ってこないが、Tシャツとの間に入り込んで密着し、叶多を締め付けている。下も同様だ。
そこはかとなく不穏……いや、あまりにも不穏な光景だが、叶多には傷一つ負わせていない。
「プライウェンの制御は俺様が任されてるが、調整はマーリン様がやっててな。変な動作があったらマーリン様のせいだ。俺様を恨むなよ?」
「なんだその言い訳!? あ、ちょ、やめ……くぅ……」
(プライウェンつっても、性質はただの蔦だよな? マーリン様の趣味か?)
蔦は球状になって叶多を閉じ込めている。
その中では、とても言葉に出来ないような出来事が少年の身に起こっていた………
「さてと“友よ”、プライウェンの残りは………なに? もうそんなに減ってるのか。どうしたもんか、せっかく俺様が出てきたんだし、傘ぐらい差してやろうと思ったが……てか誰の仕業だ? プライウェンがこんなダメージを受けるなんてよ。まさか姐御が本気で暴れてんじゃねえだろうな」
姐御……梢が本気で戦えば大樹海など数十秒と保たない。丸ごと伐採されて材木に加工するのも容易いだろう。
樹海は今出現している分で最後、追加で出すには調整済みのプライウェンを補充する必要がある。
この後の事を考えると、あまり激しい戦闘で消費したくはないのだが、
「ん? なんだ―――づあ!!?」
横一閃の斬撃がプライウェンの大樹海を駆け抜ける。次の瞬間、超硬度を誇る樹木が稲のように纏めて刈り取られ、余波がパロミデスを襲った。
「っぐ、プライウェンが無けりゃ俺様の腹がかっ捌かれてたなこりゃ」
パロミデスの鎧は薄く軽い作りとはいえ防御力は確かだ。
美しい光沢を放つ鎧に真一文字のキズが刻まれたが、そこは特別製の装備。自動的に修復が始まり、何食わない顔でパロミデスは立っていた。
「ただの流れ弾がなんて威力だよ。あっちは協会本部の方角か……姐御でも海藤でもない攻撃、まだまだ油断ならない街だよな“友よ”」
〜〜 ヤバい親 〜〜
バンッ
本部ビルの屋上から呪術師を狙撃していた三王山アトスが、真下に現れた父親の姿を見て手元を狂わせた。
何処に飛んでいったかは分からないが、誰にも当たっていない事を祈る……
鳳「………? アトスさん、どうかしました?」
ア「妖怪……いえ、父が前線に出て来たので、驚いて」
鳳「春陽さんが!? わ、ホントだ。私あの人が戦うところ見たことないですけど、大丈夫でしょうか?」
ア「いいや、大丈夫じゃないだろうね……相手が」
鳳「あ! あの技はもしや、『◯ラスプハート』では?」
ア「父さん、いきなり第九位階魔法をぶっ放す癖は直してくれとあれほど………」
鳳「まさか、そのうち砂とか操って『◯漠柩』とか言い出したり……」
ア「言い出したりはしないけど、それに近い事はするかな」
鳳「凄いお父さんですね」
ア「そう思えるのも今のうちだよ。アレを人前に出して、
『義理の父です』と紹介し続けるのは、きっと慣れない。 赤面は必至だ」
鳳「義理の父……あぅ」
結婚する気満々の発言に、鳳子は赤面した。
〜 ナンパの日 〜〜
K「さて、日曜日に男3人で街に繰り出した僕たち
だけど………」
磯「ナンパしようぜ?」
海「じゃねーよ! 休みの日に友達と出かけるのは良いけ
ど、ナンパとか聞いてないから!」
磯「言ったら来ないかと思って」
海「しれっと言いやがってコイツ……あのね、分からないと
思うけど僕はナンパして女の子を引っ掛ける連中には
トラウマしかないんだよ! 蔑んでる連中と同じ行動
をするのは御免だし、経験則から言って自分がナンパ
されるのがオチなの!」
K「僕に至ってはカノジョ(仮)持ちだし」
海「まったくだよ! 黒沼くん、磯野なんか放っておいて
帰ろう。コイツはもうダメだ」
磯「待て待てお前ら、考えてもみろ。俺らってさ、華の学園
生じゃん?」
海「華のって……」
K「海北くんにはあるかもね、華」
磯「そんな俺らときたら……毎日毎日、深夜の街を巡回して
は鬼退治してばっかじゃん? 甘酸っぱい学園生活も
好きな女子と仲良くなるチャンスも無い、哀れな社畜同
然。だから今日ぐらい、潤いが欲しいんだ!!」
K「女子と仲良く、は間に合ってるよ」
海「毎日働かされてるわけでもないし」
K「チャンスが無いのは磯野くんの努力が足りないせいで
は?」
海「磯野はむしろ、社畜を見習えって感じだよ。自分が受け
持った書類をコッソリ僕の分に紛れ込ませるのは止めて
ほしいんだけど」
磯「寄って集って反論すんな! ああそうとも! 俺は努力
が足りなかったかもしれない。だから今日は女子と仲良
くなる努力をする!!」
K「ふむ……」(←少し納得)
磯「そして海北、今後1か月は仕事を押し付けないって
約束するから手伝ってくれ! 一人じゃ心細いんだ!」
海「いや1か月じゃなくてずっと頑張れよ。自分の仕事を
押し付けないのは当然だからね?」(←半ギレ)
磯「頼む! 今日だけ、今日だけでいいからさ! 3諭吉
払うから!」
海「声を落としてよ! あぁ変な目で見られた」
K「……しょうがないな。今日だけだよ?」
海「ええ! 黒沼くんいいの!? だって四宮さんに何
て……」
磯「大丈夫だって。コイツと四宮は(仮)の間柄。愛人の
二人や三人くらい、どんと来いって言うはずさ」
K「浮気しても殺されない程度の許容であって、推奨され
てるわけじゃないんだけど……まぁ大丈夫かな」
海「でも僕は………」
K「一緒にいれば変な男は寄り付かないよ。ナンパなんかし
てたら尚更ね」
海「……わかったよ、黒沼くんがそう言うなら。でも、
今日だけだからね!」
磯「よっし、そうと決まれば俺と海北ペア VS 黒沼
で勝負だ!」
海「なぜに!?」
K「ふむ、勝利条件は女性の質? それとも数?」
海「さらっとゲスいことを……」
磯「質で。そして2人以上なら合算していくぞ」
K「わかった。負けた方は相手側の次回デート代を全額
負担でどうだろう?」
磯「乗った!」
海「君たちはもー!!」
K「健闘を祈る」
磯「健闘を祈る」
海「うわ、マジかよ! ホントにやるの!?」
漢たちの戦いが始まった。
そしてその一部始終を、不安げに覗き見る者達がいた。
★
風「な、なんなのよアイツら!」
ツ「ちょ、風音センパイ落ちついて。見つかっちゃいますよ」
マ「く、黒沼君、今日も優しそうなオーラ……」
風音が軽い気持ちで「男子たちって、休日なにしてるんだろ」と言った事から始まり、四宮鶫、神崎風音、佐助花真朱の三人で男子寮からの尾行をしてきたのだ。
もっと遡れば公浩のストーカーをしていた真朱が三人の外出届けを盗み見て、二人に口を滑らせたのも原因である。
そして磯野のトチ狂った提案を目撃した。
風「磯野のやつ、後で殺そう」
ツ「止めませんけど……これはヒドイですね」
風「そうよ、なんでよ! 可愛い女子ならここにいるの
に! よりにもよって外でナンパ!?」
マ「えっと、その、褒められた事ではないけど、黒沼君も
本気でナンパしようとしてるわけでは……」
ツ「あ、なんか磯野センパイと賭けが始まりましたよ。
私の彼氏(仮)も、わりと真顔です」
風「鶫、こんな時にマウント取ろうとしないで。そういう
のは(仮)が外れてからにしなさい」
マ「そ、それはそれでウザいと思うけど……あっ、
二人とも隠れて!」
磯「―――ぉぉおお!! やるぜ海北! ナンパは足で
稼ぐぞ!」
海「ちょっ!? そんなんで稼げるわけないだろ!!」
磯「俺に任せとけ! 今日中に6人はキャプチャー
してみせる!!」
海「モテないくせにどっから来るんだその自信!
って聞けよっ、引っ張るなああぁぁ―――………」
・ ・ ・ ・ ・
風「行ったわね」
ツ「はい。あ、でも先輩を見失いました」
風「磯野め〜! どこまでも邪魔をっ」
マ「ど、どうします、手分けしますか?」
ツ「……先輩にバッタリ出くわしても抜け駆けしない
って約束できるなら、そうしましょう」
風「…………」
マ「…………」
ツ「まだ遠くには行ってません。一緒に探しましょうか」
マ「そ、そうですね。えっと、黒沼君が行きそうな
ナンパスポットを検索してみます」
風「くっ、マズイわ。早く見つけないと公浩くんが
変な女と歓楽街にしけ込んじゃう」
ツ(ナンパが成功するのは前提なんだ……)
マ「や、やめてくださいっ、黒沼君はそんなふしだら
な人じゃ……ぁ、あぁ、指が勝手に、ホテルの検索
を始めてしまうぅ」
ツ「佐助花さん!? こんな往来で妄想を捗らせちゃ
ダメです! 内股でクネクネしないで!」
コホンッ
ツ「!」
風「!」
マ「!」
K「ねぇキミたち、今時間ある? 良ければこの後、
一緒に過ごさない?」
三人「は……はい……」
★
そして……成果を携え、漢たちは顔を合わせた。
磯「…………」
ツ「……どうもです」
風「た、たまたま近くを通りがかったのよ」
マ「決して、男子寮からつけていたわけでは……」
K「……どや」
磯「いやズルくね?」
K「別に反則ではないよ。ナンパして釣り上げたのは確かなんだから」
ツ「……釣られちゃいました」
風「……釣られてスミマセン」
マ「……釣られて嬉しいです」
磯「ぇぇ………」
K「そんなことよりも」
改めて、磯野の成果を見る。
そこにはフリフリのレースがあしらわれたお人形のような服を纏い、可憐と清楚を合わせ持ち、控え目に顔を伏せる儚げな美少女……の格好をさせられた海北ツナの姿があった。
磯「ナンパが成功したかはこの際置いておくとして、我ながら最高傑作だ。だからお願い! これで引き分けってことにして?」
ツ「は?」
風「ふざけてんの?」
マ「男子と互角はさすがに……私たちも女子としてのプライドとかあるから」
磯「お前らなんて面は良いけど、所詮はカノジョもどきに、男勝りのキレ女に、目隠れメンヘラストーカーだろうが。引き分けで十分だ」
ツ(怒)
風(キレ)
マ(殺)
磯「ひぃ!? ほ、ほらナッちゃん愛想良く! 君の可愛さを見せてやれ!」
海「な、ナツでぇす………くぅ、見ないで」
K「はぁ、やれやれ……磯野くんに土下座で頼まれて断われなかったんだね。可哀想に」
海「うぅ……黒沼くぅん」
K「よしよし、キミは頑張った。明日は5人でお茶でもしよう。たくさん愚痴を聞くからさ」
磯「………え、ひょっとして俺含まれていない?」
K「デート代は磯野くんが全額負担してくれるってさ」
磯「あ、やっぱり俺の負け……?」
ツ「ごちでーす」
風「破産させてあげるわ」
マ「宝具の貯蔵は十分ですか?」
後日、5人分のデート代で磯野は抜け殻と化した。
怒り狂った海北が持ち帰った領収書が鬼のような金額だったのは言うまでもない………
余談だが、デートの日はキッチリ女装してきた真面目な海北くんであった。




