第127話 ケンカ2
遊びすぎ?
「そろそろ止めに入るか」
グラウンドでの死闘? を第二ラウンド中盤まで屋上から見物していた黎明が、誰へともなく呟く。
隣に立つ亜笠は、自分の知っている四宮鶫とは別格の強さを目の当たりにして唖然となっていた。
「橘花院、実物を見るのは初めてだが………強ぇ。それを相手にしてる四宮も。おい亜笠、俺をあの中に一人で行かせるつもりか?」
「じいさんこそ、『ここは儂が食い止める』ぐらい言えねーのかよ。男を上げるチャンスだぞ? それとも、アタシが大怪我しても良いってのか」
「一人称が『儂』って……ったく、わーったよ。俺一人で行きゃいいんだろ? ゴジラとモスラの間に飛び込んでくらぁ」
眼下での戦闘は周囲への被害こそ少ないものの、その内容は黎明をもってしても恐ろしいものだった。
一撃一撃がミサイルのような生徒会長の猛攻をギリギリで捌きつつ、隙あらば見たこともない結界術を連発して閉じ込めようとする橘花院。時折、互いにダメージを受けてあちこちボロボロになっている。
どちらも本気で相手をぶちのめそうという意志が感じられた。
それ故に、以前に聞いていた四宮鶫の強さと現在との差には愕然とするほかない。
黎明が学園を離れている間に入学した鶫の評判は、四宮家の令嬢ということもあって小まめに耳に入れていた。まさか“IR”として多くの退魔師を恐怖させた橘花院と互角に闘えるまで成長していたとは予想外だったが。
少なくとも、黎明が間に入るのを躊躇うぐらいの強さと言えば、四宮家前当主の洋一郎に匹敵するだろう。
黎明は面倒臭さに顔を顰めながら、僅かな期待を込めてその人物を見る。
高いフェンスの上に腰かけている風紀委員長、澪・ペンドラゴンを。
表情は窺えないが、下で起きている戦闘を食い入るように見ている……ということは無かった。
関心自体は持っているが、別に集中している事がある様子だ。眼下に視線を送ってはソワソワしているのに、それでも街の彼方に身体を向けて動こうとしない。
(羽々矢の件で拗ねてるって聞いたが、なるほどな、転移使いを牽制してたのか)
確かに、誰にでも奇襲を行える敵への対応は必要だ。
あれから休まず睨み合いを続けていたのだとしたら頭が下がる。が、今、目の前の脅威に関しては手伝ってもらえそうにない。
「お勤めご苦労さん」
黎明がフェンスを跳び越える際、その一声を掛ける。
澪は反応しなかったが、「ふん」と小さく悪態を返した。
グラウンドに降り立つと、地面は荒野か岩肌の如く壊れ果てており、建物には罅割れや抉れた跡が見受けられる。
元凶の二人はガッツリと手四つ状態で動きを止めていた。いつの間に治したのか、骨が砕けていた筈の腕を使って。
実は士緒が離れようとして、鶫に指を絡め捕られて離れられないのだが、幸いにも周りにその事実は伝わっていない。
膠着している今がチャンスだとばかりに、黎明が二人へと歩み寄って行く。
「お前たち、そこまでだ」
シュピッ
黎明の傍を不可視の攻撃が掠め、首筋からツーと血が流れる。
その瞬間まで鶫と組み合っていた士緒が、シャレにならない眼力でもって黎明を正面に見据えている。
突然に居なくなられた鶫は、前のめりに転んでいた。
(不可視の刃……『五輪の書』か? いや、接続術式を唱える時間は無かったし、予め使っていたにしては持続時間が長すぎる)
『五輪の書』は自らの通力をマーカーとして、それを頼りに物体を干渉不可の空間に隔離できる。それでいて隔離空間からの限定的な干渉……要するに一方的な攻撃が可能という反則じみた接続術式である。
黎明ですら感知できない飛び道具など、それぐらいしか思い浮かばない。
しかし、通力は誓約よりも物質への定着が不安定であり、マーカーの役割を果たせる時間がかなり短い。黎明が屋上から観察を始めた時にはもう発動していたとすれば、とっくに隔離空間から姿を現しているはず。
詰まるところ先の攻撃―――と言うよりは脅しだろうか―――は、恐らく未知の顕術によるものだ。
(しかもこの敵意……威圧感で息が苦しい。この俺が)
四宮鶫との一連の戦闘は遊びとまではいかなくとも、ここまで殺気に満ちてはいなかったろう。
黎明は自分が出て来たことで、むしろ状況が悪化したのではと後悔し始めていた。
士緒は嗤い、歓迎とばかりに両手を広げている。
「仁科黎明、こうして対面する日をどれだけ待ったか」
感情を露わにしていた直前までと真逆。今は皮肉の塊だ。
不気味で、黎明にも冷や汗が浮かぶ。
「落ち着けよ。俺らってさ、話し合いの余地があると思わないか?」
「冗談でしょう? 私の故郷を焼いたくせに」
「……そうだな。だがそのことで一つ、疑問もある」
グラウンドは一見して静かだが、そこは正に台風の目のような場所だ。
この場所を中心に、嵐が発生しようとしていた。
「お前、父親の名前は?」
「橘花院日向ですよ。ご存じでしょう? 確か顔見知りだったとか」
「もういいだろ。俺に会う目的は達成したんだ、正体を明かせよ」
「……はあ? どうやら、その頭にはカニ味噌が詰まっているようですね。協会の資料を読んでいないのですか? そこに書かれていますよ」
「とぼけんな、お前は橘花院士緒なんて奴じゃない」
――――――!!
よく通る声だった。経緯を見守っていた者たち全員に届くほどに。
仁科黎明は多くを騒がせた橘花院の件に於いて、ある意味で一番の当事者だ。
その口から落とされた爆弾は、橘花院士緒という男に対する認識を根底から覆す一言だった。
「仁科黎明……貴方は橘花院を滅ぼしたと思っているようですが、私が生き残っていたのです。ご自身の残虐な行いにどれだけ自信をお持ちか知りませんが、生き残りがいないと断じられても困――――」
「橘花院 日向には潮という娘が一人いただけだ。息子はいない」
それは激震となって、久良名を駆け巡った。
★
十数年前。
橘花院の隠れ里。その外れに、まだ十歳ほどの少年の姿があった。
時代劇の子供が着ているような服で、夏の日差しを避けるためか木陰に立っている。緩やかな丘になっていて、少年はじっと坂の下を眺めていた。
「あっ、楽っくんここに居た! ダメだよ里の外に出ちゃ」
少年に近づいたのは、田舎の快活な子供のイメージをそのまま投影したような少女だ。
短髪、短パン、袖なしのシャツ、肌は陽に焼け、ニカッと笑う……そんな少女。
「君か……外には出てないよ、ただ眺めていただけだ」
「ここは結界の端だから里の外だよぉ。なに見てたのさ」
目線を下にやれば、道路脇の沢で無邪気に遊んでいる子供たちが見える。
ここは隠れ里を覆う結界のちょうど境目。人の営みと、人が踏み入らない山奥の境界線だ。
そこでは学校帰りの子供たちが水をかけ合ったり、秘密基地なんかを作ったり、物を持ち寄って色々な遊びに興じていた。
「仲間に入りたいの?」
「違うよ。ただ、里の中では見られない物が珍しいんだ」
「家にはテレビもインターネットもあるのに、あの子たちの何が珍しいのよ」
「普通の子供が、普通に笑ってる光景」
「うわ、楽っくんがオジサンみたいなこと言ってる。あたしと歳変わんないのに」
「君は……割と普通な部類だよね。橘花院の一族にしてはパッとしないと言うか」
「それあたしのせいじゃないよ! お父さんの遺伝ってやつだよ!」
「日向は才能の化物だけどね。ただ彼も、橘花院にしては優し過ぎるきらいがあるかな。傍から見れば馬鹿にも見える」
「こら! ちゃんとお父さんと呼びなさいって、いつも言われてるでしょ!」
「……ボクの事を人として扱うところも、橘花院とは思えない人間臭さだ。ましてや息子を名乗らせるなんて」
「それに楽っくんはあたしの弟! だからあたしの事も『君』じゃなくて、お姉ちゃんと呼びなさい」
「君を姉と呼ぶのは抵抗が――――」
「言ってみ? お ね え ちゃ ん」
「はぁ……日向が心配する前に帰ろう、潮」
「潮おねーちゃんって呼んでよ!」
……………
一度くらい、姉と呼んでやるべきだったのかもしれない。
現在なら、喜んで姉と言ってやれるのに。
橘花院の隠れ里が滅んだのは、この何気ない日常が暫く続いた頃だった。
★
潮という名前に、懐かしい記憶が呼び起こされた。
現在とは違う自分というのは、無条件で恥ずかしいものらしい。士緒に思わず苦笑が浮かんだ。
周りはというと、かなりの混乱が見られた。
あまりにも衝撃的な発言を、遠目に見ている学園関係者や事情に通じている者たちが前のめりに聞き、まさかそんなと話している。
上層部から降りて来た橘花院士緒の資料によると、日向という人物は橘花院の当主の名前。士緒と名乗った目の前の男は、その息子であると思われていた。
考えてみれば、橘花院士緒が当主の直系と認識されていたのは禁術の存在があったからだ。
以前、家の後継者が持つそれを不完全ながらも独楽石栄太の腕に宿して見せた。その事実と復讐という目的を踏まえれば、士緒こそが殺された当主の筋だと断定されたのも仕方ない。
なにより、黎明がその認識を否定しなかったのだから。
「多分お前は隠れ里に居て、あの凄惨な光景を見た誰かだ……顔つきは確かに日向と似ているが、それでも日向の子じゃない。橘花院を名乗ったのも、独楽石の末っ子に禁術を使ったのも、復讐がどうのと騒ぎ立てたのも全部、俺の注意を引くためだろ。俺に過去の幻影を突き付けて、苦しめるために」
「……苦しめる、ですか。まるで罪悪感があるような物言いですね」
「あると言っても信じないだろうが……今はそれよりも、教えてほしい。お前はどこの誰で、どうして禁術を受け継いでいる? 本当に俺を引っ張り出すためだけに、こんな大掛かりな行動を起こしたのか?」
その時、辺りが急激に暗くなった。
日が翳ったのではない。もっと直接的な暗さ……影が学園を呑み込むように湧き出したのだ。
建物の中も外も、地面も壁も天井も関係なく、真っ黒な染みが広がっていく。そこから茨にも似た触手が手近な人間を取り囲むように発生し、一触即発の危険な状況を作り出した。
「梢、止せ」
茨がピタリと動きを止める。
現在、学園には非常時の備えとして相応の人員が集まっている。経験値の低い新人は兎も角、ほとんどの人間は落ち着いて戦闘姿勢を取っていた。
このまま戦端が開かれれば、収拾をつけるのは難しい。協会との休戦も消し飛ぶだろう。
それは士緒の望むところではなかった。
「頭を冷やしてください。イラっとするのは分かりますけど、仁科黎明の戯けた発言は無視ですよ」
……………
納得しきれていないようだが、影はゆっくりと引いていった。
この様子を見ると、士緒が止めなければどこまでやる気だったのか不安を覚えるところだ。
暫くして学園に広がっていた影が音も無く消え去り、居合わせた全員が安堵の息を吐いた。
約一名を除いて。
「ぉげえっ―――ぐ、ぐるじ、絞まるぅ………!!」
影に首を絞められ、後ろ手に引っ張られ、背中側に折り畳まれそうになっている男が一人。言うまでもなく黎明だ。
辛うじて動かせる手首でタップをしまくっている。
「(パシャッ)……梢、ハウスです」
写真を一枚だけ撮り、今度こそ影は引っ込んだ。
はた迷惑な暴走だったが、ある意味で梢の行動は有難い。代わりに怒ってくれるお陰で、士緒は冷静でいられるのだから。
「お騒がせしました。ええと何の話でしたか……そうそう、貴方を苦しめるために、とかいう話でしたね。間違ってはいませんが、他にも“相談役”の老人たちを突っつくためでもありました。連中、慌てて動き出すものですから操り易いのなんの」
「げほっ、げほ、うぉっほ!」
「それと、この地の封印にも興味がありましたので、手っ取り早くかき回させていただきました。“白面金毛”も気掛かりでしたし、貴方が出てくればあの女狐にも繋がるかな、と淡い期待を」
「ごほっ、かひゅ………」
「……げほげほと煩いですね。息の根を止めましょうか?」
「きん……げほ……禁、術……」
「ああ、禁術ですか。確かにアレは橘花院の直系のために調整されていました。そう、貴方の言う通り、私は橘花院日向の嫡子ではない」
「…………」
「私が扱えるのは特例です。他の誰でもない私だけの特権でして、話せば長くなります」
「……ごほっ」
黎明は自らの封印術で『地の眼』を封じている限り、心の内を探ることは出来ない。
それでも見つめずにはいられなかった。最も重要な真実が、微笑の奥に隠れている気がして。
「仁科黎明。私が誰か、本当に分かりませんか?」
「………?」
「まぁ十年も経っていますし、ほんの一瞬でしたから当然とは思いますが」
再び影が蠢く気配。
黎明は、先ほど“千影”が気持ちを乱した原因が、自分が目の前の男を覚えていなかったからだと理解する。たったそれだけで暴走に足る理由なのだとしたら、思い出せない事に自己嫌悪すら覚えた。
そこに、全てを解決できる鍵があるかも知れないのに。あまりにも歯がゆい。
「やれやれ、お仲間の退魔師がワラワラとやって来ましたね」
気配に気づいた直後、特一級以上の退魔師が瞬く間に学園を取り囲んでいた。
厳重警戒が敷かれているだけあって素早い動きだ。しかも、どれほど大袈裟な伝わり方をしたのか、駆け付けたのは超が付く精鋭ばかりで涙が出そうになる。
「でも大丈夫。何度も言いますが休戦中なのでいきなり攻撃されたりはしないのです。私って賢いですね」
つ「ちなみに例外は私です」
士「……今日のところは消えるとしましょう」
冷静になった今、また意味不明な殴り合いが始まっては堪らない。
何故そうなったのかは自分でも分からないが、鶫に調子を狂わされたのは確かだ。
得体の知れない女からは逃げるに限る。
「なあ、橘花院」
仁科黎明が一歩進み出る。
やはり初めての対面で、こんなつまらない遣り取りだけでは勿体ない。
お互い、その意見は一致していた。
「やっぱ俺たち話し合えると思う。お前、悪い奴じゃなさそうだし」
「私が貴方をぶっ殺して見せれば、そのアホな口を閉じるのですか?」
「俺は自分でも呆れる程、自分の過去を後悔してる。償いたいとは言わない、それはやって当然のことだからな。俺はお前と一緒に前に進みたいんだ」
士緒は視界の隅で鶫を捉える。
ニコニコ顔で「ほらね」と言いたげだ。
だが、前に進みたいというのは必ずしもポジティブな言葉とは限らない。過去を忘れたい側にとっては、ただの都合の良い屁理屈なのだから。
「償ってから言え」
「…………」
今の答えが効いたのか、それとも堪えたフリをしているのか、黎明は沈痛な顔で押し黙る。
自らの軽率な言葉のせいで、二の句が継げなくなってしまった。
「あ、いいですか? これから貴方のことを何と呼びましょう。橘花院さん、じゃないんですよね?」
空気などお構い無しで鶫がズレた質問をする。
いっそK沼と名乗りますぅ? と言いたげな顔が実にウザったい。
とりあえず、何をしでかすか分からない鶫に恐々としながらも答えた。
「これまで通りで。名前などあって無いようなものですし、どうせ大した名前でもありませんから」
「知りたいんですけど」
「うるさいんですけど」
取り付く島も無しに、橘花院士緒は立ち去ってしまった。
誰も止めようとはしない。見る者によっては恐ろしい敵が去り、別の者には名残惜しくもあり、またある者にとっては過去に向き合うための猶予期間となった。
「……四宮、今から学園長室に来てくれ。話がある」
「あ、はい………んー?」
「どうかしたか?」
「いえ、なんでも」
校舎に向けて立ち去ったけど、いいのかなぁ………
鶫はこれからの事に、少しだけウキウキしていた。
………
……………
…………………
「ったく! 何だったのよアイツは!」
「ぷりぷりすんなよ神崎。もういいじゃねーの、何事も無かったんだし」
「何事も? あれで!?」
生徒会室に向かう途中、風音はずっとこの調子だ。
数分前は触れれば切れそうな鋭い気配だったのに、今ではキレていた。
早期入学組の二人は各所への連絡で走っているが、居たら震え上がっていたに違いない。
「でもさ、なんとなく魅力を感じる人だったよね、橘花院士緒………ちょっ、やめてよ磯野そういう目で見るの!? 僕はノーマルだからねっ!!」
「それよりも四宮だ。あそこまで強くなっていると、誰か知ってたか?」
「「「…………」」」
工藤の疑問は尤もだ。誰も、鶫が強くなっていた事を知らない。
黒沼公浩なら知っていた可能性もあるが、二人の関係が曖昧すぎて「お前たち最近どうなの?」とは聞きづらい雰囲気があり、近況を把握していなかった。風音が傍にいる時は特に。
学園長室に呼ばれている鶫のことを考えてか、風音が複雑な表情になる。
自分が嫉妬するほどの成長速度に一抹の不安もあるが、鶫に限ってヤバイ手段を使った筈もない。今のところ、才能が開花したと言えばそれまでだ。
かつて手も足も出なかった橘花院士緒を相手に、あそこまで立ち回れる生徒会長を頼もしく思うが、風音は何とも言えない敗北感も味わっていた。
「私も公浩君に抱かれれば強くなるかな………」
磯「それ何てエロゲ?」
海「嫉妬してるのソコなの神崎さん!?」
く「流石に抱かれちゃいないと思うが」※真面目
風音が病みだしたところで、生徒会室に着いた。
扉の横に大穴が開いている以外は馴染みのある光景だ。違うことがあるとすれば、それは中からの気配だけだろう。
「おかえりなさい。コーヒー飲みますか?」
「「「「・・・・・」」」」
中に入るとそこには、当然のように来客用のソファで寛いでいる橘花院何某が居た。激戦が嘘のような小綺麗なスーツ姿で。
何故ここに? 程度の質問すら行わず、風音が音も無く抜刀して通力を練り始める。
「臆病なチワワでもあるまいし、会うたびにキャンキャンと吠えないで欲しいですね」
「よく言うわよっ、この――――」
「黒沼公浩ですが……」
公浩の名前が出たことで、風音の怒気が行き場を失う。
ここで名前を出したということは、まさか誘拐――――
「彼、胸のふくよかな女性が好きだと思うんです」
「………死、ねぇええええ!!!」
冗談抜きに斬り掛かろうとした風音を、男子三人が必死に押さえつける。
何で自分たちがこの男のために、般若みたいになっている女を止めにゃならんのか。全く理解できない状況となっていた。
く「落ち着け神崎っ、遊ばれてるだけだ!」
磯「そうだぞ神崎! 男なら巨乳の方が好―――ぶるぁああ!!」
海「ほら神崎さんだっていつか大きくなるかもよ!?」
風「うがあああああ!!!」
全力で押さえているせいか、三人ともフォローが弱い。
風音に至っては見たこともないキレ方で三人を恐怖のどん底に突き落としている。
当事者はと言うと、優雅にコーヒーを飲んで笑っていた。
「失礼、ほんの冗談です。お詫びと言っては何ですが………」
未だ興奮したままの風音を落ち着かせるのは至難の業だ。半端な詫びでは意味が無い。
土下座して指を詰めて東京湾に沈むくらいはしないと無理だろう。
だが次の言葉で、自分たちが目の前の男を侮ってたのだと思い知った。
「皆さんが蚊帳の外になっている情報、全て答えて差し上げます。鬼、呪術師、封印、“白面金毛”、何でもです」
「「「「……………」」」」
この時、“固有秘術”にて生徒会室を覗いていた梓も、気づけば会話へと引き込まれている。
覗かれていると知った上で、このタイミングを狙ったとしか思えない。あり得ないことに目が合い、梓に手を振っているのだから。
橘花院士緒はいとも簡単に、この場の空気を掌握してみせた。
欠片も信用されていない筈なのに、誰もその誘惑に逆らえない。悪魔のような男だった。
うん遊び過ぎだね、文章




