↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/18

第十七章 出していない宿題

周明遠の死から三日後、遺品が研究室に届いた。


箱二つ。一つは本、一つは紙。


学院の者は言った。これは彼が前もって書いていた遺言にあった、と。


「すべて古代文化研究室に渡す。見習い陳臨が整理する。」


これも、前もって書いてあった。


二つ目の箱の中に、蝋で封をした冊子があった。


蝋には印が一つ。学院の印ではない。僕の見たことのない印でもない。


二文字。


A.D.


蝋を割った。


一頁目は白紙。


二頁目は白紙。


三頁目から、名簿が始まる。


---


名簿ではない。


統計表だ。


列は:氏名 · 身分 · 最終記録時刻 · 記録状態


一行目:林敬山


身分:北境第四哨所・隊長

最終記録時刻:七四二年冬月初五

記録状態:別冊


二行目:陳遠志

身分:源橋学院古代文化研究室・研究員

最終記録時刻:七四二年冬月初七

記録状態:原冊


三行目:蘇懐瑾

身分:同上

最終記録時刻:七四二年冬月初七

記録状態:原冊


四行目:


ルナ・フリエル


身分:王都観測台・四代目

最終記録時刻:――

記録状態:生成待ち


---


僕はそこに座ったまま、長いこと動かなかった。


「生成待ち」の三文字を、何度も見た。


それは「記録なし」ではない。


**「まだ記録が始まっていない」**ということだ。


つまりこの表では、ルナの死亡時刻は空欄だ。


彼女が死なないからではない。


まだ書かれていないからだ。


---


冊子の最後に、周明遠が書いた一頁がある。


学者の字ではない。


人間の字だ。


「私は一生、人を教えた。実験をやめる方法を、一人も教えられなかった。」


「陳臨。君は私より計算ができる。」


「君が学ぶべきは、自分を計算に入れないことだ。」


「だが、君は入れるだろう。」


「私と同じだから。」


---


その晩、五人が最後に同じ机を囲んだ。


机の真ん中に地図が一枚。北境。その上に三つの丸:土手、穴、灰谷。


「明日、発ちます」と僕は言った。


「どこへ?」


「王都」


誰も驚かなかった。


「周明遠教授の遺品に、一文あった」と僕は言った。「『デリルス家の者は、源橋にい

ない』」


「では、王都で誰に会う?」


「エイドラー・デリルスに」


僕は少し間を置いた。


「もう一つある」


「この表に、ルナの名がある。記録状態は『生成待ち』」


誰も何も言わなかった。


「だから彼女は今、一番安全で、一番危ない」


「なぜ安全なの?」とマティルド。


「誰かが彼女に何かをさせて、その行を埋めるのを待っているからです」と僕は言った

。「埋まるまでは、死なない」


ルナは一番端に座っていた。


ずっと何も言わなかった。


そして言った。


「私も行く」


---


その晩、僕たちは多くのことを話した。


**嬴倩は残る。**家族が一人もいない。档案室が唯一の居場所だ。彼女は言った。「あ

なたたちは行く。私は残る。記録を残す人間が、必ず要るから」


**マティルドは残る。**スケーラー家の名で、学院側の追及を塞ぐ。代償は、家との関

係が正式に裂けることだ。


希捷莉卡は家に帰る。父と話をつける。出る前に、新しい星位図を一卷くれた。「今度

は君にあげるんじゃない」と彼女は言った。「王都にあげる。着いたら観測司という場

所を探して、これを渡して。向こうは読める」


**林新年は王都へ。**理由は父がそこにいること。本当の理由は別だ。


別れる時、彼が呼び止めた。


「陳臨」


「はい」


「祖父の名が、あの表にあった」


「知ってます」


「僕は一人に聞きに行く」


「誰に?」


「父に」


---


僕は源橋に五月十六日までいた。


その朝、最後に研究室に入った。


僕の机はあの隅にある。上には白紙と筆。初日に林新年が整えてくれた場所だ。


僕はその白紙の束を取った。


二年、一枚も使わなかった。


ずっと他人の紙に書いていた。


僕は一番上の一枚に、最初の一行を書いた。


『神隕処生態と異族起源研究・第一号ノート』


記録者:陳臨


開始日:七五二年五月十六日


状態:進行中


備考:第一号サンプル、未定。


書き終えて、筆を置き、出た。


僕は十二歳。


正式入学はしていない。


源橋学院史上、最も早く去った見習いだ。


---


里門の外で、ルナが待っていた。馬を二頭引いている。


「荷物は?」


「ここに」と僕は懐を叩いた。


「それだけ?」


「それだけ」


僕たちは馬に乗った。


しばらく行って、彼女が急に言った。


「周明遠教授は、なぜ両親の名の後ろに、あの四文字を書いたんだと思う」


「どの四文字?」


「『記録状態:原冊』」


僕は長く考えた。


そして言った。


「誰かが二人の名を、別の冊に書いたからです」


「そして彼は、原冊の中で二人が一度も動かされていないと、僕に伝えたかった」


ルナはしばらく黙った。


「それが何を意味するか、分かる?」


「分かります」


「両親は一度も『死』と書かれていないということです」


「ただ『存在しない』と書かれただけだ」


僕たちは北へ進んだ。


風は北から来る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。