第9話 俺、巨人のお姉さんと旅に出る
7日後、朝。
ガルガンの門の前に、俺とリュネは立っていた。
そして、バルドが俺に延々と話しかけてくる。
「水は持ったか」
「持ちました」
「食料は」
「こんなにあります」
「リュネから離れるな」
「はい」
「迷子になったら…」
「あの、もう、大丈夫です」
「大丈夫じゃない、もう一度確認し」
「大丈夫です」
バルドはなおも心配そうだった。
俺とリュネは、キリがないと判断し、さっさと門の方へ歩いた。
「では……行ってきます。父上」
「……ああ」
バルドはしばらく娘を見ていた。
「リュネ」
「はい」
「不測の事態があったら、すぐに戻れ」
「はい」
「……良い旅をな」
「……はい!」
リュネの返事を聞いて、バルドはうん、と頷いた。
そして、俺に向き直った。
「ナオト」
「はい」
「………ほんとにお水持ったか?」
「ナオト、行きますよ」
「はい」
俺はこうしてガルガンに、しばしの別れを告げた。この旅の先に待つ事態を……俺はまだ、甘く見ていた。
***
「疲れたら、ここへどうぞ」
旅が始まるなりリュネは、ポンポンと、自分の肩にかけた、緑色のポシェットのようなものを叩いてみせた。
「……何ですこれ」
「移動用の鞄です」
「……移動用?」
「はい。ここの上から顔を出せます。あと、傍にポケットもつけたので、ここに水とか入れれますし……」
「待って待って、そもそも誰の?移動用?」
「そりゃあ……ナオトの移動用です」
ガルガンというのは、巨人の国である。巨人の国であるからして、道はそれ用になっている。面積も、それ用になっている。
今回の旅は、巨人の足では、丸3日あれば大丈夫という距離らしい。だが、俺の歩幅では、なかなか厳しい旅になるのは目に見えていた。
それを見越してか、リュネは移動手段を用意してくれたというわけだ。
ありがたい。
とってもありがたいのだが。
巨人お姉さんの小脇のポシェットに入って、顔だけ出している成人男性。ぶっちゃけ、絵面が相当キツい。
「俺、ハムスターじゃないんだよ、成人男性だよ」
「ナオトが気に入っていた座布団と、同じ生地で作りました!」
「あーだから緑……」
「中に布も敷きましたから、ふかふかですよ」
リュネの鞄を見るに、少し縫い目がほつれているところもあった。きっと、俺が過ごしやすいように、座布団の布地から一生懸命手作りしてくれたのだろう。
それを無下には……できなかった。
「あの……とっても、嬉しいです」
リュネは嬉しそうに笑った。
「では早速……」
「……あ、もう少し、歩きます」
俺は少しだけ意地を張った。
***
ガルガンを出て、一時間。
特にトラブルもなく、首都らしき街をを抜け、だだっ広い旅路を進んだ。
「ここから先はあまり土地勘がないので、一旦、位置を確認しましょう」
リュネが巨大な紙を広げた。
「あの、ちょっと見せてもらっていいです?」
「もちろん」
俺はリュネの手を伝って膝に乗せてもらい、地図を覗き込んだ。
「……」
カッコつけたものの、全くわからない。
Googleマップじゃないと、もう、どこが北でどこが南なんだかすら、わからない。
「……」
「私が読みますよ」
「ゴメンナサイ」
俺は情けなくうなだれた。
そして、リュネが地図上の一つの点を指差した。
「現在地がここで……」
そして、鞄からコンパスのようなものを取り出して、次に、辺りを見渡した。
「ええと、ここから先は……」
そして、地図に視線を戻す。
「こっちをまっすぐですね!」
リュネが地図上で指差した道には、やばそうなマークが沢山書かれていた。
ドクロマークとか、なんかケルベロスみたいなのとか、でかい岩とか、変なキノコのマークとか、あと、ドクロマークとか。
行く先の道に、ほぼ隙間なく、びっしり書き込まれていた。
「……え、ここ行くの?」
「東方への近道です」
「マーク多すぎて絵しりとりみたいになってるけど。え、ここ?」
「この道を急げば、余裕を持って宿場街に着きます!」
「遠回りでもいいから他の……」
「これくらいなら大丈夫ですよ」
「今、これくらいって言った?」
リュネは、地図を畳んで、そして緑色のポシェットを開いた。
「ここから先は、入っててくださいね!」
俺は大人しく、ハムスターになった。




