第5話 俺、ギャル人魚に遊ばれる
何やかんやお世話されながら、数日が経った、ある日のこと。
朝、俺が人間用の小さな机でパンを齧っていると、バルドがやってきた。
「人間よ」
「おはようございます」
「話がある」
バルドの後ろにはリュネもいる。二人とも妙に真面目な顔をしていた。
俺は一旦、パンを置いた。
「……神の国に行く方法、分かった……とか?」
「いや」
バルドは首を横に振った。
「だが、関係はなくはない。今、人魚族の使者が来ている」
「人魚?」
思わず聞き返した。
人魚。
上半身が人間で、下半身が魚。
俺の知識が正しければ、そういう生き物である。
「人魚って、あの人魚?」
「お前の知る人魚がどのようなものかは知らぬが、水に生きる種族だ」
「上半身、人間っぽいです?」
「よく似ている」
「おお……」
初めて、まともに話が通じそうな種族が来た気がする。
巨人族はいい人たちだ。
いい人たちではあるが、何をするにもサイズが違いすぎる。
人魚なら、もしかすると俺と近い大きさかもしれない。
「それでな」
バルドが続ける。
「向こうも、お前に興味を示している」
「なんで?」
「珍しいからな」
「珍獣扱いされてるもんなあ……」
俺は少し遠い目をした。
昨日から、自分の価値が珍獣方面にばかり上がっている。
バルドは神妙な顔で続けた。
「人魚族の海域には、古代の遺跡が眠っている」
バルドのその言葉で、少しだけ姿勢を正した。
「古代の……?」
「ああ。その、テンセイとやらに関係があるかはわからないが……」
「手がかりが、あるかもしれない?」
「その可能性はある」
なら、行かない選択肢はなかった。
***
人魚族の使者は、俺が目覚めた神殿っぽいところに来ているそうだ。初日に見た噴水は、海と繋がる転移ポートということだった。
なんでもガルガンは大昔から、人魚の国とは良好な関係らしい。
縁まで近づくと、青く澄んだ水の中を大きな影が横切った。
「……でかくない?」
「そうですか?」
隣にいたリュネが答える。
「いや、人魚ってもっとこう……俺くらいかと思ってた」
「大体同じくらいですよ?」
「巨人からすればそうか……」
その瞬間、水面が大きく盛り上がった。
「うわっ」
ざあっと水しぶきが上がり、俺は反射的に後ろへ下がる。
水の中から、一人の女性が姿を現した。
金髪の長い髪。
健康的に焼けた肌。
耳には貝殻みたいな大きな飾りがいくつも付いている。
上半身だけを見れば、確かに人間の女とほとんど変わらない。
…というか、印象としては、ギャルだ。
懐かしの、平成ギャルだ。
ただし。
やっぱり、でかい。
俺より、2回りは……でかい。
「えっ!」
人魚ギャルが俺を見つけた。
「ちっちゃ!」
「またか」
「え、待って待って! 本当に人間!?」
「そうらしいです」
「やば! 初めて見た!」
急にテンションが高い。
人魚は水際まで泳いでくると、両手を縁についた。
その爪は長く、さすがにネイルこそしていなかったが、白く、長く、そして先端が鋭く尖っていた。
ギャル人魚の顔がぐっと近づく。
「なにこれ、かわいー!」
「なにこれって言った?」
「手ちっちゃ! 足も細っ!」
「……それはどうも」
「ねえリュネ、触っていい?」
「だめです」
リュネが即答した。
「えー!」
「危ないので」
「つっつくだけだよぉ!」
「つっつかれたら、どうなりそうです?ナオト」
「少なくとも血が吹き出ます」
「ですって」
「そんなに柔らかいの!?ウケるー」
ギャル人魚はケラケラ笑った。巨人族が割とゆっくり喋る人が多かったので、ギャルのスピードとテンションに圧倒されるばかりだった。
「まーいーや。あたし、ミーナ。よろしくね、人間くん」
「は、はい、どうも」
「名前とかあんの?」
「佐久間直人です」
「ナオトね!よろしくぅー!」
ミーナはハイタッチを求めてきた。俺はおそるおそる、手のひらをちょんと触った。
「かわいい……」
なぜかリュネが萌えていた。
ミーナはまたケラケラ笑って、水にぽちゃんと入った。
そして岸から少し離れた場所から、再び顔を出した。
「じゃ、そろそろ行こ!」
「どこに?」
「え?海底遺跡見にいくんじゃないの?」
ミーナがきょとんとした。
「水の中で息はできません」
ミーナが固まった。
「え、じゃあ、どれくらい息止められるの?」
「一分くらい?」
「短っ!」
「人間ならそんなもんです」
ミーナは信じられないものを見るような目で俺を見た。
「えー……人間って大変……」
「昨日も似たようなこと言われたな」
ミーナはにこにこと俺を眺めた。
「ま、大丈夫っしょ!」
「話聞いてました?」
「息できるようにすればいいじゃん」
あっさり言われた。
ミーナは自分の髪をかき上げる。
「あたしたち、水を避ける術くらい使えるし。泡の中に入れとけば平気じゃない?」
「そんなシャボン玉みたいな状態で海に連れていかれるの嫌だな」
「大丈夫大丈夫!たぶん!」
「たぶんはやめて……」
ミーナは笑った。俺はめちゃくちゃ不安になった。
俺が迷っていると、リュネがミーナに聞いた。
「ミーナさん。その遺跡っていうのは、どんな感じのところなんですか?」
「えーとね、なんか、丸っぽい、模様?みたいなのが書いてあるの」
丸、模様。
俺は自然と、転移ポート的な物を思い浮かべた。
「見に来るでしょ?」
ミーナは俺に向かって笑った。
俺はここに来て初めて、それっぽいヒントが見つかる予感がした。
俺は意を決した……ついでに一応、聞いた。
「ちなみに」
「ん?」
「その泡って、安全なんですよね?」
「たぶん!」
「だから、たぶんはやめて!」




