第4話 俺、巨人のお姉さんに膝枕される
俺は巨人族の城の中の、貴賓室に招き入れられた。そして、その地点でもう、体力が尽きた。
というのも、移動するために「抱っこしますよ」とか言われたが、めちゃくちゃ怖かったので、頑張って歩いた。
しかし、とにかく、全てがでかい。それだけ道も広く、移動距離が長いということだ。
リュネはズシン、と少し歩いては、俺を振り返って、追いつくのを待ってくれた。
「ゆっくりでいいですよ」
「すみません、チビで……」
「……かわいい」
「え?」
「何でもありません」
こんな調子だった。リュネは終始ニマニマしていた。
やっとのことで貴賓室に到着したものの、赤い絨毯の大地、巨大な建造物のような椅子を見て、途方に暮れた。
リュネはそんな俺を見るなり、深緑色の、巨人用の座布団みたいなものを用意してくれた。
俺でもよじ登れる高さだし、表面も程よくふわふわで歩きやすい。
俺はとりあえず、座布団の真ん中にあぐらをかいておくことで、ようやく落ち着けた。
いよいよ猫の気持ちがわかってきてしまった。
これは、なんか、地面も近いし、真ん中が窪んでて落ち着くのだ。
リュネは着替えも用意してくれた。
用意されたのは、白いチュニック風の上衣に、ゆったりしたズボン。それから、柔らかそうな革靴だった。
どうやら王家に来客があった時のために用意されている、他種族向けの服らしい。
着てみると、サイズは少し大きいくらいだった。まあ、RPGで最初の村にいる村人Aという感じの服だ。
とりあえず、窮屈なスーツを脱げたのは嬉しかった。
それからリュネは、俺に話しかけてきた。
「暑くありませんか?」
「大丈夫です」
「寒くありませんか?」
「……大丈夫です」
「湿度は」
「大丈夫です」
リュネは事あるごとに心配して話しかけてくる。
俺はそこまで他人に気にかけられる事も普段ないので、落ち着かなかった。
そのとき。
ぐう
腹の虫が鳴った。
大きめに。
リュネは、はっとして青ざめた。
「い、い、い、今のは……!?」
「いや、腹減ってるだけです」
リュネはほっとした顔をして、すぐに食事を用意してくれた。
本日のメニューは以下である。
•シングルベッドくらいある肉(なんの肉だよ)
•サラダ(ほぼ森)
•スープ(ほぼ湖)
•パン(ほぼ岩)
「ええと……とってもありがたいですが……まず、パンはこれくらいで大丈夫です」
端からパンをひとかたまり千切る。
「それだけ?」
「はい」
パンを一口かじった。少し固めの本格的なタイプだったので、なかなか飲み込めなかった。
ひたすらモチャモチャ噛んでいると、リュネがじーっと見てくる。
何だかものすごく嬉しそうだ。
ずっと見られて落ち着かなかったが、俺はありがたく、たらふく頂いた。
***
食事が終わる頃には、どっと疲れが出てきた。
考えてみれば当然だ。
転生してチート貰えたと思ったら事故に遭ってて、おっさん巨人に拾われ、持ち上げられ、死ぬほど歩き、巨人美女にお世話され。
一日分どころか、一年分くらい疲れている。
俺が大きく息を吐くと、リュネが顔を覗き込んできた。
「疲れましたか?」
「まあ……たぶん寝不足です」
リュネは辺りを見回す。
「困りましたね……ちょうどいい寝床が……」
「座布団でいいですよ、落ち着くし」
「だめですよ、お客様にそんな」
リュネは少し考えたあと、その場にそっと腰を下ろした。そして、脚をゆっくり横へ流して座ると、自分の太腿を軽く叩いた。
「こちらへ」
「はい?」
「横になってください」
「……どこに?」
リュネが自分の膝を指す。
俺は見上げた。
なだらかな布地の丘が二つ、目の前にある。
「…………」
膝……。
これ、膝だ。
十五メートルある綺麗なお姉さんの、膝。
「いやいやいやいや」
「どうしました?」
「それはちょっと」
「硬くありませんよ」
「硬いとかそういう問題じゃなくて」
「疲れているのでしょう?」
「まあ……」
リュネが首を傾げる。
というより、お客様を座布団で寝かせるのは嫌がるのに、膝枕はいいのかよ。もしかすると……。
「嫌ですか?」
膝に乗せたかったりするのだろうか……。
なんて、調子に乗ってきてる自分に寒気がしてきた。
ちなみに、そりゃ、
「嫌では……」
ない。
それが困る。
俺、独身、三十一歳。彼女いない歴イコール年齢。
女性に膝枕をしてもらった経験など、当然ない。
それが転生初日に、十五メートルの美女相手に実現しようとしている。
「落としませんよ」
リュネがそっと手を差し出した。
「乗れますか?」
「……自分で行きます」
巨大な手を足場代わりにして、恐る恐る膝へ上がった。
高くて怖いが、リュネは俺が転ばないように、もう片方の手を壁のように添えてくれている。
「ゆっくりで大丈夫ですよ」
「どうも……」
やがて太腿の上に辿り着き、横になる。
「…………」
柔らかい。
温かい。
巨大すぎるせいで膝枕というより、ものすごく上質なベッドに寝ている感覚に近かった。
「どうです?」
「……思ったより、快適です」
「よかった」
リュネが嬉しそうに笑う。
その顔が、ずっと上の方にある。
信じられないくらいに綺麗な顔が、月明かりに照らされていた。
女神様みたいだ。
見たこともないのに、俺はふと、そんなことを思った。
「…………」
「どうしました?」
「いや」
俺は目を閉じた。
「異世界、悪くないかもしれない」
「何か言いました?」
「何も」
頭の上を、リュネの指先がそっと撫でた。
人差し指一本なのに、俺の頭がほとんど隠れる。
「ちょ」
「痛かったですか?」
「いや……大丈夫です」
「よかった」
もう一度、今度はさらに優しく撫でられる。
「…………」
これ……完全に猫だ。
でもまあ……今日はもう、猫でもいいかもしれない。
諦めて目を閉じると、眠気が一気に押し寄せてきた。
「おやすみなさい、人間さん」
「名前あるんですけど……」
「では、教えてください」
「……佐久間 直人……」
そこまで言ったところで、意識が落ちた。




