第3話 俺、巨人にお世話されることになる
女巨人リュネは、しゃがみ込んだまま、俺の方にぬっと手を伸ばしてきた。
すると、バルドがすぐさま静止した。
「リュネ、触れるでないぞ」
「なぜです?」
「ちょっと握っただけで死ぬそうだ」
「……本当に脆いのですね」
リュネは興味深そうに俺を眺める。
「指も爪もこんなにちっちゃい……」
整った顔が、すぐそこまで近づいてきた。大理石みたいに白く透き通った肌から、ふわりと甘い香りがする。
「かわいい……」
なんと答えればいいのか分からなかった。
とりあえず、話が通じそうだったので、二人に事情を説明してみることにした。
「あの……俺本当は、最強チート転生者のはずで……あの、転生するときに、事故に遭って」
「チート?」
「テンセイ?」
二人の巨人は顔を見合わせた。どうやらその辺のことはわからないようだった。
「つまりその……本来神様から授かるはずの能力?が、無い状態なんです」
「神様……」
バルドは口髭を触りながら、何か考えていた。
「確かに、お前が目覚めた大神殿の遥か上空には、神の国があるとされている。我が一族は、その門の守人でもあるのだ」
「な、なら!神の国に送り返してくれませんか!?」
「……いや」
バルドは首を横に振った。
「実のところ、祭事が残っているだけだ。神の国と繋がれるかどうか…はたまた、本当なのかも、わからん」
「祭事……」
「お祭りだ」
ちょっと嫌な予感がした。
「なんか……その、お祭りでは、天とつながる儀式とか……お祈りとか、するんですか?」
すると、リュネが答えた。
「するにはしますけど……みんなで輪になって踊ったりとか」
「はあ」
「あと、屋台が出ます」
すると、バルドも口を挟んできた。
「美味いぞ〜、ビールとか、クラーケン焼きとかな」
「父上、そればっかりですね」
うふふ、と親子は笑い合った。
俺は絶望した。
「いや、俺の地元の祭りと同じテンションーーー!!!」
終わりだ。この国の祭事、神の国とかに行けなさそうな感じだ。
メソメソ泣いていると、バルドが威厳たっぷりに話しかけてきた。
「大丈夫だ。お前は……我が守る」
「え?」
「貴重な人間族だ。神の国が見つかるまでの間、我が国で責任を持って保護する」
リュネは頷く。
「では、部下に伝えておきますね」
「それはならぬ」
即答だった。
「なんで?」
バルドが黙った。
リュネがその顔をじっと見る。
「……自分でお世話したいのですか?」
「違う」
「ではなぜ?」
「他の者は、人間の扱いに慣れておらぬ」
「父上もでしょう」
「…………」
「ぐうの音も出てないじゃん」
バルドは大きく咳払いした。
「とにかく。我が守ると決めた」
「父上、ちゃんとお世話できるのですか?」
「できる」
「食事は?」
「用意させる」
「踏まない?」
「踏まぬ!」
なんだろう、この会話。ものすごく既視感がある。
少し考えて、気づいた。
これ、あれだ。
子供が猫を拾ってきちゃった時の家族会議だ。
……いや、この場合、親父か。
「……あの、俺、猫じゃないんですけど」
「ネコ?」
「いや、なんでもないです」
その時だった。
ズシンズシンズシンズシンと地面が揺れた。
遠くから、また別の巨人が慌ただしく駆け寄ってくる。
「王!」
バルドが振り返った。
「何事だ」
「北門より使者が到着しました。王のお耳に入れたいことがあると」
バルドが露骨に嫌そうな顔をした。
王様にも仕事というものがあるらしい。
「だが……人間が」
「王。私が見ています」
バルドがリュネを見る。
「……絶対に目を離すな」
「はい」
「高い場所には近づけるな」
「はい」
「それから――」
「王」
リュネが笑顔のまま遮った。
「大丈夫です。ちゃんとお世話しますから」
バルドはなおも不安そうに俺を見る。
「……必ず戻る」
「いや、仕事ゆっくりしてきてください」
バルドは何度もチラチラこちらを振り返りながら、使者と共に巨大な柱の向こうへ消えていった。
地響きが少しずつ遠ざかっていき、やがて、静かになった。
俺は残されたリュネを見上げる。
リュネも俺を見下ろして、にっこり笑った。




